幸せは桜と同じかもしれない
「次は志田、志田健二」
「はーい、ご紹介に預かりました志田健二です。彼女募集中ですのでみなさんよろしくー」
相変わらずだな。そう呆れながら守道は自分の番には何を言おうかと考える。誰の考えでそうなったのかは分からないがこのクラスでは名前順ではなく完全なランダムで席が決められており守道の席は真ん中後ろと言ったところだ。去年までは名前順だったはずなので今年から新しい試みなのかなと考えていると左隣の少女が立ち上がる。
「春日です。よろしくおねがいします」
それだけ言って彼女は座る。
「えーっと下の名前は?それとも間違って名前が載ってるのか?」
担任が名簿を確認する。
「いいえ、ただの春日です。苗字とか名前とか関係なく」
「そうなのか?初めて聞いたぞ。まぁいいか」
あっさりと彼女の言葉を信じ次の生徒に立つよう促す。
変わった名前の人もいるんだな。彼女を見ながらそう思っていると一瞬目が合う。思わず反射的に逸らしてしまい再び相手を見るに見れなくなる。
その後、特に何の変哲もない自己紹介を済ませ諸注意やこれからの学校行事の予定へと話は移っていった。
「俺からの話は以上だ。気をつけて帰れよー」
担任の話が終わったと同時に全員が一斉に帰り支度を始める。
「じゃあ後でね」
「場所取り頼んだぜ。行くぞ谷口」
山中たちは部活に顔を出したあとから荷物持ちに来てくれることになっているので先に二人でスーパーに向かうことにする。
「着替えたらお前ん家すぐ行くから」
「わかった。家で待ってるよ」
「「頼んだぞー幹事!」」
クラス全員からの声を背に教室を二人で飛び出す。
下駄箱で隣の席の少女に出くわした守道は声を掛ける。
「やぁ春日さん・・・だっけ?今日の花見、来てくれるの?」
「私は行か・・・」
「春日さんじゃん。可愛い名前だよね。それに苗字と名前が分かれてないって珍しいよね。今日の花見来るんでしょ」
「いや、わた・・・」
「待ってるからね!行こうぜ谷口!じゃああとでね!」
彼女が答えを言う前に結論を出して去っていく志田に呆れながら
「春日さん・・・僕も来てくれると嬉しいよ。無理強いはしないけど」
そう言って志田のあとを追った。
「これ頼んだ。こっちは俺が持つ」
あとからやってきた山中たちも加わりクラス全員分の食べ物と飲み物を運ぶ。力持ちの山中がお茶やジュースの入った箱を持ってくれたので見た目は大荷物だが思ったより軽い。これなら公園まで持っていけそうだ。
「あそこのスーパー安いよな。驚いたぜ。今度から俺もあそこで買い物するよ」
山中と一緒に荷物持ちに来てくれた山田の意見に他の者も首を縦に振る。
「お前ら知らなかったんだ。俺はよく谷口の家に行く時とかここでお菓子とか買って行くからな」
「そう言えば谷口とは遊んだことはあるけど家には行ったこと無かったよな。今度、行ってもいいか?」
「いいよ。佐藤と山田もおいでよ」
「おっあれ松本さんじゃね?」
志田に言われた方を見ると何人かのクラスメイトが公園に向かって歩いている所だった。
「おーい!松本さん!」
志田の声に振り返った彼女が手を振り返す。
「みんなもう集まってるって!」
それを聞いた守道たちは少し足を速める。
「急げ、谷口」
志田に急かされ早歩きで公園に着くと中では学校で声を掛けた顔がすでに集まってそれぞれグループを作っていた。その中で一人、ビニールシートの上に正座している少女を見つける。
「来てくれたんだ・・・」
不思議な安堵に包まれながら守道は手に持った食べ物をそれぞれの集まりに割り振っていく。
「みんな飲み物は行き届いたかー?」
「届いたからさっさと始めろ志田!」
「そうだそうだー!」
「じゃあみなさんこれから一年間、この志田健二をよろしくお願いします!っでは無く仲良くやろうぜ!乾杯っ!」
「「乾杯!!」」
乾杯の合図とともに一斉に騒ぎ出す。花見の予定だが誰も桜を見ること無く目の前の友達と喋っている。
「高橋さんと松本さんありがとうね。これだけ女子を集めてくれて。僕と志田だけじゃこんなに来てくれなかったよきっと」
「お礼なんていいわよ。それより買い出しご苦労様。重かったでしょ特に山中君」
「ほんと三人が来てくれて助かったよ。僕と志田だけじゃ無理だったよ」
「礼なんていらねぇよ。なぁ?」
山中が二人に同意を求めると佐藤と山田が頷き返す。
「俺ら向こうの方の奴らと話してくるよ。じゃあ後でな」
そう言い残して三人が離れていった。
「僕らも何か食べようか?お昼まだだからおなか空いてるでしょ?」
「そうね。美樹も荷物持って来なよ」
高橋にそう言われて自分の荷物と飲み物を取りに行く松本を見ながら手元にあったおにぎりとお茶を手に取る。
「ちょっと僕も声を掛けて来るから先に食べててよ」
そう言って一人桜の下に座っている少女の元へと向かう。
「やぁ来てくれたんだ」
「せっかく呼ばれたのにあなたに悪いかと思って・・・」
「そんなに気を使うことないよ。ただ来てくれてありがとう」
彼女の手元に空のコップだけが置かれているのを見た守道は手に持っていたおにぎりとお茶を渡す。
「春日さんもお昼まだでしょ?向こうに色々あるからおいでよ」
「私は・・・・」
彼女が何か言いかけた瞬間
「谷口やるじゃん。花見の場を使って女の子口説くなんてさ」
「志田とは違うでしょ。春日さんだっけ?珍しいわよね苗字と名前が一緒だなんて」
「高橋!それじゃまるで俺が女たらしみたいな言い方じゃないか」
「大体合ってる気がするよ」
「松本さんまで厳しいな」
次々に話しかけられ戸惑いを見せる春日に松本が声を掛ける。
「驚かせてごめんね。私、松本美樹。こっちが菜々子ちゃんで志田くんと谷口くん。一年間よろしくね」
そう言いながら伸ばした手を春日がそっと握り返す。
「そう言えば春日ちゃんは前は誰と同じクラスだったの?」
高橋の問いに
「私、引っ越して来たばっかりで今日からなの・・・だから知らない人ばかりで・・・」
そうだったのか。珍しい名前の持ち主だクラスが違っても名前ぐらいは聞いていてもおかしくなかったましてや去年からなら志田が全く知らなかったなんてことは無いはずだ。
「そっか転校生か。今日から僕たち友達だね」
「俺もいるんだけど・・・」
「志田のことは覚えなくていいわよ」
「菜々子厳しいねー。春日さんあっち行こうよ。食べ物いっぱいあるよ」
「ちょっ・・・わた・・・」
高橋と松本に連れられてクラスメイトたちが群がる食べ物を置いたシートにかけていく。守道には困ったような声を出しながらも少し口元が緩む彼女を見て何故か少し幸せな気分になった。
「恋か?」
「鯉?」
「そんなベタなダジャレはいい。お前、あの子のこと好きなの?」
「そんなんじゃないよ。ただ、いいな~って思っただけさ」
「それを恋と呼ぶと俺は聞いているが」
「ちょっと違う気がするな」
「まぁいいさ。あとから気がついて後悔だけはやめとけよ」
「なんだよそれ」
「お~い、谷口!こいつらが余興してくれるってさ」
「すぐ行くよ!山中!」
笑顔で手を振り返す。
こんなに楽しい花見ならまたやろう。花見だけじゃない。もっと色々やらないともったいない。そんなことを考えながらみんなが集まる場所に駆け寄って行く。