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第14話「説得」

マリアンジェラとジュリアを乗せた黒塗りの車が道路を進む。車の前後には、数台のパトカーが配備されていた。


二人はほとんど会話をせず、それぞれ窓の外を見つめていた。


マリアンジェラの胸の奥には小さなざわめきがあった。指先が冷え、手のひらにじんわりと汗が滲む。


また襲撃されるのではないか、その恐怖と彼女は闘っていた。


大丈夫、きっと無事に帰れる。何度も自分にそう言い聞かせる。


やがて車は王宮の敷地内に入り、玄関の近くに停車した。


車から降りた瞬間、マリアンジェラは思わず呟く。


「良かった、帰って来れた」


そこで緊張の糸は切れる。


「あれ?」


全身から力が抜け、彼女は倒れ伏した。その拍子に薔薇のペンダントは強く地面に打ちつけられる。


駆けつけた侍女達とジュリアによって自室に運び込まれ、そのまま深い眠りにつく。



その夜、マリアンジェラは夢を見た。


王国ホテルの入り口付近に車が止まり、マリアンジェラとジュリアは車から降りる。


次の瞬間、二人は三ツ星レストラン クインテッセンスの席に着いていた。


テーブルに大理石のプレートに盛り付けられた前菜が運ばれる。


「どうぞ、召し上がれ」


マリアンジェラに促され、ジュリアはフォークを手に取る。


オードブルの皿は徐々に空になり、ジュリアはその余韻に浸るように小さく息をついた。


「どうだった?」


「美味しいです、すっごく!

前菜だけで大満足です!」


ジュリアは目を細める。頬が緩み、ほんのりと紅潮する。


「ねぇ、ジュリア、あなたは十二分に頑張ったわ。

もう軍人を目指さなくても良いと思うの。

別の形で世界に奉仕する道があるんじゃないかしら」


マリアンジェラがジュリアにそう告げると、荒々しく店の扉が開けられ、銃を手にしたテロリスト達が入ってきた。


マリアンジェラに拳銃を突きつける。


「王妃マリアンジェラ、我々の要求に従え!」


マリアンジェラがゆっくりと両手をあげると、場面が転換する。


テロリスト達は手錠をはめられ、床に転がっている。ヘルメットを外され、武器は奪われていた。


マリアンジェラは特殊部隊に礼を伝え、他の客達を先に誘導するようお願いする。


特殊部隊はマリアンジェラの元から離れ、彼女の周りには誰もいない状況となる。


突然、テロリストの一人が立ち上がり、叫んだ。


「どうして反乱軍なんて支援するんだぁー⁉︎」


彼女は包丁を手に取り、走り出す。


「お前らのせいでっ!! 母さんはぁー!!」


ジュリアがマリアンジェラの前に走り込む。


そして、王の言葉が脳裏をよぎる。



誰かを守るためならば、お前は命を捨てて盾になる。それしか選択肢がないからだ。


そんなもの、名誉の戦死ではない!

ただの無駄死にだ!



ジュリアは両手を大きく広げ、盾になろうとする。


「駄目よ!! ジュリアー!!」


マリアンジェラは夢の中で力の限り叫び声を上げると目を覚ました。


目を覚ます瞬間、宙を舞うナイフを見た気がした。



赤薔薇の王宮、王妃マリアンジェラの寝室――。


その部屋の中央には、寝台が置かれている。一人用としては途方もない大きさであるが、過度な装飾はない。


マリアンジェラの意識は覚醒していたが、身体は重く、指先ひとつ動かすのさえ億劫だった。


「そっか。私、本当は……」


声はかすれ、喉が乾いていた。頬にかかる髪を払い、何とか起き上がる。


そして、顔を動かし、部屋の壁に視線を送る。重厚な額縁に収められた掛け時計が静かに時を刻んでいる。ゆっくりとまばたきし、針の位置を確かめる。


「もう、夕方……?」


カーテンの隙間から、光がわずかに差し込んでいる。



部屋の隅から寝息が聞こえてくる。首を傾けて肘掛け椅子に目をやると王子マイケルが眠り込んでいた。


マリアンジェラは薄手の毛布を手に取り、マイケルの肩にかける。


「見張り番をしてくれていたのかな?

ありがとう、マイケル」


マイケルは熟睡しており、目を覚ます気配はない。彼の寝顔を見つめ、マリアンジェラは小さく微笑む。



扉がそっと開き、王子ジョンが静かに部屋に入ってきた。


第二王子ジョン=ローズローズ、7歳。マリアンジェラの実子である。


マリアンジェラが起き上がっていることに気付き、ジョンの表情が緩む。口元に穏やかな笑みが浮かぶ。


「良かった、目を覚まされたのですね」


「ずいぶんと心配をかけてしまったわね」


「昨日はあんなことがあったのだから仕方ないですよ。

ゆっくりとお休みください」


「ありがとう。もう大丈夫よ。

ジュリアは、どうしているの?」


「お姉様はおそらく自室で――」


***


ジュリアは机に向かい、羽ペンを走らせていた。やがて手を止め、ふっと息をついた。


紙面には、丁寧な筆跡でびっしりと文字が綴られている。ジュリアは一行一行を指先でなぞり、書き上げた文を見直す。


「よし、これならきっと……」


部屋の扉をノックする音が聞こえ、ジュリアは机に向かったまま「どうぞ」と応じた。


扉が静かに開かれ、マリアンジェラがゆっくりと部屋に入る。


「お仕事中かしら?」


「お母様⁉︎」


母の声に驚き、ジュリアは慌てて振り返った。


「もう大丈夫なのですか?」


「だいぶ良くなったわ。

たくさん心配をかけたわね」


「良かったぁ」


マリアンジェラが微笑むと、ジュリアもそれに応えるように、笑みを浮かべた。


ジュリアは何かを言いかけたが、すぐに口を閉じる。その様子からジュリアの気持ちを察し、マリアンジェラは優しく問いかける。


「何か話したいことがあるの? 相談事?」


ジュリアは深く息を吸い、まっすぐにマリアンジェラの目を見つめた。


「お母様の体調が万全になってから相談しようかと思いましたが……実は、協力していただきたいことがあります」


「何かしら?」


「お父様に昨晩の事件を詳細に報告をし、私を軍人として認めてくださるように説得したいと考えています。

話に筋が通っているか判断していただきたいのです」


マリアンジェラは穏やかな表情を崩すことはなかったが、その言葉を聞いた瞬間、かなりの衝撃を受けていた。



王が語った通りジュリアは盾になるしかなかった。事件を通して彼女には軍人としての適性がないことが証明されたとマリアンジェラは思っていた。


しかし、ジュリアは説得を試みようとしている。ということは――。



「いいわよ、話を聞かせて」


マリアンジェラは、ジュリアの顔をじっと見つめる。

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