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CHANGE ~県立実里丘高校男子バレーボール部の瓦解~  作者: 貴堂水樹
第2セット 勝ちの目指し方

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27/37

7-1.僕らがすべきこと

   ○


「ふぅん」


 雨宮は少し考えるような仕草を見せ、やがて「ま、やってみるか」と言った。


「確率的に低いところより、高いところを抑えにいったほうがいいのは間違いないだろうからな」


 ありがとうございます、と琉聖は作戦を受け入れてくれた雨宮に礼を言った。


「なので、真ん中から速攻を打たれた時は潔くあきらめましょう。ただし、バックセンターからのパイプ攻撃に関しては、できるだけコースを読んで止めにいってください。そこが決まらないって相馬さんに思わせられたらいよいよセンター線は完全に消えます。相馬さんにとっては、レフト・ライトのサイド攻撃も速攻みたいなものだから」


 伊達の弾き出してくれたデータは、まだ打数が少なく、正確性には正直乏しい。

 だが、参考数字としてとらえるには十分だ。傾向として、相馬がサイド攻撃に重点を置いていることはわかる。

 オグのブロックを警戒しているのだろう。今日の試合の中でもっとも背が高いのはオグで、実力はともかく、彼がセンターにかまえているだけでブロックの圧は十二分にかかる。

 相馬はそこを避けたいのだ。オグと雨宮のブロックを機能させないために、積極的にサイド攻撃を使っている。

 相馬本人が気づいているかどうかはわからないが、サイド攻撃を重視するあまり、センターからの速攻が極端に少なくなっていた。伊達の取ったデータがそれを証明してくれていて、琉聖はそこから雨宮に「ブロックはサイドに集中させよう」と指示を出した。導いてくれたのは、間違いなく伊達だ。助かった。


 琉聖は細く息を吐き出し、額ににじむ汗を拭った。

 軽い倦怠感と火照ほてりが全身にまとわりついている。からだが重いのは朝からだが、それに加えて今日はいつも以上に考えることが多く、まだ一セット目だというのに脳が早くも疲労を訴えかけてきていた。

 それでも勝たなければ、チームを勝たせなければならないことに変わりはない。星工の勢いを押しとどめられている今のうちに攻めたいところだ。コートには立てないが、声出しはどこにいたってできる。


「じゃ、俺からも一つ」


 琉聖が前向きな気持ちで声を上げようとしたところへ、雨宮が待ったをかけるかのように琉聖に言った。

 雨宮はスッと琉聖の前を離れる。どこへ行くのかと目で追うと、雨宮は先ほどまで琉聖が座っていたパイプ椅子の上に置き去りにされた氷嚢を拾い上げ、琉聖の頭の上にポンと載せた。


「少し休め。がんばりすぎだ、おまえは」


 座れ、と雨宮は琉聖の肩を押し、強制的に元いたパイプ椅子に座らせた。突然のことに、琉聖は頭上の氷嚢を右手で押さえながら目を丸くした。


「いや、俺は……」

「異論は認めん。これは部長命令だ。それだけ青い顔をされたんじゃあ、さすがに無視はできん」


 雨宮は譲らなかった。多用こそしないが、彼は「部長命令」という言葉を琉聖に対してはよく使う。監督である前に、雨宮にとっては部の後輩である琉聖を黙らせるのにこれほど都合のいい言葉はない。

 けれど今回に関しては、雨宮は怒っているわけではなかった。兄貴然とした頼もしい笑みを浮かべ、雨宮は言った。


「おまえが俺たちのために一生懸命になってくれてるのはわかるし、責任感の強い性格も理解できる。けど、今日はもういい。おとなしくしてろ。しんどかったら帰ってもいいぞ。小山田先生には俺から謝っとくから」

「雨宮さん」

「いいか、久慈」


 琉聖からの反論を一切受け入れないことを主張するかのように、雨宮は最後まで言いたいことを言い切った。


「もっと自分のことを大事にしてくれ。おまえにつぶれられると、俺たち全員、路頭に迷っちまうんだから」


 はっきりと言葉にはしない。けれど雨宮は、「おまえが必要だ」と琉聖に伝えてくれたのだと感じた。

 琉聖は顔を下げる。頭の上を、氷嚢の中の氷がころんと転がる感触が静かに走る。

 無理をしているつもりはなかった。なんとかしてチームを勝たせたい。みんなのためにできることをしたい。ただそれだけだった。

 でも、ダメらしい。体調が万全かと問われれば決してそうではないけれど、座ってろと言われなければならないほどではないと感じているのに。


「すいません」


 悔しい。情けない。チームのために尽くしたいとこんなにも強く思っているのに、逆に尽くされてばかりいる。

 うまくいかない。中学時代の記憶さえ断ち切ることができていれば、こんなことにはなっていなかったはずなのに。

 進みたいのに、進めない。行き場のない灰色の感情が胸にこびりつき、雨宮に手渡してもらった氷嚢を床におもいきりたたきつけたい衝動に駆られた。


 雨宮が小さく息をつく気配を感じる。彼は琉聖から視線をはずし、話の矛先を煌我に向けた。


「して、佐藤」

「はい」

「久慈を助けてやりたいんだったよな、おまえは」


 琉聖が顔を上げた先で、煌我が雨宮のほうを見た。

 雨宮は言った。


「なら、おまえがやらなくちゃいけないことは?」


 煌我がちらりと琉聖の姿に目を向けた。ほんの一瞬、視線が重なる。

 煌我は考えるような横顔を琉聖に見せた。彼の大きなからだの向こう側で、試合は着々と進んでいる。


 峰のサーブは快を狙われ、珍しく快がレシーブを乱した。伊達がフォローに走ったものの、三本目は右京がアンダーで返すのが精いっぱいだった。

 星工は修のレシーブから、相馬がレフトへの速いトスを振る。裏エースのサイドアタッカーが放ったクロススパイクは、オグの左手をわずかにかすめたブロックアウトになった。

 七対九。星工サイドは今日一番の盛り上がりを見せ、得点が走り始める。

 修の大きな声が聞こえてくる。そして、めずらしく相馬の笑顔が弾けているのを琉聖は見逃さなかった。


「よく考えてスパイクを打つ」


 煌我が一つ、答えを出した。雨宮は首を横に振る。


「五十点。もう少し具体的に」


 む、と煌我が顔をしかめる。難しい顔をして悩んで、煌我は残りの五十点を補完する答えを絞り出した。


「ブロックアウトを取る」


 答えた煌我の声は、普段の明るさを忘れさせるくらい低かった。雨宮は苦笑いで「七十五点だな」と言った。


 星工は峰のサーブが続く。勢いに乗った峰の強烈なジャンプサーブは眞生と快の間を切り裂き、二人が一歩も動けないままボールはエンドライン上に落ちる。

 七対十。スコアは二桁目に突入し、星工が再び三点のリードを取り返した。


 琉聖は無意識のうちに立ち上がり、氷嚢と作戦盤を両手にぶら下げたまままコートサイドへと歩み寄った。


「快に頼るな、眞生」


 声をかけると、眞生は厳しい表情を浮かべたまま琉聖を見た。


「おまえが全部拾っていい。今はまだやみくもでいいから、どんどんボールに手を出していけ。ボールを落とさないこと。それだけできたら満点だ」


 眞生はうなずき、一段階ギアの上がった顔つきで声を出した。琉聖は続いて快へ指示を出そうとしたが、誰かに練習着の首根っこを掴まれ、阻まれた。


「こら」


 雨宮だった。上から降ってくる声を振り返ると、雨宮の怒った顔がそこにあった。


「おとなしくしてろって言わなかったか?」

「いや、だって」

「『だって』じゃない」


 雨宮に引きずられ、琉聖は強制的にパイプ椅子へと座らされた。


「次にふらふら動き回ったら、今度は体育館の外へ放り出すぞ」

「ひでぇ」

「言うことを聞かんおまえが悪い」


 雨宮は一歩も譲らず琉聖に言い放つと、煌我との対話に戻った。『点を取る』スパイクの話だ。

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