【第1話】嫉妬女の対処法
「やあ!ローサ!」
ベルナールは颯爽とあらわれ、嬉しそうに私に手を振った。
私は一人で薬草の買い物を楽しんでいたのだが…。
「こんなところで会えるとは奇遇だな!」
…私の隣でニコニコと嬉しそうにしているのはアウレリウス公の『美貌令息』ベルナールだ。
あえて『美貌』と付けたのは、本当に誰もが振り返る『美貌』の持ち主だからだ。
その端正な風貌だけではなく、数学や経済学にも精通し、剣の腕前は騎士団長にも匹敵する。
それでいて、本人は少しも偉ぶるところがない。
そう、本当に理想の『貴公子』なのだ。
そんな『貴公子』から、なぜか私は『溺愛』されている…。
「ローサと会えたから今日は良い一日だ!」
「そ、そう…。ベルナール、私、薬草をゆっくり見たいんだけど…。」
「それなら一緒に見よう!私が一番ローサに似合う薬草を探してやろう!」
「は、はははは…。あ、ありがとう…。」
…私もベルナールと一緒にいるときは楽しい。なんだかすごくチカラがもらえる。
――――――ただし…。
「あ!ベルナール様よ!」
「きゃあ!初めて見ちゃった!素敵~!」
「てか、隣の女なに?」
「彼女気取り?? なんなのよアイツ!!」
――――――問題はこれだ…。
ベルナールに自覚は全くないが、道行く女性が皆、ベルナールが通るたびにザワついているのだ。
そして自然とその隣に居る私に矛先が来る訳なのだ。
実害が無いときは別にいいのだが、問題は……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あ!ローサにキマイラの薬草をプレゼントしたいけど銀貨が足りない!ちょっと待ってて!」
「え?私を残していくの?? てか、そんな高価な薬草いいのに…。」
「ちょっとだけ待ってて!ローサと会えると思ってなかったからそんなに持ってなかった!」
そう言うとベルナールは走って行ってしまった。
「フゥ…、いつも突っ走るなあ。」
私は背中が小さくなっていくベルナールを見送ると、
「…でもうれしい。ありがとう。」とつぶやいた。
結局、私は薬草通りの路地裏で待つことにした。すると・・・。
「ちょっと!アナタ!」
「え?」
「アナタよ!名前は知らないけど!ベルナール様と一緒に歩くなんてどういうつもり!?」
…問題勃発。
「は、はあ…」
私は頭をかいた。
「ま、アナタみたいな人、ベルナール様が相手する訳無いけど、身の程をわきまえなさいよ!」
ドレスを着て、頭に小さなティアラも乗せた、身なりに気を遣ってそうな女だった。
「身の程?」
私は聞き返した。
「そうよ!聞こえなかった!?」
腕組みをしながら私を罵ってくる女。
別に聞こえなかった訳では無い。
なので私は女にこう聞いた。
「あなた、私の名前も知らないって言ったわよね?」
「ええ!知る訳ないでしょ!」
「じゃあ、どうして私の『身の程』が分かるの?どうやって、名前も知らない私の『身の程』を判断したの?」
女は少したじろきながら、
「そ、そんなの見れば分かるわよ!」
と言った。
なので私は、
「そう、見れば分かるのね。すごい能力ね。すごいすごいっ」
私は女の顔の前でパチパチと拍手をした。
「な、なに?馬鹿にしてるの!?」
女はいらだった様子で言ってきた。なので私は、
「馬鹿にしてる?私は『すごい』って言って拍手しただけなんだけど。なんで馬鹿にされてるって思ったの?」
と言った。さらに、
「馬鹿にしていいなら思いっきり馬鹿にするけど?」
と言って笑った。
「ふざけないで!!アナタみたいなみすぼらしい格好した女、身の程をわきまえていないって思って当然じゃない!!」
と、女は私の服装を罵倒し始めた。
「そう?ふつうのグレーのローブ着てるだけだけど?」
私は両手でローブの裾をつかみ、お姫様のようなポーズを取った。
女は今度はプッと吹き出しながら、
「それがアナタの普段着⁇ まあ、アナタみたいな『レベル』の人にはお似合いかもね。」
と、勝ち誇った顔をした。
私は、
「そうなのね。じゃああなたの『レベル』とやらはどうなのかしら?」
と聞いた。
すると女は待ってましたとばかりに語り始めた。
「私?私のドレスが目に入らない⁇ まあ、アナタレベルには分からないかもしれないけど。これは隣の国のドレス職人のオーダーメイドなの。金貨20枚分の価値なのよ。金貨20枚よ。」
と、頼んでもいないのに私の前で一周した。
「どう?」
女は見下すような表情で私を見てきた。
なので私は、
「アナタが自分の価値を金貨20枚以下って思ってるって事は分かったわ。」
と答えた。
女は意味が分からないって表情をしながら、
「どういうこと?」
と聞いてきた。
なので私は、
「私には『レベルの低いワタシは金貨20枚のドレスを着て、ナントカ背伸びしています』って風に聞こえてしまっただけなの。人間って、自分で自分に値打ちを付けたら安っぽく見えてしまうものなの。ごめんなさいね。」
と女にウインクをした。
女はワナワナと震えながら、
「や、やめて!じゃあアナタはどうなのよ!」
と聞いてきた。
なので私は、
「私の服はふつうよ。銅貨10枚くらいよ」
と答えた。
女は黙っていたので続けた。
「私は自分自身の価値を『金貨何十枚程度』だとかそんな風に考えて生きてないの。だからそんな装飾で自分の『レベル』とやらを上げて価値を付けようなんて微塵も思わないの。」
そして、
「アナタが本当にその服が好きで着てるのなら、私は何も言わないわ。でも、自分を大きくみせるためにその服を着て、ましてやそれにより見ず知らずの他人を罵るような人間、アナタはどう思う?」
私は、
「馬鹿にせずにいられないと思わない?」
と言った。
女の顔が青ざめていくのが分かった。
最後に、
「私はそんな人間、軽蔑せずには居られないわ。」
と、腕を組みながら言い、薄目で女をにらんだ。
そして、
「二度と話しかけないで。失せろ。」
と言い、女を向こうへ追いやった。
スタコラと去っていく女と、向こうから帰ってきたベルナールがすれ違った。
女は、
「べ、ベルナール様!私のドレス、どうですか!?」
と、ベルナールの前で一周まわって見せた。
ベルナールは、
「……?特に何も付いていないようだが? 失礼。」
と言い、私のところに来た。
「あ!ローサのローブ、小さいヒツジの刺繍がついてる!」
「よ、よく気付いたわね。実は虫食いがあって…。」
「ローサらしくてすごく似合ってるよ!かわいい!」
と、ヒツジの刺繍を撫でてくれた。
それを見ていたさっきの女が、膝から崩れ落ち、頭をガンガン地面に打ちつけているのが見えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「…そういえばローサ、今度ウチで舞踏会があるんだけど、ローサも来てよ!」
「え!『ウチ』ってアウレリウス公邸!?無理無理!私、ダンスとか踊った事ないもの!」
「全然大丈夫だよ!私ベルナール、ずっと隣でローサに踊りを指南いたします。」
「いやいや、それはそれで別の問題が…」
舞踏会は若い女性も大勢着飾って参加するダンスパーティだ。嫌な予感しかしない…。
「ローサが来てくれるとなると、楽しみだなー!」
…ニコニコしてるベルナールとは裏腹に、私の心配は募るのであった。
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