【最終話】書庫での危機、そしてベルナールと私の気持ち
せまい書庫に運ばれた私は、両腕を何者かにおさえられたまま、どうにか声を出せるようになった。
「……何なの!? 誰!?」
…うっすら目を前に向けると、一人の女が目の前に立っていた。
よく見ると、さっき舞踏会で出会った女、アイシャだった。
「……あなた、よくもワタクシに恥をかかせてくれたわね。」
アイシャは笑っていたが、目は笑ってなかった。
「恥?なんなのよ…。これはやりすぎじゃないの!?」
私は両腕をおさえられたまま言った。
「あなたはそれだけの事をしたのよ。」
アイシャは笑ったまま呟いた。
「ねえ、そう思わない!?」
アイシャが言うと、
『は、はい!アイシャ様の言う通りです!』
…屈強な男2人が返事をした。私の両腕をおさえているのはその2人の男だった。
「恥をかかせた?だったら何だっていうのよ?」
私が聞くとアイシャは、
「だからあなたにはそれだけの『制裁』を受けてもらわないといけないの。」
「制裁?」
私はふたたび聞いた。
「そう。制裁。」
アイシャはしばらく黙ると…
「あなた、痛いのはお好き?」
と私に尋ねた。
「痛いのなんて嫌に決まってるじゃない!」
と私が言うと、
「それは残念ね。じゃあ あなたは今から嫌な思いをする事になるわ。」
と、口元だけ笑って言った。
「どうするつもり?」
私が尋ねると、
「あなたの両脇の男、強そうでしょう?」
と、屈強な男2人を指さしながら言った。
「彼ら、一度暴れ出すと手をつけられないの。たとえ私でも。」
アイシャは困ったような表情を作り、笑いながら語りかけてくる。
私は扉のあたりに目をやった。するとアイシャは、
「あ、この部屋には誰も来ないわよ。誰も近づかないように手配済みなの。『たとえベルナール様でも』。」
そう言うと、アイシャは笑いがこらえきれないといった様子だった。
最後に、アイシャは、
「ここは今は『治外法権』なの。意味わかる?? つまり、『何をやっても許される』って事。」
もうアイシャの鼻息は最高潮に達していた。
確かに誰も来る気配はない。
そして…!
「2人とも、やっておしまい!!」
アイシャが声高らかに宣言した!!
その時……!!
私はおさえられていた両腕をサッとひねり返し、屈強な男2人の腕をねじ曲げた!!
『メキメキメキ!!』
『グオォォォォォオ…!』
男達が苦しそうにうめく!
そして!
男達の股をヒールの先で蹴り上げた!
『キーーーーン!!』
『グアァァァァァアア!!』
うずくまる屈強な男2人。
私は一度ならずニ度三度四度と、男達の股を貫くほどに蹴り上げた!
『キーーーーン!!』
『キーーーーーン!!!』
『キーーーーーーン!!!!』
『グアァァァァァアア!!』
『グアァァァァァァアア!!!』
『グアァァァァァァァアア!!!!』
男達は床に倒れ込み、泡を噴きながらピクピクとうずくまっていた。
「さてと…。」
私はアイシャの目の前にきた…。
……アイシャはガタガタと震えながら、その場にへたり込んで『オモラシ』をしていた。
「ア、アゥ……アゥ……!!」
私は、
「『オモラシ』は『マナー違反』じゃないのかしら?」
と聞いた。
アイシャは口をパクパクしているだけだった。
私は、
「ねえ、私、聞いているの。答えてくださらない?」
と聞いた。
アイシャは、
「ゴ、ゴメンなヒャイ………!」
と、声をしぼりだした。
私はさっきの言葉を思い出した。
「そういえばアナタ、さっき素敵な言葉を教えてくださったわね。『治外法権』かしら?」
アイシャは今にも気絶しそうだった。
「『治外法権』って、確か『何をやっても許される』って事だったわよね?」
私がそう言うと、
「ゴ、ゴメンなヒャイ……!!」
と、さっきの言葉を繰り返した。
「その『治外法権』、私にも適用かしら?』
私はニコッと微笑んだ。
そして、
「私って、一度暴れ出すと手をつけられないの。そう…私でも。」
そう言って、アイシャの鼻先に顔を近づけた。
「た、たすけて………!」
アイシャはブルブルと震えている。
「この部屋は誰も来ないように手配済みなんですって。知らなかった?」
と、アイシャの首を撫でた。
『ハァッハァッハァッ……!!』
アイシャの息づかいが荒くなる!
そして…!
私はアイシャの顔面に強烈な頭突きをぶち込んだ!!
『グシャアァァァァアン!!』
鼻が潰れる音がする!
『ギャァァァァァァア!!』
アイシャの声ならぬ声が部屋に響く!
さらに……!
アイシャを両手で持ち上げ、ステンドグラスの窓に向かってアイシャを投げ捨てた!!
『ガッッシャアァァァァン!!』
アイシャの身体がステンドグラスの窓をぶち抜いた!!
『ギヤアァアァァァァアア!!』
『ドン!ドドン!!』
アイシャは丸太のようにそのまま中庭の隅に転がった。
『ピクッピクピクッ……!』
アイシャは完全に気を失った。
「フゥ…。」
私が振り返ると、屈強な男2人が立ちあがろうとしていた。
私は2人に、
「後片づけはよろしくね。」
と言った。
男達は
『は、はい!ローサ様!!』
と、最敬礼のポーズをとった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私は舞踏会場のホールに戻った。
すると、ベルナールがすぐに私を見つけ、駆け寄ってきた。
「ローサ!気がついたら居なかったから驚いたよ!」
「…えぇ、私も驚いたわ…。」
私はドレスの裾をパンパンと払った。
「…おかげで、いい予行演習ができたよ。」
ベルナールはニコッと笑って、私の手を引いた。
「ねえ、どこに連れていくの?」
「いいから。」
……連れて行かれた先は、いつもベルナールが一人で座っている2人掛けのソファだった。
「ここに座って。」
ベルナールはソファを指差した。
「え?? えぇ…。」
私はソファに座った。
すると、ベルナールはソファの前で片膝をついて、私の方を向いて床に座った。
「え!?ベルナール、何してるの? なんで床に座ってるの!?」
するとベルナールは、
「もうローサは気付いているかも知れないけれど、私ベルナールはローサの事を心から愛しています。」
と、床に片膝をついたまま私に向かって言った。
(ええ、気付いてますとも…)
ベルナールは続けた。
「でも、私はローサの事を無理矢理手に入れようなどとはしない。私の事を受け入れてもらえるまで、いつまででも待つつもりだ。」
そして、
「だから今はローサの隣にはまだ座らない。ローサが私を受け入れてくれた時、初めて隣に座って、ずっとローサを守り続けたいと思う。」
…ベルナールは真っ直ぐな瞳で私を見つめていた。
「ベルナール、貴方って不思議な人ね。完璧そうに見えて少し抜けてる。」
私は目に涙を浮かべながら笑った。
ベルナールは表情を変えず、真っ直ぐに私を見ていた。
「ベルナール、なんで私がベルナールを受け入れてないと思ってるの?」
ベルナールはまだピンと来ていない様子だった。
「私はとっくにベルナールの事を受け入れているのよ。大好きよ。ベルナール。いつもありがとう。」
ベルナールにそう伝えると、私もソファから降り、床に座った。
「ローサ……」
ベルナールの表情から緊張が解きほぐされていく……。
「これでベルナールと私は隣同士ね。」
私は笑った。
ベルナールも目に涙を浮かべながら、
「でもここ、床だよ?」
と笑った。
「…どこに居ても、私を守ってくれるんでしょ?」
私はイタズラっぽくベルナールに尋ねた。
するとベルナールは私をギュッと抱きしめた。
「ああ。どこに居ても。」
私もベルナールを抱きしめ返した。
ベルナールの背中は想像以上にたくましかった。
ふと窓の外を見上げた。今宵は満月だった。
いつもは何とも思わないお月さま。
今夜だけは、私たちを祝福してくれているように見えた。
「ローサ、愛してる。」
-完-
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