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中西茜⑨

「色々あったのね。お疲れ様」

 淡白な感想を述べながら、翼さんは目の前の大きなパフェを突いている。場所はどこでもいいと話したら、彼女は都心のこの店を選択した。

「副店長にとっては厳しい期間になりましたが、落ち着いてきたので安心はしています」

 さすがに同じパフェは私には勇気がなかったので、人気のパンケーキを注文していた。柔らかい生地が口の中で溶けていくようでおいしい。

「珍しいね。解決した後に私と会いたいなんて」

 目をわざと細めて、彼女は訊ねた。

「相談ばかりで申し訳ないと思ったのと、今日は単純に会いたくて連絡しました。いけないですか」

 先輩に対して、私もこの口調がいいなんて思っていない。しかし、翼さんは無邪気に微笑んだ。

「たまには可愛いところもあるのね」

 休みの会うのは一年ぶりなので、久しぶりに私服を見た。ベージュのロングスカートにノースリーブの白いブライスにカーディガンを羽織っている。やはり、この人は美人だ。その場の雰囲気が変わる。

「少しは自分の好きな時間を作ろうと思いまして。仕事も大切ですが、リフレッシュできるようにしないと、いつかは壊れてしまいますから」

「いい成長ね。自分の時間は大事だよ」

 からかうことなく、翼さんは頷いた。

 私自身の仕事への姿勢は間違っていない。しかし、小さな殻の中にいる自分の悲鳴にももう少し耳を傾けなければならないと感じた。

 井川さんのおかげだ。

 今回の件が終わった後、私は本音を告げた。時間を使えていないこと、返信が遅れていること、それを罪に感じていること。井川さんはすべて聞いてくれたうえで、優しく答えてくれた。

「僕はそんな茜さんが好きで告白をしたから、仕方ないと思っているよ。本当はもっと茜さんを知りたいし、一緒の時間を過ごしたい。ただ、それが茜さんの生活を崩すのであれば、今のペースで交際が続いても問題はない」

 正直、複雑な気持ちだった。私を尊重してくれているのは伝わるものの、もっと強引に私を縛ってほしいと願っている自分がいた。

 それはわがままだよね。

「ありがとうございます。私も井川さんのこと、もっと知りたいです」

 言いながらも、本当に自分が変われるのか不安は消えなかった。これからも私は経営相談員を続けていく。姿勢を変えるつもりはないのだから。

 私はわがままだ。みんなからの意見を聞かず、好き勝手に自分の理想へ突っ走っている。仕事柄、それが人の幸せに真剣になっているように見えているだけで、本当は自分を満たすために必死になっているだけなのだ。

「これからは、自分の幸せも追いかけます」

 しばらく私を見つめた後、大きなシャインマスカットの粒をスプーンですくって、目の前に持っていった。

「その言葉、信じているよ」

 感情はあまり見せない先輩が、冷たい表情で私を見つめる。その姿に思わず、背筋に寒い感覚を覚えた。

 いつかはばれる嘘。いや、誰かに暴いてほしい嘘。私は仕事の真剣に生きていく中で、この嘘を背負ってこれからも生きていく。

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