1. 平和推進法
にぎやかな夜の繁華街。一発の銃声。静まりかえる街。足を止める人々。
音のする方へ集まった視線。状況を把握した人々。
止めた足が再び動き出す。
にぎやかさを取り戻した繁華街。
そこには銃声に臆することのなくなった人々の姿があった。
2030年。
地元住民の反発により居場所のなくなった米軍基地。
時の首相の優柔不断さにしびれをきらした大統領。
米軍基地は日本領土から全面撤退を余儀なくされた。
日米関係には深い亀裂が入り、修復不可能となった。
アメリカから見離された日本。
厚い盾を失った日本は戦争の格好の標的となった。
戦争反対を訴える人々。
治安は悪化の一途を辿った。
次第に反戦を訴える人の数は減っていった。
日本は過ちを再び繰り返した。
2035年。
平和推進法制定。
・以下の条件をすべて満たす者に拳銃の所持・使用の資格を認める。
①満18歳以上の者
②前科の無い者
③国が定めた試験に合格した者
④有資格者であることを示す免許状を携帯している者
・3年毎に更新(再受験)を必要とする。
・平和推進以外の目的で使用したものは刑法の定めるところにより処罰される。
日本は拳銃社会になった。とはいっても合格者は受験者の1割にも遠く及ばないものだった。国が受験者に課す膨大な量のモラルを問う試験に、興味本位の者は途中で退席し、残った者も自分を見失い正常な精神状態ではいられなかった。
その中でも自分を見失わなかった者、つまり優れたモラルを持つ者、つまり日本の平和を取り戻すのにふさわしい者、つまり拳銃を持つことを許された者なのだ。
こうして日本は『いつかくる』平和のために、『いま』の平和を捨てたのだ。
拳銃が平和をもたらすのかは誰も分からなかった。
ただ今のままでは駄目なことは誰もが分かっていた。
だから賛成するしかなかった。
日本はアメリカの背中を追っているようだった。
失った信頼関係を取り戻すためなのか。
もうお前らなんて必要ないと誇示するためなのか。
助けを求めていたのか。
戦いを挑んでいたのか。