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第10話「口頭試問」

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「では、お前が考える軍人の定義とは?」


そう問いかける王の目には鋭い光が宿っていた。


成人の儀の後の何気ない雑談だとジュリア思っていた。しかし、違っていた。これは王からの口頭試問だった。


一つでも返答を間違えれば道が閉ざされるかもしれない。


彼女は小さく息を吐く。


「軍人とは、民を守る盾であり、正義を貫く剣です。この世界に正義を打ち立てるため、そして民を守るために戦う、それが軍人だと考えます」


「では、軍人に求められる資質とは?」


「陸軍、海軍、空軍で求められる資質はそれぞれ異なります。

なので、私が志願している人型戦闘機の操縦士について述べます。


操縦士の責任は重く、それ相応の資質が求められます。主に、反射神経、意思決定力、発想力、コミュニケーション力、リーダーシップ、ストレス耐性が高い水準で求められます」


「理想の軍人とは?」


「己の命を捨ててでも戦場に立つ者、それこそが理想の軍人だと私は考えます」


「戦場に出ることを想像して恐怖しないのか?」


「恐れを知らぬ者は、戦場で生き残れないでしょう。戦場は甘くない、戦場には恐怖で満ちている、それを知ったうえで、前に進むのが真の軍人だと考えています」


王は満足気に深く(うなず)く。


「成長したな、ジュリア。

お前が命を懸ける覚悟があることは良く分かった」


その言葉を聞き、ジュリアは気を緩めてしまった。しかし、口頭試問は続いていた。


「では、敵兵を殺す覚悟もあるのだな?」


「……っ⁉︎

か、覚悟はあります。もちろんです」


ジュリアが返答するまでにわずかな間が生じた。


(しまった、この質問が本命だったのか。

お父様はすでに私の欠点のことを……)


彼女の心の揺れは王に見透かされ、彼女の本心は王に見抜かれた。


王は腕を組み、ストーン教官からの報告を思い出す。


***


「しかし、王女殿下は、将来、その“蒼雷(そうらい)”以上の腕前になるやもしれません。


ですが……」


ストーンはそこで言葉を切り、しばし沈黙した。


空気がわずかに張り詰め、王は真剣な表情で彼を見つめる。


「……一点だけ気掛かりがある、そうだな?」


ストーン教官はわずかに眉間に(しわ)を寄せ、(うなず)いた。


「人を撃つという心理障壁は大きいものです。

とある戦場では積極的に戦闘を行った兵士は3割程度だったというデータがあります。


そこで、狙撃兵や戦闘機のパイロットに対して心理学を応用した訓練を行っています。


王女殿下にもその訓練をさせていただきました。


しかし、殿下の心理障壁はかなり大きく、訓練を一通り行ったものの、障壁はまだ根強く残っているようです。


人型戦闘機に向けてペイント弾を撃てるようになるのも一苦労でした」


「幼くして母を亡くした影響だろうな。


人が死ぬことに対してのジュリアの悲しみようは尋常ではない。

必死に隠そうとしているがな。


他愛もないイタズラを続けるのも母を亡くしたことが原因かもしれん」


今までの訓練を振り返りながら、ストーン教官は語る。


「殿下は優秀です。

しかし、今のままでは敵を討てないでしょう」


***


王としてもジュリアの願いを叶えてやりたい気持ちはある。しかし、大切な娘をみすみす失うわけにはいかない。


交錯する想いを抱きながら、王はジュリアの眼を真っ直ぐに見据える。


「戦場は甘くない。

今の質問に動揺するようでは、敵を討つのは無理だろう。

お前は軍人には向いていない。

訓練は終わりだ」


そう言い残し、王は謁話室(えつわしつ)から退室しようとする。


「そんな!」


突然の宣告に、ジュリアは目を見開く。


「お父様!

10年間、訓練に耐えたなら軍人にしてくれると言ったではないですか!

その言葉を信じ、私は研鑽を積んできました!」


「たとえ敵兵であっても殺したくはない、それがお前の本心だろう?

9年経って、お前には適性がないと判明した、それだけのことだ!」


「あと1年!

いや、半年で必ず敵を討てるようになってみせます!」


「残念だが、ストーンからも報告が上がっている。

どれだけ訓練を積もうとも無駄だ。もう諦めろ」


王からの鋭い言葉を聞き、ジュリアの目に涙が浮かぶ。


「待ってください! お父様!」


「国のため命をかける覚悟はあるが、敵であっても殺したくはない。そんな考えで戦場に出たらどうなるか、少し考えれば分かるだろう。


誰かを守るためならば、お前は命を捨てて盾になる。それしか選択肢がないからだ。


そんなもの、名誉の戦死ではない!

ただの無駄死にだ!」


そう言い残し、王は部屋を後にした。


扉が閉まる音が謁話室(えつわしつ)に響いた。



扉が閉まり切るのを見届けた後、王はため息をつく。


「ジュリア、すまない」


執務室に戻ろうと歩みを進めると、王妃マリアンジェラと鉢合わせした。


マリアンジェラは王と目を合わせようとしない。


「先ほどの話、聞こえていたか?」


「あの子の訓練は終わりですか?

あの子は今まで必死に……どれだけ汗を流して来たか」


「努力は認めている。

だが、努力だけでは埋められぬ差があるということだ」


「危険地帯でのサバイバル訓練すらも乗り越えたのですよ。

泥水を飲んで飢えをしのいだと聞いています。


自分の身を守れるようにと、護身術も身につけたそうです。

それに、夜を徹して射撃訓練をしていました。


全ては国のため、世界のためという想いで……」


「無駄だよ、マリアンジェラ。

あの子を戦場に送り出せば、死ぬだけだ」


そう言うと王は立ち去った。



王の姿が見えなくなった後、マリアンジェラは謁話室(えつわしつ)に入る。ジュリアにかける言葉は見つからず、その足取りは重かった。


しかし、足を踏み入れた瞬間、予想外の事態に直面し、マリアンジェラの思考は停止した。


ジュリアは手付かずの王の大好物、バラの実のタルトを勝手に食べようとしていたのだ。


ジュリアはマリアンジェラと目が合い、そのまま硬直する。


そして、マリアンジェラは思わず笑い出してしまう。


「ふふふ、いけない子。

こんな時でもイタズラを忘れないのね」


「えへへ、申し訳ありません。

お父様への小さな反抗です」


ジュリアは苦笑いを浮かべ、タルトを持ち直す。


「私、諦めません。

必ずお父様を説得してみせます」


そう言うと勢いよくタルトを頬張った。


「ねぇ、ジュリア。

良かったら今晩、二人で外食しない?」


マリアンジェラも王への小さな反抗を企てようとしていた。

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