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落ち人:明日をも知れぬ運命  作者: 木苺
その1:プロローグ または「落っこちた」
3/97

落ち人

土間に入ると、火を起こしたかまどの前に狸さんが座っていた。


「こっちこっち」

手招きされて、かまどの前に行く。


木の椅子に腰かけて 暖をとった。


かまどの熱は 効率的に鍋などを温めるようになっているので、

前に座ると 熱いというよりは ほんわりとしたあたたかみを感じる程度だ。


それでも 雨と井戸水で冷え切った体には ありがたい。



私に椅子を譲った狸さんは、何やらを支度(したく)をして、

私の椅子の横に台を置き、その上に盆を置いた。


「今は かなり夜も遅いので、茶漬けしか出せなくてすみません」


「ありがとうございます。

 ぬかるみから助け出してくださっただけでなく

 こうして 食事まで出していただいてありがとうございます」

狸さんに一礼し、盆の前で合掌してから戴いた。


アッツアツの茶漬けに、たくあんが添えられていた。

 フーフーしながら食べて ほっとしました。


食べ終わったら、狸さんは 盆を下げ、

それから かまどの前に座り込んだままの私のところに戻って来た。


「お疲れのようなら このまま寝所(しんじょ)に案内します。

 しかし 少しお話をしてからのほうが落ち着くというのであれば

 ここで もう少し過ごしましょう」


「ここは どこで、どういうところで、あなた様のことなどお聞かせいただければありがたいです」

私は頭を下げた。


「ここは、救護所です。


 私は、案内人のタンタンです。


 あなたが倒れていたところは、「そこ」と呼ばれています。


 というのも 時々、あそこに 人が落ちているからなんです。

 その人たちは みんな言うんですよ、

『落ちて気を失って 目が覚めたらここに居たのだけど、ここはどこ?』って。


なので 私たちは あなたのように「どこからか落ちてきた人」のことを『落ち人』と読んでいます。」


「そんなに たくさんの人が落ちてくるのですか?」


「そうですね、10年~30年に1度くらいかなぁ、落ち人があるのが。

 しかも たいてい、激しい雪嵐とか大雨とかが何日も続く時に 落ちてくるみたいなんですよ。


 あそこは 街道筋にあたるのですが、

 このあたりは、集落から外れているので、

 そんな荒天の時に倒れていたら ろくなことにならんです。


 私たちだって 所要で通りかかったら、死体があったなんて嫌ですよ。


 それで 神様に「落ち人がある時には事前に知らせてください。そしたら私たちが拾いに行きますから。でも 落ち人ってなんかよくわからない人達が多いから、拾った後の手助けは神様の方でよろしくお願いします」って頼んでみたんです。


 そしたら、

『落ち人がある時には予告しよう。

 お前たちが 毎回 必ず 落ち人を助けている間は、

 大雪や大嵐が来る前日にもお告げを出してやろう。


 落ち人は嵐の2日目に落ちてくるから、お前達でその者達を拾い上げ、救護所に連れていけ。


 その救護所もお前たちが用意するのだぞ。

 そこには、常に3か月くらいは自足できるだけのものを備えておくように。


 落ち人の居ないときは救護所を お前達の避難所として使っても良いが、いざという時に落ち人が困らないように、必ず 常に整えておくように。』ってお告げがありました。


 それで ご先祖が建てたのが この救護所です。

それ以来、お告げがあるたびに、落ち人を迎えに行っては ここに案内してます。


その役目を務めるのが案内人です。

案内人は 救護所の日頃の手入れもしております。


私は、5年前に案内人の役を父から引き継ぎました。


今回、私が案内人になって初めて、落ち人が来るというお告げがあったので、

昨日から ここに泊まり込み、今日、日が落ちてから、ものすごい音がしたので見に行ったら、あなたに出会ったわけです。」


「大雨の中、わざわざ見に来てくださってありがとうございます。

 おかげで助かりました。」

私は再び頭を下げた。


「ところで、私より前に 落ちてきた人たちには会えますか?

 皆さん どうしていらっしゃいますか?」


「この家で生涯を送った方もいます。

 しかし たいていの方は旅に出たようです。


 あなたの前の落ち人は30年前でした。

 彼は ここで一人で暮らしていましたが、孤児になった私を引き取って養子として育ててくれました。その父も5年前に亡くなりました。」


「そうだったのですか。

  ご愁傷様です」


「お気遣いありがとうございます」


「ところで、村の(かた)や落ち人の方々(かたがた)の種族は・・?」


「落ち人は 人間が多いですね。

 神様によると、人外が落ちてきた場合は、自力で何とかするので、村への予告もしないそうです。


 私たちの村は 人間以外の種族の村です。

 人間は たいてい都と呼ばれる大きな町に住んでいるので、落ち人達もたいてい、都目指して旅に出るようです。」


「しかし この建物は 人間仕様ですね?」


「あーそれは、最初に村人が建てた救護所が気に入らなかったある落ち人が、

 村人を指揮して建て直したからです。

 さらに 私の養父が かなり手を入れて改造しました。


 実は 父は亡くなるまで ここに住んでいたのですが、

 私にとってはこの家よりも 村の私の同族の家の方が暮らしやすいので、

 成人してからは、私は村に引っ越しました。」


 「そうだったのですか」


「父の遺言に従って、父が亡くなった後は 大掃除してお清めしたので

 幽霊もお化けも居ませんから 安心して ここを使ってくださいね。」


「はい」


というわけで、このあとすぐ、寝所に上がり 休むことにした。


寝所は・・

 かまどのある土間、ここは台所と呼んでも良いだろうが

 その台所の北側の畳部屋の一角がフローリングになっていて

 そこにベッドが置いてあった!。


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