エピローグ:放課後のひだまり散歩
学校の放課後、廊下にはまだ誰もいなくて、夕暮れの光が窓から差し込んでいた。ぼくは陽葵と一緒に校舎の外へ歩き出す。手をつないでいるわけではないけれど、自然と肩が触れる距離を保ちながら歩く。
「ねえ、春斗」
「ん?」
「放課後のこの時間って、なんだか特別だよね」
陽葵が少し照れた声で言う。頬が赤く染まっていて、夕日の光に映えるその表情が、とても愛らしかった。
「うん、なんか、いつもよりゆっくり歩いてる気がする」
「そうそう!歩いてるだけなのに、楽しいんだよね」
彼女が小さく笑うと、ぼくまで自然に笑みがこぼれた。
校庭の脇を通り抜けると、風がそっと吹いて、陽葵の髪を揺らした。ぼくは思わず手を伸ばして、ふわりと髪を耳にかけてあげる。彼女は軽く笑って、ありがとう、と小さく囁いた。
「春斗って、こういうの、慣れてるの?」
「え?」
「髪とか触るの、自然にできるっていうか……なんか、優しいんだよね」
「いや、慣れてないよ。ただ……触れたくなっただけ」
ぼくは少し照れながら答えると、陽葵は頬を赤くして、少し目を逸らす。その仕草が、なんだか嬉しかった。
途中で見つけた小さな公園のベンチに二人で腰を下ろす。地面に落ちる夕日の影が、二人を包み込むように柔らかいオレンジ色に染める。
「春斗ってさ、いつも観察してるけど……こういう何でもない時間も、ちゃんと覚えてるんだね」
「うん。覚えておきたいと思ったんだ。陽葵と一緒の時間は、全部大切だから」
陽葵の手がぼくの手にそっと重なる。軽いけれど、確かな温もりが伝わってくる。
「ふふ、ありがとう……春斗」
「ん、どういたしまして」
二人で笑い合いながら、ぼくたちはしばらくベンチに座って、風と夕日と、穏やかな空気に包まれた。
「ねえ、明日も、放課後、少しだけここに来ない?」
「もちろんだよ。二人で、こんな時間を過ごそう」
ぼくが頷くと、陽葵は満足そうに笑った。小さくて、でも確かな幸せの約束が、そこに生まれた瞬間だった。
陽だまりのような放課後。ぼくたちは、手をつなぎ、笑い合いながら、ゆっくりと帰路についた。どんなに日常が忙しくても、二人で過ごすこの小さな時間は、ずっと続いてほしいと、心の奥で思った。




