日常の幸せを噛み締める
「なんか見た顔が多くて新鮮味に欠けるな」
「言ってくれるわね志田くん。その言葉そっくりそのまま熨斗を付けて返すわ」
入り口の近くに立っていた女子生徒にそう返され二人は顔を見合わせて吹き出す。
「相変わらず厳しいね。おはよう高橋さん」
「あら、おはよう。谷口くんが遅刻なんて珍しいわね。志田病が伝染ったのかしら」
「菜々子は男の子に厳しいね」
奥の席からこちらにやってきた女の子が会話に参加してくる。
「えーっと・・・」
守道が名前が出てこずに詰まっていると彼女の方から挨拶してくる。
「松本美樹です。よろしくね」
「あぁ谷口守道です。初めてだよね一緒のクラスは。高橋さんとは友達なの?」
「中学のとき塾が一緒だったの」
「そっか。一年間よろしく」
涼子さんに渡されたプリントを教壇に置いた後、美樹に握手を求める。差し出した手を彼女が握り返す。見渡すと周りでも知った顔と全く知らない顔、見たことがあるような顔がそれぞれ塊となってあいさつをしているようだった。
「ところであなたたちが持ってきたそれ何?」
「あぁこれか。涼子さんに頼まれて今日のホームルームで配るプリントみたいだよ」
「涼子さん?」
事情を知らない美樹が疑問を口にする。
「あぁ美樹ちゃんは知らないんだよね。こいつと宮田先生って一緒に暮らしてるんだぜ」
「大事なところを端折り過ぎよ志田。美樹が固まってるじゃない」
「涼子さん・・・宮田先生は僕の叔母さんなんだ。親が小さいころ事故でね。だから涼子さんが僕を引き取って育ててくれてるんだ」
「そうだったんですか。ごめんなさい嫌なこと話させてしまって」
「松本さんは何も気にすること無いよ」
「そうよ。悪いのは志田なんだから罰として全員にジュース奢りなさいよ」
「なんでそうなるんだよ。まぁ丁度いいや二人とも今日は学校終わってから用事はある?」
「無いけどどうして?」
「今日、学校が終わったあとみんなを誘って花見に行かないか?って話を谷口と二人でしてたんだよ」
「いいわねそれ。これから一年よろしくって言う挨拶も兼ねてみんなでやりましょうよ。女子には私が声を掛けておくから」
「了解!じゃあ男子は俺と谷口で声を掛けるよ。それから・・・」
続きを話そうとした時、扉が開き担任が入ってくる。
「おーい!おしゃべりはあとにして出席とるぞ」
「話はあとでしよう」
そう言って守道も黒板の座席表を確認しながら席を探す。目をやると一箇所空いている場所があり黒板の自分の名前の場所と一致する。
「ここか・・・」
席に腰掛け隣をふと見ると髪の長い大人しそうな少女が横に座っている。
見たこと無いな・・・去年は別のクラスだったかな・・・
そんなことを思いながら教壇の方に目をやる。始業式の注意事項と明日以降の予定を話しているところだった。
なんという名前だったんだろ・・・担任の名前を聞き忘れたな。後で志田に聞いておこう。春の日差しに少しうとうととしてしまったときだった。
「見つけた・・・」