第11話「三ツ星レストラン」
世界最高のおもてなしを提供すると評される王国ホテル。
その入り口付近に一台の車が止まる。
運転手が車のドアを開け、ジュリアとマリアンジェラを案内する。
ジュリアは淡いブルーのドレスに身を包んでいる。胸元にはレースが飾られており、歩くたびにスカートの裾が柔らかく揺れる。
マリアンジェラのドレスは深いワインレッド。ネックラインには、いつもの薔薇のペンダントが添えられている。髪はアップにまとめられ、耳元にはダイヤモンドのピアスが輝いている。
ホテルのドアマンがすぐに彼女たちを迎え、一礼の後、エレベーターへと案内する。
向かう先は最上階、三ツ星レストランQuintessence。
照明が煌めき、その光がシャンデリアに反射して店内に広がっている。その光の中に、二人は一歩ずつ足を踏み入れる。
豪華な内装が施された店内にはクラシック音楽が流れ、壁には絵画が飾られている。
ジュリアとマリアンジェラは微笑みを交わしながら、席へと向かって歩みを進める。
席に着き、二人はジンジャーエールとシャンパンで乾杯した。
「あらためて成人おめでとう、ジュリア」
「ありがとうございます、お母様」
ジュリアは少しうつむいてマリアンジェラに問う。
「良かったのですか?
こんな高級なお店に連れて来てもらってしまって」
「いいの、いいの、今日はお祝いの日なんだから。
食後にゆっくりとお父様を説得する方法を考えましょう」
「お母様……本当に、ありがとうございます」
ジュリアは深々と頭を下げた。
二人が向かい合って座るテーブルに、大理石のプレートに盛り付けられた前菜が運ばれる。
ジュリアはその華やかな見た目にしばし見入った。マリアンジェラの「どうぞ、召し上がれ」という言葉に促され、フォークを手に取る。
口に運ぶと、酸味や香ばしさが調和した今までに味わったことのない風味が広がる。そして、マリアンジェラを見つめ、小さく頷いた。マリアンジェラも一口一口、料理を楽しんでいる。
オードブルの皿は徐々に空になり、ジュリアはその余韻に浸るように小さく息をついた。
彼女たちが食べ終わると、数秒もたたないうちに、サーバーが静かに近付く。気配を感じさせない自然な所作で、空の皿を片付ける。皿を重ねる音は一切なく、ジュリアはその手際に感心した様子で見つめている。マリアンジェラもその様子を見て、静かに微笑んでいた。
「どうだった?」
「美味しいです、すっごく!
前菜だけで大満足です!」
ジュリアは目を細める。頬が緩み、ほんのりと紅潮する。
マリアンジェラは何かを言いかけた。しかし、スープが提供されたことで、その言葉を呑み込む。
その時、ジュリアの目がキラリと光り、わずかに口元が上がる。
ジュリアが何か好都合なことに気付いてイタズラを画策しているとマリアンジェラは察知した。
思い返してみれば、出発前も少し時間がかかっていた。何か用意していたのかもしれない。
おそらく、この場の雰囲気を壊すようなイタズラはしない。となると、何かしらのサプライズの可能性が高い。
この店ならば喜んで協力するだろう。次に運ばれるのは魚料理。何か仕込むかもしれない。あるいは最後のデザートやカフェに何か……。
マリアンジェラが考えを巡らせていると、荒々しく店の扉が開けられ、銃を手にした者達が入ってきた。軍人のような服装である。
「動くな! 動くな!」
客と店員に銃を向ける。
マリアンジェラも拳銃を突きつけられる。
「王妃マリアンジェラだな。我々の要求に従ってもらう」
流石に予想外の展開だった。
「えっと……。ジュリア、いくらなんでもこれはやりすぎよ」
いつの間にかジュリアの顔からは笑みが消えている。
「お母様、違います。これは……」
グラスが撃ち抜かれ、破片が弾け飛んだ。ドリンクは飛び散り、テーブルクロスに染みを作る。
撃ち出された弾丸はテーブルをも貫通していた。
「何、寝ぼけたことを!
いいから我々に従え!」
これがイタズラではないと悟り、マリアンジェラはゆっくりと両手をあげる。
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