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CHANGE ~県立実里丘高校男子バレーボール部の瓦解~  作者: 貴堂水樹
第2セット 勝ちの目指し方

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6-4.アタッカーの使命

「なんでだよ」


 煌我の瞳がかすかに揺れた。


「なんでおれは怒られて、あいつは褒められるんだ! おれだってちゃんと点取ってるのに!」


 琉聖は黙って煌我を見つめ返した。どうやら煌我は、快ばかりが持ち上げられる現状がどうしても納得できないらしい。

 そういう問題じゃねぇんだよなぁと思いつつ、琉聖は静かに煌我の左隣に立ち、コートのほうへとからだを向けた。


「あのな、煌我。『スパイクを打つ』ってのと、『点を取る』ってのは別物なんだ」


 唐突に始まった琉聖の話に、煌我はキョトンとした表情を浮かべた。こうしている間にも試合は動き、右京の二本目のサーブが放たれる。


「『スパイクを打つ』と、『点を取る』」


 煌我がつぶやく。そうだ、と琉聖はうなずいた。


「おまえがやってるのは『スパイクを打つ』こと。で、快がやってるのは『点を取る』ことだ。おまえが本気で全国制覇を目指すって言うなら、この違いはちゃんとわかっていなくちゃいけないと俺は思う」


 右京のサーブはクリアされ、相馬は裏エースのレフトアタッカーへトスを振る。

 打ち手が変わっても、相馬のトスは変わらない。とにかく速くて直線的な平行トスを、裏エースの三年生はやや苦しそうに腕を振って打ち込んできた。

 クロス方向に打ち込まれた強打を、バックレフトを守る眞生がほぼ真正面で受け止めた。レシーブボールは真野のところへ返り、真野は快へ三度目のトスを振る。

 今度はブロッカーとの勝負ではなく、快はネットに対し平行かと思うほど鋭角なインナースパイクを打ち込んだ。裏エースがレシーブをミスし、七対六。実里丘がついに念願のリードを手にした。


「ほら。今のもそうだ」


 琉聖は真野たちとハイタッチする快を見つめたまま言う。


「あいつ、同じ打ち方を連続でしないだろ。ブロッカーとやり合ったら、次はコース打ち。ああやっていろんなところへ打ちながら、相手の腹を探ってるんだ。で、穴が見つかったらそこを徹底的にたたく。相手がその穴をふさぐまで、そこから取れるだけの点を取ろうとする」


 星工サイドに明らかな焦りの色が見え始めた。いつも冷静沈着な相馬が珍しく声を荒げているのが実里丘ベンチにまで聞こえてくる。


「快はそうやって、相手の状況を見極めながら攻撃を仕掛けてる。そうすれば点が取れることをあいつは知ってるんだ。いかに自分たちのミスを少なく済ませるか。いかに相手のミスを誘うか。それが『点を取る』ってことで、点が取れれば、試合に勝てるんだよ」


 右京のサーブは三本目。サーブのいい選手の時に連続得点が取れるのはいい流れが来ている証拠だ。

 右京はなるべく修に触らせないようにコースを定めてサーブを入れ、星工のサーブレシーブは狙いどおりBパスになる。相馬が走り込み、やや苦しい体勢からライト側へトスを振った。


「おまえと違って、快は身長にもジャンプ力にも恵まれてない。だからこそあいつは、高さが出せなくても点が取れる方法を死ぬ気で探し続けてきたんだと思う。泥臭くて、カッコよくもなんともない。そんな打ち方かもしれないけど、それでも確実に得点が挙げられる。理想という言葉を使うなら、快の追い求める理想は、いかにして相手よりも早く二十五点を取りきるか。それだけなんじゃねぇかな」


 圧倒的な速さとパワーで押し切ってきた星工のライト攻撃に、バックライトを守る真野は手も足も出せないままフロアへ落ちる強打を見送ることしかできなかった。

 七対七。試合はシーソーゲームの様相を呈し、どちらもなかなか走りきれない。


「おれだって」


 煌我が歯の隙間から絞り出すように反論する。


「おれだって、ちゃんと点を取りにいってる」

「わかるよ。実際、この前の正南戦と比べて、今日のおまえは相手の動きをよく見てると思う。おいおい、って思うプレーも少なくないけど、おまえなりになんとかしようとしてるのはわかる」


 星工のサーブはオポジットの三年生・峰に回り、相馬が前衛に上がってくる。これで相手のアタッカーはレフトとミドルの二枚になるが、エースアタッカーの三年生がバックセンターに入っていることから、煌我と同じパイプ攻撃を仕掛けてくることは十分に考えられる。


「セッターが前衛に上がった! ツーあるぞ! しっかり足動かして!」


 琉聖が声を張って指示を飛ばす。コートの中から気合いの入った声が返ってきた。

 一息ついて、再び煌我との対話に戻る。


「だけど、大事なところでおまえは自分の理想に走っちまうだろ。『強いスパイクを打つ』。それがおまえの譲れないものだって言ってたよな、この前」


 強打だけで相手を打ち崩す。ブロックの上から打つ。

 煌我にとって、それこそが理想の攻め方だった。フェイクやプッシュに頼ることが許せず、四月の正南学園戦の時、軟打も交えて戦略的に攻めろと指示した琉聖とケンカになった。


「さっきの、快の二段トスからのスパイクなんかまさにそうだ。せっかく快がブロックアウトの取りやすいトスを上げてくれてたのに、おまえはわざわざブロックの高いクロス方向に打ち込んだ。快からすれば、そりゃあ怒って当然だよ。眞生が必死になってつないでくれたボールを、おまえのちっぽけな意地一つで無駄にされそうになったんだから」


 煌我はしっかりとブロックの隙間を狙ってはいたものの、打ち切れて得点になったのは結果論に過ぎない。実際のところは快の指摘したとおり、ブロッカーにシャットアウトされていた可能性は高かった。

 あれがAパスからの攻撃だったなら、快があそこまでいきどおることもなかったかもしれない。だが、さっきの場合は眞生が懸命に走り込み、からだを張ってつないだボールからの攻撃だった。

 三本目を触り、点を取りにいくアタッカーは、それまでの二本のボレーをつないでくれた仲間の想いを、いや、チーム全員の気持ちを背負う義務がある。

 仲間の踏ん張りを、得点に変える。

 それがアタッカーに課された使命だ。


「おれは……」


 煌我が言葉を失ったところで、峰のジャンプサーブが打ち込まれた。

 眞生の正面へ飛んでいくボールを見つめながら、琉聖は言った。


「結局さ、どこまで本気になれるかってことなんだよな、『点を取る』ことに対して」


 眞生のサーブレシーブは、眞生自身のほぼ真上に上がった。伊達が二段トスに走り、レフト側へ回り込んだ快がトスを呼ぶ。


「『点を取る』ことを目標にしてると、失点のリスクを極力避けようっていう考え方になってくんだ。それに対して、『スパイクを打つ』ことだけを目指してると、強く打てたらその時点で目標は達成されて、点が入ろうがどうなろうが、その先の結果に目標の達成度は左右されない。強いスパイクを打つだけじゃ勝てないってのは、おまえもこの前の正南戦の時にわかったはずだ。なら、今のおまえの目標は『点を取る』ことになってるはずで、そのための方法として、快がやってるようなブロックアウトをとることだったり、強打と軟打を組み合わせることだったりができるようにならなくちゃいけない。その時その時の状況に応じて的確な判断をする。相手に合わせて柔軟に対応する。そういうアタッカーになっていかなくちゃいけない。少しずつでいいから」


 伊達の二段トスから、快は一度大振りな助走を見せたが、腕を振り抜く直前に力を抜き、ひょいと指先だけでボールに触れた。

 強打と見せかけたフェイク。空から降ってきた鳥の羽根のようにふわりと舞う軟打は、修の守るバックレフト方向へ落ちていく。修が飛び込んで拾い上げるものの、相馬は走らされ、ネットから離れた位置からしかトスが上げられない。


「レフト!」


 琉聖が叫ぶ。オグがその声に反応し、レフト側で待つ真野の隣に向かって一歩踏み出した。

 が、


「……じゃない」


 相馬のトスは前衛レフトではなく、後衛のライト、このラリーから後衛に下がった峰に対して上げられた。

 峰のバックアタックは、一人でブロックに飛んだ快の腕を一ミリもかすらず、右京と伊達の間にたたき込まれた。

 七対八。星工がリードを奪い返す。


「くっそ、はずした……!」


 相馬の完全勝利だった。彼の意図を読み切れなかった。

 バックアタックはセンターからしかないと思い込んでいたのもよくなかった。相手はどこからでも、バックライトからも打ってくる。


「オグ、ごめん!」


 琉聖はすぐにオグに声をかけた。


「今のは俺が悪かった! トス、しっかり見極めて」


 オグはいつもどおりの不安げな目をしてうなずいている。本当ならもっと自信を持ってブロックに飛ばせてやりたいが、相手のセッターが手練てだれの相馬では分が悪い。

 琉聖でさえ相馬のトスに翻弄されてしまうというのに、オグならなおさらだ。迷って迷って、結局うまく飛べないままここまで来ている。一本止められたのは偶然飛び遅れたおかげにすぎない。

 どうする。このまま相馬にやりたい放題させておくわけにはいかない。

 考えろ。オグと雨宮のツインタワーをいかす方法は――。


 きゅっと握りしめた手の中に、プラスチックの硬質な感触が走った。

 ハッとして、琉聖は手もとに目を落とす。

 すっかり忘れていた。伊達が使っていた作戦盤をずっとかかえたままだった。

 伊達の書き込んだ数字の羅列をじっと見つめる。これまで目にしてきた試合の光景が走馬灯のように脳裏を駆ける。


「もしかして」


 Aパスからのレフト側およびライト側へトスが上がる確率はともに五十パーセントを超えている。ライト攻撃に関しては決定率も七割近い。

 それに対し、センターからの速攻は現時点でゼロ。チャンスは何度もあったし、ミドルブロッカーがAクイックのタイミングで助走に入っているのも確認できている。

 ということは。


「雨宮さん」


 琉聖は雨宮に対し、一つの可能性を提示した。


「ブロック、センター線は捨てちゃっていいかもしれません」

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