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第1章:いつも通りの朝といつもの三人 ②

陽葵と並んで歩く通学路は、朝の光に包まれていた。住宅街を抜ける細い道には、登校する小学生たちの元気な声が響き、時折、通勤途中の社会人たちが足早にぼくたちの横を通り過ぎていく。陽葵の手に握られたぼくの指は、まだほんのりと温かかった。


「ねぇ春斗、今日の数学の授業、小テストあるの知ってる?」


陽葵が唐突に尋ねてきた。ぼくは少し考えてから、首を横に振る。


「え、そうなの?全然知らなかった…」

「もう!ちゃんと連絡事項見てる?ほら、この前配られたプリントに書いてあったでしょ?」


陽葵は呆れたように言いながらも、ぼくの顔を心配そうに覗き込む。

「また春斗だけ、忘れ物するんだから。全く、私がいなかったらどうするの?」

そう言って、彼女はクスッと笑った。三人でいる時はツンとした態度を取る彼女だが、二人きりの時はこんな風に、心配と優しさが入り混じった表情を見せてくれる。ぼくの世話を焼くのが、彼女にとっての当たり前の日常なのだろう。


「ごめん。助かるよ」

「いいの!私が春斗のお世話するのは、当たり前なんだから」


彼女は誇らしげに胸を張った。その仕草が、幼い頃から変わらない陽葵らしさを象徴しているようで、ぼくは思わず頬が緩む。ぼくにとって陽葵は、空気のように当たり前に傍にいる存在だ。けれど、その「当たり前」がどれほど尊いものなのか、ぼくは時折、ふと考えることがある。


やがて、開けた視界の先に駅のホームが見えてきた。通勤・通学時間帯とはいえ、この時間帯は比較的落ち着いていて、ホームにはまばらに人がいる程度だ。自動改札を通り、階段を上がる。


しかし、いつも待ち合わせている場所には、健太の姿がなかった。


「また遅刻…」


陽葵が眉をひそめ、ため息をついた。


「ほんと、時間にルーズなんだから」


ぼくは苦笑いしながら、ベンチに腰を下ろした。陽葵は腕時計を何度も確かめ、そのたびに小さく舌打ちをする。


五分ほどして、階段の下から慌ただしい足音が響いた。


「おーい!待たせた!」


振り向くと、息を切らせた健太が階段を駆け上がってくるところだった。制服のシャツの裾は少し出ていて、髪も寝ぐせが残っている。


「健太!おっそいよ、あんた!」


陽葵が声を張り上げると、健太はハッと顔を上げ、申し訳なさそうに笑った。


「悪ぃ悪ぃ!目覚まし止めたまま二度寝してた。ダッシュで来たんだって!」


彼は立ち止まり、肩で息をしながら頭をかいた。その視線は一瞬、ぼくと陽葵の間を彷徨い、それからすぐに陽葵へと向けられた。


「お前こそ、集合時間にはまだちょっと早いだろ。別にいいじゃねぇか、別に」


健太はそう言うが、その声にはいつも通りの乱暴さの中にも、どこか気まずげな響きがある。陽葵はそんな健太の態度に、眉をひそめた。


「何よ、別にって。あんたが遅刻常習犯なだけじゃない。私たちが待っててあげてるんだから、感謝しなさいよね」


ツンとした陽葵の言葉に、健太は「へいへい」と肩をすくめた。彼らの間に流れる、いつも通りのやり取り。幼い頃からずっと見慣れた光景だ。けれど、ぼくは知っている。健太が陽葵を見るその視線の奥に、ほんのわずかな切なさが混じっていることを。


「で、今日は何時に電車来るんだ?」


健太が駅の電光掲示板を見上げながら尋ねた。彼の視線は陽葵には向けられていない。陽葵もまた、そっぽを向いている。


「あと三分で来るよ。ほら、ちゃんと確認しとけって言ってるでしょ」


陽葵はスマホを取り出し、時刻表アプリの画面を健太に見せる。健太はそれを覗き込みながら、「おお、すまねぇな」と頭をかいた。

三人での関係性は、いつもこんな風だ。陽葵は健太に素っ気なく、健太は陽葵の言葉に一喜一憂しつつも、表面上は取り合わない。そして、ぼくはいつもその真ん中で、二人のやり取りを静かに観察している。


やがて、遠くから電車の接近を告げる音が聞こえてきた。線路の向こうから、銀色の車体がゆっくりと姿を現す。いつもの電車、いつもの通学路、いつもの三人。何気ない一日が、また始まる。


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