7-2.『考えろ』の意味
「久慈はよくおまえに言うよな、『考えて打て』って。でも、俺はおまえがなにも考えずにスパイクを打ってるとは思ってないんだよ、実は」
雨宮の発言に驚いたのは煌我だけではなかった。
琉聖も同じように、雨宮の言葉に目を大きくした。
「だってそうだろ。おまえはさっきも『ブロックの上から打とうと思った』って言ったし、その前には『ブロッカーがいなかったからクロスへ打った』って久慈に言った。それって、おまえなりに考えてスパイクを打ってたことだよな」
煌我と琉聖が揃ってハッとしたと同時に、主審がブザーの音を響かせた。向かうところ敵なしの峰のサーブが再び実里丘コートに打ち込まれようとしている。
「そうだよ」
煌我が自分自身に言って聞かせるように言う。
「おれ、ちゃんと考えてる」
「うん。だけど、点は取れてない。どうしてだと思う?」
峰の強烈なサーブに対し、眞生は琉聖の教えを守ってしっかりと手を出していった。レシーブはきれいに上がらないCパスになったが、真野が走り、ハイセットからレフトの快が力強い助走で飛び上がった。
快は相手ブロッカーの指先をわざと狙った強打を放った。ボールは狙いどおりエンドラインを大きく越えていくように跳ねたが、修はまるでそれさえも読んでいたかのように、コートに背を向けた状態でボールを拾い、コートの中へと大きく戻した。
バックセンターを守る星工のエース、琉聖の中学時代の先輩でもある遠山雅貴がレフトへ大きくトスを振る。互いに二段トスからの攻撃になり、裏エースがレフトから放った強打はオグの右手にバチンと当たった。
ボールはラッキーなチャンスボールに変わる。快のレシーブから、オグが拙いながらも懸命に助走に入り、真野がまるでそこへそっと置いておいてくれたかのようなAクイックのトスを長い右腕でぺちんとたたいた。
それだけでもある程度の速度と角度がついたオグの細いスパイクは、相手ミドルの手の上をすり抜けるようにして星工コートのほぼ中央に落ちた。
八対十。あきらめない実里丘サイドが反撃に転じる。
「わかんねぇ」
煌我はバカ正直にわからないと言った。雨宮は笑うことなく、真剣にうなずいた。
「だろうな。わかってたら、今頃こうしてベンチに下げられて説教をくらうことにはなってなかったわけだし」
琉聖にも見せた、煌我を優しく包み込む兄のような空気をまとって語る雨宮。その姿を見ていて、琉聖はようやく気がついた。
雨宮は琉聖の代わりを務めようとしているのだ。誰よりポテンシャルの高い煌我を、誰かが育てなければならない。普段ならそれは琉聖の役目だが、今日の琉聖に無理をさせないために、雨宮は自ら先生役を買って出た。
キャプテンとして、先輩として、チームを支えるべく率先して動いてくれる雨宮。少しでもチームのためになればと、ベンチにいながら頭を働かせ続けてくれる伊達。琉聖の異変に適切な対応をしてくれた美砂都。
上級生たちの頼もしさを、この試合を通して改めて実感した。
琉聖でも、煌我でもない。
このチームの要は二年生の三人だ。彼ら無くして、丘高バレー部は成立しない。
実里丘のサーブはオグへ回り、雨宮がコートに戻るタイミングになる。だが雨宮はかまわず煌我に語り続けた。
「久慈もさっき言ったけど、要するに、今のおまえに足りないのは『判断する力』だ」
「判断」
「そう。ブロックの上から打つ。フェイントを打つ。ブロックアウトを取りにいく。そういう一つ一つの攻撃って、一番決まりやすいタイミングってのがあるんだよ。適切な使い時、とでも言うのかな。それを見極めることが、今のおまえにはできてない。だから得点につながらないんだ」
コートサイドに眞生が走ってきて、「雨宮せんぱーい!」と両手を振って雨宮を呼んでいる。雨宮は手を挙げて眞生にこたえると、もう一度煌我に向き直った。
「正しい選択するためには、自分の中に選択肢を増やさなくちゃいけない。強打しか打てないヤツに、『ここはフェイクを決めよう』なんて判断が生まれる余地はないだろ。久慈や高木が言ってるのはそういうことなんだよ。できること、選べる攻撃手段が多ければ多いほど、その分攻撃の幅が広がって、得点につながる可能性が高くなる。おまえが目指すべきところはそこだ。おまえは高く飛べるんだから、体格的に不利な高木よりもたくさんのことができないと理屈に合わない。だから高木は怒るんだ。本来ならおまえにはもっといろんな打ち方ができるはずなのに、今おまえが打ってる一本調子のスパイクは、身長とジャンプ力に甘えた無鉄砲な攻撃にしか見えないから」
雨宮の言葉は厳しかった。この人はそういう人だと琉聖は知っている。
言うべきことを、伝えなくちゃいけない正しいタイミングで言うことができる。だから聞く側の心に響く。印象に強く残る。
変わらなくちゃいけないのだと思わずにはいられなくなる。
変わりたいと思わされる。
うつむいて、かけられた言葉の一つ一つを懸命に腹に落とし込もうともがいている煌我に、雨宮はもう一言、煌我の肩をたたきながら言い添えた。
「いきなりすべてのことができるようになるヤツなんていないんだ。だから今日はとりあえず、いつもより少し意識してブロックアウトを取りにいけ。細かいことは、次の練習の時にじっくり考えればいいからさ」
煌我は返事をしなかった。雨宮は困ったような笑みを浮かべ、コートにいる眞生と交替するためにベンチを離れた。
替わってベンチへ戻ってきた眞生は、一番に煌我の前に進み出た。
「煌我、次、戻れる? 伊達先輩が困ってるんだけど」
雨宮がコートに戻るとすぐに再開されたゲームは、オグがサーブをネットにかけ、星工に再び三点のリードを許してしまった。
八対十一。かゆいところに手が届かない、もどかしい試合展開が続く。




