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第6話「逆転」

私には何もできないんだ。そんな考えが浮かび、ジュリアの身体から力が抜けてゆく。


しかし、王が退室しようとした、まさにその時


「お待ちください」


(りん)としたマリアンジェラの声が、謁見(えっけん)の間に響いた。


王が足を止めて振り返ったのを確認すると、マリアンジェラはジュリアの元に駆け寄る。


「ジュリア、まだ言いたいことがあるのよね?」


無理です、私には……。


「ゆっくりでいいから、言ってごらんなさい」


ジュリアがゆっくり顔を上げると、そこにはマリアンジェラの笑顔があった。


ジュリアは自然と(うなず)く。そして、(つぶや)く。


「私を……てください」


その声は震えてかすれていたが、小さくとも声が出たことにジュリア自身、驚いていた。


しかし、声があまりにも小さく、肝心なところが伝わらなかった。


「大きな声で、もう一度言ってくれる?」



やめておけ、やめるんだ、ジュリア。その声は口から出ることなく、マイケルの心の内で響く。


彼は手を膝の上で固く握りしめ、妹の行動を押しとどめたい衝動に駆られていた。


ここからの逆転は無理だ。

お前にとって不利な展開にしかならない。

それに、お前が何を言ってもどうせ世界は……。


けれど、その忠告がジュリアに届くことはなかった。


彼女は小さな手でドレスの布をぎゅっと握りしめると、深く息を吸い込んだ。


「私を! 軍人にしてください!

軍人にしてくれないと、お父様にたくさんイタズラします!」


しばしの静寂の後、笑い声が謁見(えっけん)の間に響く。マイケルが堪えきれずに吹き出していた。


「何だよ、お父様にイタズラって!

軍人になる?

いくら何でもそれは……」


そこまで発言し、王とマリアンジェラが真剣な顔をしていることにマイケルは気付く。


「すまない、笑ったりして」


ジュリアがふざけている訳ではないと察し、謝罪した後は黙りこくった。



「ジュリア、あなたは賢い子よ。

きちんと説明できるわ。

少しずつ話してごらんなさい」


そっと背中に温もりが触れる。マリアンジェラが静かにジュリアの背に手を添えたのだ。


ジュリアの鼓動はまだ速い。だが、王の方を向き、一歩だけ踏み出した。


「お父様のおっしゃる通りです。


私は子供です。

世界について何も知りません。

何も分かっていません。


しかし、大切な人を亡くす悲しみは知っています。

だから、世界には笑顔が満ち(あふ)れてほしいと願っているのです。


そして、授業を受け、本を読み、(わず)かですが学びを得ました」


王は再び微笑み、ジュリアの言葉を待つ。


「もし世界が100人の街だったら――。


世界を100人の街に縮めたら、21人はご飯をお腹いっぱいに食べることができず、栄養が足りないそうです。


2人は食べ物を持っておらず、死にそうです。


20人は空爆や襲撃に怯えており、命の危機です。


これが世界だそうです。


私は知りました、自分は本当に何も知らなかったのだと」


ジュリアは拳を握りしめ、唇をかみしめる。


そして、言い放った。


「この世界にわずかでも貢献するため、私は軍人になることを望みます。


そして、世界を平和に導きます。


戦争を終結させ、ネビュラズと平和条約を結ぶ一助となります」



王は腕を組み、ジュリアの真意を問う。


「本気で言っているのだな?」


「私は本気です」


「ネビュラズを倒すとは言わないところが実にお前らしい。


軍人、平和か。興味深い考えではある。


しかし、王女のお前が軍人になるというのは……」


「私を軍人にしてください!

必ずやお役に立ちます!」


自分の考えを述べたことでジュリアの決意は固まった。


誰が何と言おうとも軍人になる。それが彼女の決意だった。



予想外の展開だ。マイケルはいつの間にか背筋を正し、じっとジュリアを見つめていた。


まさか王にとっても予想外のシナリオなのか? この後、一体どうなるんだ?


固く握りしめられた拳には汗がにじみ、次に放たれる妹の言葉をじっと待っていた。


しかし、マイケルの期待とは裏腹に、王を説得するための言葉をジュリアは見つけられずにいた。



すると


「素敵な考えね。

軍人になって戦って戦争を終わらせる。

世界を平和に導くなんて」


マリアンジェラがポツリと呟いた。


そして、王の方を向き、にこりと微笑む。


「しかし……」と王は難色を示す。


「前に言っていたじゃありませんか。

子供達には、運命を切り拓いてほしい、進む道は自分で選択してほしい、と」


王はマリアンジェラを見つめた後、小さく溜息をついた。


「では、こうしよう。

ジュリアに軍事訓練を課す。

期間は10年としよう」


「10年、ですか……?」


「10年経てば、お前は16歳。成人となる。


訓練の内容は年齢相応に調整する。あとは、そうだな……相応しいコーチを手配しよう。


耐え切ったならば戦場に送ってやる」


「10年の、軍事訓練……」


ジュリアは提示された条件を口に出して反芻する。


そして、王の眼を真っ直ぐに見つめる。


「かしこまりました、お父様。

どんな訓練であろうとも耐えてみせます」


その言葉には彼女の強い意志が込められていた。

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