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第7話「偉大なる王妃マリアンジェラ」

マイケルとジュリアは王妃マリアンジェラの実の子ではない。産みの親はすでに他界している。


マイケルが14歳になったばかりの頃、当時の王妃は病死した。ジュリアに至ってはまだ4歳であった。


悲しみに暮れる二人の世話役に王妃の部下であったマリアンジェラが任命される。


マイケルとジュリアを我が子のように可愛がり、献身的に育てた。


その働きが評価され、臣下達からの推薦により、マリアンジェラは王妃となる。


それから2年の月日が経ち、マリアンジェラは身籠(みごも)った。


懐妊の知らせで国中が祝福に包まれる中、王室専属の教育係トーマス=パターソンは前日に行った歴史の授業をふと思い出した。


***


遠い海の向こうの国でのこと。


王妃が不慮(ふりょ)の事故で命を落とした。


新たに王妃となった魔性の女は王を(たぶら)かし、先代王妃の子を退けた。嘘八百を並べたて、身辺を自分の味方だけで固める。


王の死後、先代王妃の子は激しく反発し、聞くに()えない醜い争いが始まる。


やがて国民の心は離れ、政治が立ちゆかなくなり、国は滅びた。


***


腹違いの王子達により臣下がいくつかの派閥(はばつ)に分かれ、国が二分される――。


そんな未来像が一瞬、トーマスの頭をかすめた。


しかし、我が国に限ってそんなことが起こるはずはない、くだらない妄想だとトーマスは断じた。


だが、マリアンジェラの子、第二王子が生まれた後、その妄想は現実のものとなってゆく。



慣習に従えば、先代王妃の子である第一王子マイケルが世継ぎになるのが筋である。しかし、マイケルは飲み込みが遅く、何事も投げ出しがちだった。


それに対し、マリアンジェラの実子、第二王子ジョンは天賦の才を持っていた。


1歳で言葉を覚え、2歳で読み書きと足し算、引き算を習得。3歳でピアノを弾き始める。


その後も次々と天才性を発揮していく。


そして、誰に対しても礼儀正しく接する姿から、将来は相当な人格者になるだろうと言われていた。



正統後継者だが才に欠ける第一王子、天賦の才を持つ第二王子、どちらが王に相応しいかで意見が割れ、二つの派閥(はばつ)に分かれるのは必定だった。


事あるごとに臣下達はぶつかり、(いさか)いが起きる。


ついに侍女ですら二つの派閥(はばつ)に分かれ始めたが、侍女頭(じじょがしら)だけは中立の立場を保とうとした。


しかし、中立の侍女頭であっても、王国の未来のためにも第二王子を王にすべきではないか、王妃は早くから手を打つべきではないか、そんなことを考えてしまう日もあった。



事態を見かねたトーマスは王に判断を仰ぐことにした。


「恥ずかしい話ですが、臣下達がいくつかのグループに分かれつつある、と言いますか、何というか……」


話を切り出したものの、歯切れが悪く、目は泳いでいる。


すると、王が助け舟を出す。


「第一王子、第二王子どちらが王にふさわしいかという派閥(はばつ)争いだろう?」


「ご存知だったのですね」


派閥(はばつ)が出来始めた頃から、動向を気にかけていた」


「ご心配をおかけしてしまい大変申し訳ありません。

今や、侍女すらも派閥(はばつ)に分かれ始めました。

いかがなさいますか?」


「放っておけ。手を打つ必要などない」


王の意外な返答にトーマスは困惑する。


「しかし、このままでは……」


「良いか、トーマス。

派閥(はばつ)争いの中心にいるのは王妃マリアンジェラ。彼女は、この偉大なる大国ローズローズ王国の王妃なのだ。

そして、この王宮に集うは一流の精鋭達。

我が国の王妃と仲間達を信じて、しばし待て。

派閥(はばつ)はいずれ消滅する」


王がそう断じたのには理由があった。


王は知っていたのだ、マリアンジェラの心の内を。



トーマスが王に相談をした数日後、侍女頭は王妃が第二王子に言い聞かせていた言葉を偶然、耳にする。


「先代の王妃は大変立派な方でした。

マイケルお兄様も将来、立派な王となります。

必ずそうなります。

お兄様をしっかり支えなさいね」


マリアンジェラに自らの利得を求める心は微塵(みじん)もなかった。


そして、マイケルのことを誰よりも――。



侍女頭(じじょがしら)は居ても立っても居られず、すぐさま侍女全員を集め、王妃の言葉を伝える。


侍女達は王妃の心の内を知り、己の小さな考えと今までの行動を恥じた。そして、派閥(はばつ)などという無価値な考えを捨てることを決めた。



臣下達にも王妃の想いは伝わり、やがて派閥(はばつ)は消滅してゆく。


そして、臣下達は一つに団結し、誓い合った。


王子マイケルが王位を継承した暁には第二王子と共に王を支え、王国に過去最高の繁栄をもたらすのだと。


そして、マリアンジェラを偉大なる王妃と(たた)えたのだった。



マイケル自身も己を顧みて努力の人となるのだが、それは少し先の話である。

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