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第20話【番外編】「幼き日のお戯れ」

それは王女ジュリアが軍人を志すより前の話。



赤薔薇の王宮の学習室――。


王室専属の教育係、トーマス=パターソンは本棚の点検をしていた。


「あれ?」


ところどころで本が不自然に抜き取られている。


探し回ったところ、本棚の空いていたスペースにそれらは移動されていた。


「ま〜た姫様のお戯れか?」


こんなことをするのはイタズラ好きの王女ジュリアに違いないとトーマスは確信していた。



まず『Time with You(君と過ごした時間)』が並べられている。


愛する人との限られた時間を描いた長編小説。ジュリアのお気に入りだ。


その隣には

『Hope is Here(希望はここに)』

『Alter Ego(もう一人の自分)』

『Now or Never(決断の時)』

『Kingdom Come(死後の世界)』

などが続く。


『Time with You(君と過ごした時間)』以外はトーマスがジュリアに勧めた本が並んでいる。


「勧められた本を読みましたよというメッセージか?

ん? これは、もしかして……」


本の並びに違和感を覚え、じっと見つめる。


並び替えられた本の頭文字を続けて読むと


Thank you for your support.

(ご指導ありがとうございます)


トーマスへの感謝の言葉になっていた。


「ははは、姫様らしいな」


トーマスは本の並びに気を取られ、後ろから忍び寄る少女に気付けなかった。


少女は一気に駆け寄ると背後から声をかける。


「わっ!」


トーマスはその声に驚き、前のめりに倒れそうになる。


「おっとっと!

ひ、姫様! やめてくださいよ」


「あははは! ごめん、ごめん!

メッセージ気付いた?」


「素敵なメッセージをありがとうございます。

でも、本を元に戻してくださいね」


トーマスは感謝のメッセージに喜びつつも並びを戻すよう指示を出す。


「えー、せっかく並べたのに!」


「ダメですよ、戻してください」


ジュリアはしぶしぶ本を並び替え始めた。


トーマスは手を貸すことなく、書類仕事を始める。


「ねぇ、トーマス、どこから取ったか覚えてないんだけど」


「本はジャンルで分けて置いてあります。

自分で戻せるはずです」


「えっと、えっとぉ……。

ねぇ、トーマス、本が多すぎて目が回った。文字が踊って見える」


「文字のダンス、素晴らしいじゃないですか。

一緒に踊ったらどうですか?」


「もぉー! ちょっとくらい手伝ってよ!」


ジュリアは頬をふくらましていたが、「あっ」と呟くとニヤリと笑った。そして、作業に没頭する。


しばらくして並びを元に戻したとトーマスに告げた。


「できたよ、トーマス」


「終わりましたか、やはり頑張れば一人で元に……あれ?

全然戻ってないじゃないですか。


あれ? これは……」


本は元に戻っておらず、先ほどと並びが微妙に変わっていた。


Thank you for being strict — it works!

(厳しくしてくれてありがとう――効果あるよ!)


頭文字を読むと皮肉を込めたトーマスへの文句になっている。


トーマスの思考は一瞬、停止した。

目は見開かれ、口が半開きのまま動かない。


「あははは、逃げろー!」


ジュリアの声で、トーマスは我に帰り、追いかけ始めた。


「こらー! 待ちなさーい!

廊下を走っては行けませーん!」


「トーマスだって走ってるじゃん!」


二人は全力疾走し、前を歩いていた侍女頭の横をすり抜けていく。


侍女頭は呆気にとられて立ち止まり、二人の背中を見送った。


しばらくして、いつも通りの光景に小さく笑った。


「ふふふ、本当に仲が良いわね」

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