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CHANGE ~県立実里丘高校男子バレーボール部の瓦解~  作者: 貴堂水樹
第2セット 勝ちの目指し方

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6-2.実里丘のブレーン

 琉聖は伊達をベンチからコートへと送り出す。伊達は副審を務める星工の部員に「メンバーチェンジお願いします」と伝えた。

 交替のブザーが鳴る。コートの中の六人が、誰が替えられるのだろうと一斉に伊達に目を向けた。

 伊達は軽く右手を挙げ、「佐藤」とサーブを失敗したばかりの煌我に声をかけた。


「はぁ、おれ!?」


 まさか自分が交替を告げられるとはつゆほどにも思っていなかったらしい煌我が叫びにも似た声を上げた。煌我にとって、丘高バレー部に入ってはじめての交替だった。

 不承不承、煌我は伊達と交替してコートを出る。伊達には単純に煌我を下げる目的で入ってもらったわけではなく、レシーブ強化が一番の目標だ。

 レシーブが真野のもとへきっちり返る本数が増えれば、快のプレーがより活きる。琉聖はそう考えていた。


「なんでだよ、琉聖!」


 煌我はコートからまっすぐ琉聖のもとへ突っ込んできた。


「なんでおれが交替させられなきゃなんねぇんだって!」

「落ちつけ、煌我」

「落ちついてなんかいられるか! 意味わかんねぇ、マジで! おれがなにしたっつーんだよ!」

「煌我」


 わめき散らす煌我の前で、琉聖はどこまでも冷静だった。


「大丈夫。おまえはなにも悪くない。伊達さんには守備固めで入ってもらっただけだから」

「でも……」

「よかったよ、さっきのスパイク」


 琉聖は穏やかな笑みを煌我に向けた。


「快はああ言ったけど、俺はそこまで悪い打ち方だったとは思ってない。ブロックの隙間が見えたんなら狙っていい。よく打ち切ったと思うよ」

「いや、その……」


 琉聖が珍しく褒めたというのに、煌我はなぜか目を泳がせた。


「あれは狙ったわけじゃねぇっていうか……ホントはブロックの上から打とうと思って、さ」


 ハハハ、と煌我が引きつった笑みを浮かべる。最低だ。琉聖は煌我をムスッとした顔でにらんだ。

 美砂都が煌我にドリンクとタオルを渡す。煌我が受け取って給水を始めた姿からコート内へと視線を移そうとした琉聖だったが、一瞬その動きを止めた。

 琉聖の視線が、ベンチの一点に釘付けになる。ついさっきまで伊達が立っていたすぐ後ろ、ベンチとして並べられたパイプ椅子の一つに、使われた形跡のある作戦盤が置かれていた。


 吸い寄せられるように、琉聖はそれが置かれた椅子の前まで歩を進める。近づいてみると、ボードの上には黒いマーカーペンで細かく書き込みが為されていることがわかる。

 無言のうちに手に取り、琉聖は目を見開いた。

 バレーボールコートの縮図が印字された小さなホワイトボードの中に、伊達の手によって、この試合中に起きたさまざまな事象に対するパーセンテージがいくつも書き込まれていた。


「伊達さん」


 驚いた。コートの中の様子にばかり気を取られ、伊達がすぐ近くでこんなことをしてくれていたなんて。

 ざっと目を通していく。相手レシーブのセッターへの返球率。Aパスからの相馬のトスがどこへどれだけ上げられたか。相手アタッカーの選択したスパイクコース。こちら側から攻撃した際の相手の守備位置。


 すごい。琉聖は心の中でつぶやいた。

 琉聖も頭の中ではある程度データを貯め、試合に対する算段をつけているけれど、こうして具体的な数字にされるとより鮮明に勝ち筋が見えるようになる。世界レベルのバレーボールは今や情報戦と言われるほどデータの取り合いが盛んに行われていて、伊達はまさにそれと同じことをやっていた。


「……そうか」


 琉聖だけじゃない。

 伊達にも見えているのだ。相手チームの頭の中が。


 四月の正南学園戦の時も。


 ――ねぇ、久慈。あっちのキャプテン、さっきからストレートばっかり打ってきてない?


 この試合でも。


 ――すごいね、あのリベロ。わざと空けているんでしょう、あの子の前だけブロックを。


 ともすれば琉聖よりも早い段階で、伊達には相手の意図するプレーが読めていた。それは彼が常にデータを取り、頭の中であらゆる割合を求め続けているからで、試合に勝つためにはただ漫然と、練習どおりのプレーをすればいいわけというではないと知っているからだ。


「あぁ、それね」


 雨宮が作戦盤のデータに釘付けにされている琉聖を見て微笑んだ。


「すごいよな、公恭のヤツ。中学ン時からずっとやってんだって、それ」

「中学生で……?」

「『情報と根拠があれば、だいたいのことには対処できる』が公恭の持論でさ。ちょっとおカタイ感じがするけど、あいつはうちの学年じゃ三本指に入る秀才だし、そういうとこも含めて、あいつらしいっていうか」


 学年トップスリーの学力。難関進学校の実里丘で。

 さすが、と思うよりも先に、琉聖の心に熱いものがこみ上げてきた。


 この人、セッターに向いてる――。


 状況を冷静に分析できる力があること。感情よりも目の前の事象を優先できること。

 なにからなにまで、伊達が持っているのはセッターとしていかせる力ばかりだ。

 伊達を二人目のセッターに選んでよかった。やってくれると手を挙げてもらえてよかった。

 伊達のために、もっともっといろいろなことを教えてあげたい。

 また少し、琉聖の未来が明るくなる。

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