#08 傭兵ギルド -Mercenary Guild-
「マスター、調査が終わりました」
「調査結果はどうだった?」
スクリーンに詳細なスキャンデータとイースが撮影してた映像を表示する。
「あのアンノウンの内部ですが、一部に不明な機械が入っており、それ以外は生物でした」
「!? アレが生物なのか?魔物みたいな物って事?」
「はい。アンノウンの頭部と思われる場所に不明な機械が入っており、それ以外の構造は生物といっても差し支えないと思われます」
説明するエルもどこか困惑した表情をしている。
「ドリルで貫いたけど、よく頭部に入ってた機械が無事だったな」
「半壊していたので、無事ではないです。機械の一部が残っていたので、そこからの推察になります」
「調べたアンノウンはどうした?」
「用心の為、外でイースに監視させています。艦内に運んで調べずにイースを使って外で調べたので」
「もう動かないよな?それなら、頑丈な箱に入れて厳重に封印するか」
コウは宇宙空間に漂っているアンノウンを見つめながら言う。
「生体反応がもう無いので大丈夫ですが、封印してどうするんですか?」
「貨物室に入るよな? 封印したら積み込んで、傭兵ギルド本部に手土産だな」
「承知しました。運び込んだ後もイース5機を監視につけます」
「頼む。さて、積み込んだら目的の小惑星帯に向かって移動するか」
エルが警備アンドロイドを伴って貨物室へと向かう。
回収用のコンテナが宇宙空間に射出されたら、マニピュレーターを使って詰め込む。詰め込んだコンテナにイース5機がワイヤーを取り付け、牽引して貨物室へ。
貨物室では待ち構えていた工作班が厳重に封印処理を施していく。
スクリーン越しにその様子を眺めていると、エルから艦内通信が入る。
『マスター、処理が終わりました』
「わかった。出発するぞ」
ずっと動画撮影状態だったのを停止し、ソル・ステラの航行を再開する。
今回はしっかりとステルス状態にして航行速度を上げていく。
そこへエルがブリッジに戻って来た。
「エル、宇宙は航行時間長すぎるから、トレーニングルームが欲しいのだが、余ってる部屋はあるか?」
「沢山ありますよ。そもそも、増えたクルーがマスターだけですので」
「そりゃそうか。なら工作班にトレーニング器具を作って欲しいんだが、この世界にも存在するか?」
「お待ちください。 ……あるみたいですね。今スクリーンに表示させます」
スクリーンに表示されたトレーニング器具は現実世界と大差ないものだった。
「この器具とかって工作班が作れたりしない?」
「機構も単純ですし、特に問題無いと思われます」
「なら、ランニングマシーンと懸垂マシン、腹筋ベンチを頼めるか?」
「承知しました。材料も大してかからないですし、指示しておきますね」
「出来上がったら余ってる部屋に運び込んで、今後はそこがトレーニングルームだな」
周囲を警戒しながら操艦するコウ。
サポートとしての仕事が出来てニコニコのエル。
床でゴロゴロしたくてもカプセルに入っているので出来ないブラン。
三者三葉である。
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特に戦闘も無く12時間航行し、目的地への行程も後半部になった。
ソル・ステラをアステロイドの影に入れ、周囲の安全確認をする。
ブリッジからリビングに移動し、エルに入れて貰ったお茶を飲みながら話す。
「よし、一旦ログアウトするから皆も休んでくれ」
「承知しました。マスター、次航行する時は自動操縦を使用しては?」
「それは考えたんだが、不意打ちで海賊来た時とか困るだろ?」
「私は艦の状態をどこにいても把握出来ますし、残りのイースを護衛につければ問題無いかと。敵が現れたら私がお知らせしますし、マスターがブリッジに来る時間はイースで稼げるかと。それに、ソル・ステラの防御シールドはそう易々と抜けませんので」
「じゃあ、次回に一度試してみるか。長時間ずっと操艦してるのは辛いしな」
「ワフッ!!!」
「ああ、ブランも辛かったか。…そんなに床でゴロゴロしたいのかよ。 次は明後日に来るから」
「はい。お待ちしております」
「ワン!」
お辞儀してるエルの横で、早速ゴロゴロしてるブランを見ながらログアウトする。
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UWOの世界から戻って来たコウはVRゴーグルを外し、トイレと水分補給を済ましてベッドに入って眠りにつく。
翌朝、デートへ行く両親を見送ってから朝食を食べる。テレビを見ていると、UWOが朝のニュース番組で取り上げられている。
最初のワールドアナウンスが流れるまでは、コンテンツが少なくてそれなりに不満があったが、ワールドアナウンスでもろもろ解放されてからは好評に転じた様だ。
航宙はトーストを齧りながら番組を見る。
「そりゃ、アレじゃあ不満もたまるよなぁ。 冒険者ギルド使えなくしたのが悪手だと思うわ。ぶっちゃけ、いくら視界に映る映像や感触が凄くても、戦闘艦探索しか具体的にやる事無いのヤバいと思うわ。運営サイドはゲーム開始直後、どんなゲームデザインを考えていたんだ? ステータスのマスクデータ多すぎて皆攻略に対して慎重になるし、悪循環だったろあれ」
「まぁ、俺は現地の人と交流してそれなりに楽しんでたし、エル達にも出会えたから幸運だったが」
そのまま番組を見てると運営の人が電話出演して、第二陣について話している。
番組の中で、”宇宙が解放されたばかりだから、プレイヤーが各惑星に散らばるまで待って欲しい” と言っている。理由は、”散らばった時のサーバー負荷を確認したい” との事だ。
「確かに”エアスト”以外に4つの惑星があるし、”エアスト”だってベナウィー以外の街も当然あるだろうし、宇宙空間にも太陽・月・小惑星帯・その他にもありそうだし、サーバー負荷ヤバそうだもんな」
他人事の様に番組を見つめつつ、食べ終わった食器を片付け、テレビを消し自室に戻る。
VRゴーグルを装着し、ベッドで横になりログインする。
――――――――――――――――――――
ソル・ステラのリビングで目を覚ますといつも通りの1人?と1匹が居る。
「マスター、お帰りなさいませ」
「ワフッ」
「ただいま。もう恒例だが、何か報告はあるか?」
「丸一日時間があったので、工作班が張り切りました」
「…わかった。その報告は自動航行を試している時に聞こう。コンテナは?」
「承知しました。 コンテナの方は特に問題ありません」
早速、ブリッジに移動し宇宙で自動航行を試す。
「これより自動航行を試す。エル、イースをステルスで護衛に付けてくれ」
「待機状態のイース5機をステルスモードで射出。…配置に着きました」
エルがコンテナの監視をしていない残りの5機を艦の護衛に付ける。
「これより自動航行を開始する。ブリッジクルーのアンドロイド達は何かあればエルに伝えてくれ」
ブリッジ班のアンドロイド達は親指を立てて応じる。
自動航行の速度設定を高めにし、艦のステルスモードも起動する。
エルとブランを連れてリビングに行き、報告の続きを聞く。
「じゃあ、工作班の報告を頼む」
「承知しました。まず、トレーニング器具ですが、すべて制作済みで既に運び込んでおります。部屋の名前も”トレーニングルーム”にし、艦内マップにも追記済みです」
「また、マスターが発注したスナイパーライフルのアタッチメントも製作していたのですが、退屈だったので、バラして1から作り直しました!」
「はぁ? せっかくオルターさんが作ってくれたのに何してんだよ… すぐに戻しなさい」
「ご安心下さい! 外見は殆ど変えずに、中身の機構を変えたので問題ありません!」
「”殆ど”ってどういう事だよ…」
「若干、パーツが増えてるのでその分ですね。もし製作者の方に聞かれても”アタッチメント”で通せば問題無いと思います」
このナビゲーションAIと工作班が組むと暴走しがちなのが玉に瑕である。
エルがドヤ顔しながら現物を持ってくる。
「マスターの目でご確認下さい。 真面目な話、改造前の状態だと直ぐに使い物にならなくなると思います。改造前の性能は、今のレベルのマスターで丁度良いくらいです。今後、格上と戦闘する可能性を考えると、厳しいですね」
エルは真面目な顔をしながら説明を続ける。
「これが、”エアスト”内であれば、その都度ベナウィーを訪れて装備を更新すれば済みますが、行動範囲が広いであろう傭兵ギルドだと、それも難しくなるでしょう。 今後は、ソル・ステラに素材を貯めこみつつ、工作班に装備を更新して貰う事になると思います。
今回のスナイパーライフルも元から使われている部品をすべて使用し、更にこちらで追加して作った物なので、言うなれば新しく生まれ変わったって事ですね!」
「まぁ、やってしまったものは仕方ないか…」
若干、厳つい感じになったが白と黒の外見に大幅な変更は無い。
手に持って確認するコウは少し重量が増えた事に戸惑ったが、取り回しに概ね問題はないと判断する。
「取り敢えず試射して確認したい所だな」
「マスター、工作室の隣に新しく射撃場を作ったので、そちらをご利用下さい」
ゴロゴロしてるブランを放置して、エルと新しく出来た射撃場へ。
――射撃場は25m程のサイズしかないが、試射する分には問題無い。しかし、便利過ぎるな”空間拡張技術”。
そこで生まれ変わった武器の説明を受ける。
「新生されたスナイパーライフル”シューティア”ですが、威力向上と弾丸の切り替えが出来るようになりました」
「向上も何も、一度も使ってないから元の威力を知らないのだが、そこの所どう思う?」
「威力の変化に戸惑う事も無く、素早く馴染めると思います!」
エルに嫌味は通じないと学習した瞬間である。
「グリップの左側にセレクタースイッチがあるので、それで光学弾か実弾か選択してください。そして、グリップの右側にあるセレクタースイッチで単発か3点バーストか選べます。 後は、グリップの底にある結晶に魔力を込めると、魔法アンカーが射出されて銃を固定する事が出来ます。」
「アンカーは3点バーストを使用する時に使う感じか」
「はい。それ以外にも銃を固定し安定して狙えるので、使いどころはあるかと」
「一度試射してみるか…」
コウは実弾モードにしたスナイパーライフル”シューティア”を構える。
《ドォォン! ドォォン!》
低いうなり声の様な音を発しながら弾丸が打ち出されていく。気がつけば、既に的が粉々に砕け散っていた。
「破壊力凄いな。だが、音をもう少し何とかしたい。サプレッサーは無いのか?」
「バッチリ製作済みです! こちらをどうぞ」
エルが大きめの筒の様な物を渡してきた。発砲音を抑えるサプレッサー(消音装置)だ。
コウは銃身の先にサプレッサーを取り付け、再度試射を試みる。
《ボォン!ボォン!》
「多少マシになったか。実弾モードは確認出来たから次は光学モードだな」
セレクターを光学モードに切り替える。試射に入ろうとするとエルが待ったをかける。
「マスター、サプレッサーは光学モードだと意味がありませんので、外して使用してください」
「やっぱりサプレッサーは実弾用か。このまま撃つと何かまずいか?」
「装着したまま撃っても大丈夫ではありますが、射撃間隔を空けないとサプレッサー内部がビームの熱でダメになりますので注意が必要です」
エルの説明を聞いた後、サプレッサーを装着したまま試射をする。
《チュイン! ………チュイン!》
「うん、やっぱり静かだな。弾速は光学モードの方が速いかな? 弾種を変更する度にサプレッサー付け替えは面倒だから、このままで行くか。 この銃、実弾だと対物ライフルで、光学弾だとスナイパーライフルって感じだな。…間違いなく実弾で対人狙撃は出来ないな」
軽く行った試射に満足したコウは、的を回収して確認する。実弾は砕け散ったが、光学弾は狙った一点をしっかりと貫通していた。
「破壊力の実弾と貫通力の光学弾って感じだな」
「そうですね。遠距離から実弾で敵を掃討し、指揮官は光学弾で狙撃が良いと思います! それと、射程は使用者の力量にもよりますが、600~3000mです。それ以下の距離にはシグルド&カーミラと”ブリンガー”をお使い下さい」
「”ブリンガー”って何だ?」
コウがそう言った瞬間、エルが頬を膨らませて言葉を返す。
「お忘れですか!? 工作班がマスターの為に製作した光学式近接武装ですよ!」
「ああ! 俺は”忍者刀”って呼んでたから、すっかり銘を忘れていた。すまないな」
「では、今後は”忍者刀・ブリンガー”として”忘れない様に”して下さい」
「あ、ああ。今後は気を付けるよ…」
エルは笑みを浮かべているが、目が全く笑っていなかった。
今後は気を付けようと心に刻むコウだった。
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その後、目的地の小惑星帯に着くまで、トレーニングや購入した野菜を中心とした食事、工作班とエルを交えて装備に関する雑談等で時間を潰した。
ゲーム内で丸一日移動したので、小惑星帯の本格的なギルド本部探しは、一旦ログアウトして休んでからとなった。
「小惑星帯に着いたが、ここまで強行軍だったので一旦休憩しよう」
「承知しました。マスターは、次いつ頃お見えになりますか?」
「半日後にまた来るよ」
「ではお待ちしてますね」
「ウォン!」
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~12時間後~
「よし、始めるか。エル、周囲一帯のアステロイドをスキャンしてくれ」
「スキャン開始します。 ……この辺りには反応は無いようです」
「わかった。ブランは索敵強化を頼むな」
「ウォンッ!」
周囲一帯をスキャンして反応が無ければ移動。そしてまたスキャン~と繰り返して、虱潰しに探索して行く。その間、ブランはアンドロイド達と協力して索敵強化に努め、周囲の敵性反応を調べる。
漆黒の宇宙で、アステロイドを利用した敵襲に警戒しながらの探索は、神経を擦り減らしていく。
「ん?エル、右奥に見えるあの塊はなんだ?」
操艦席に座るコウは、視界右奥に映る大きな塊に気づいた。かなりの大きさで、内部には複数の戦闘艦が余裕で入りそうだ。
「アレは複数のアステロイドが寄り集まって、一つの塊になっているみたいですね。スキャンには特に異常は見られませんね」
「イースを1機、あのアステロイドに回してくれ。個々のアステロイドがどうやって塊になってるのか気になる。そのまま繋ぎ目や、周囲を調べてくれ」
「承知しました。イースを1機回します」
イースはアステロイドの周囲を飛び回り、搭載されたカメラでブリッジに映像を送る。
「…今の所、どうやって塊になっているのかわかりませんね」
「”複数のアステロイドが塊になっている”事に、違和感しか無いし露骨なんだよ。露骨過ぎてハズレの可能性も充分あるけど、直接調べてみるか」
コウはソル・ステラで近づき、マニピュレーターを起動する。
「マスター、どうなさるんですか?」
「マニピュレーターでアステロイドを剥がしてみようかと思ってな」
マニピュレーターでアステロイドを掴むが動く様子は無い。コウは、動きそうな所をマニピュレーターで触れながら探しつつ、周囲を移動する。
丁度、裏手に移動したあたりでマニピュレーターがアステロイドを貫通した。
「!? これはアタリかな?」
何度も確認するが、一部のアステロイドにだけ触れられず、マニピュレーターの腕が貫通する。
その光景を見てエルは通常スキャンでは無く、高密度スキャンをかける。
「最初に調べた表側は本物のアステロイドで、裏側の一部がスキャン妨害を搭載した投影装置で擬態されているようですね。表側のスキャン結果ですっかり騙されてしまいました」
「あまり気にするな。 内部にはイースを突入させてみてくれ」
「承知しました。イースを突入させます。 ………カメラ映像来ます!」
そこに映ったのは、白い要塞の様な物が浮かんでいた。宇宙港よりは小さいが、それでも充分な大きさだった。
「これ傭兵ギルド本部で確定だろ! そうじゃなかったら海賊のねぐらだな」
念の為、武装を展開させたソル・ステラを内部に突入させる。
「私達が侵入してきてるのに、警告や迎撃が無い時点で海賊の線は消えるかと」
「だよな。よし、艦を停泊させて乗り込むぞ。 戦闘艦って俺が離れても、亜空間に入らずに留まる事って出来るのか?」
「可能です!」
「なら、亜空間に入らずに周囲を警戒しながら待機していてくれ」
「承知しました。何かあればご連絡下さい。艦の武装をぶっ放しますので!」
腕まくりしなが物騒な宣言をするエル。
「脳筋すぎないか…」
「ワフゥ…」
「エル、ブランも呆れてるぞ。ぶっ放す前に、まずはイースを飛ばせ。何の為の小型自立支援機だよ」
「じょ、冗談ですよマスター。 ……承知しました」
不承不承で頷く脳筋ナビゲーションAI。
「マスター、この内部は大気が安定し酸素もあるようです。生身で行動できます」
「わかった。そんじゃ、行くぞブラン」
「ワフッ!」
ブランを連れて艦を下りる。気配察知を広げながら移動し、建物の正面にある大きな門の前に立つ。
とても立派な建物で、左右にまるで城壁の様な壁が走っている。それぞれの角には球体の様な物が佇んでおり、見張りの役目を負っている様だ。
コウが門に近づくと、自然と門が開き出した。
「入っても良いようだ。…ブラン、入るぞ。警戒しろ」
「ウォフッ!」
門を潜り、真っすぐ建物の玄関に向かう。
玄関に続く石畳の左右には等間隔で、武器を持った男女の像がそれぞれ立っている。
そのまま中に入ると、広い玄関ホールがコウとブランを出迎えた。ギルドと言うより、広いお屋敷みたいだ。玄関ホールにはロビーに小洒落たラウンジがある。
辺りを見回していると、奥の階段から一人の女性NPCが出て来た。
「あなたはコウくんね?合格よ。おめでとう。これで君は正式に傭兵ギルド所属になるわ」
二十代後半くらいに見える灰色の髪をロングにした、碧眼のスタイルの良い女性が出迎えてくれた。
「私は傭兵ギルド本部・グランドマスターのアメリアよ。アメリアって呼んで。宜しくね」
「自分はコウです。こっちは従魔のブラン。こちらこそ宜しくお願いします」
「ワフッ」
「この子はブランくんって言うのね。宜しくね」
ブランをワシャワシャと撫でた後、ウィンクをしながら手を差し出してくるアメリアと握手をする。コウは、握手が終わったタイミングで聞きたかった事を尋ねた。
「あの、何で自分の名前を?」
「試験を通達されたタイミングで私の方に連絡が来るのよ。それに、君の顔は書類で知っていたからね」
「そうでしたか。 アメリアさん、ここを見つけて辿り着くのが正式所属の試験って話でしたけど、惑星ギルドも似たような事をやっているんですか?」
「いいえ、正式所属試験なんてものをやっているのはウチだけよ。 理由としては、惑星ギルドの連中は基本的に集団で群れてるけど、傭兵ギルドは単独行動または少人数での行動が基本だから。 個々の判断や探索・忍耐・戦闘能力が重要になってくるわ」
「まぁ、道中で敵と遭遇するかは運だから、今回は戦闘能力を見る為の試験では無いけどね。 ギルドの方向性としては、我が傭兵ギルドは”量より質”だけど、惑星ギルドの連中は”質より量”なのよ。ああ、この事は内緒ね。異世界人の中で話が広まって、こっちに来られても困るから」
量より質の傭兵ギルド、質より量の惑星ギルド。
水と油で仲が悪そうだと思うコウであった。
「そんな理由だったのですね。でも、話が広まって所属員が増えるのは嬉しい事ではないのですか?」
「君の様に正式所属試験を突破しているなら嬉しいけど、多分、そうはならないわね。そうなると今度は、”この試験内容が難しい”やら”クリアさせる気が無い”やら、声を大にして文句言いだす子が出て来て面倒になるわね。受ける人数が増えるとそういう人も少なからず出て来るわ」
アメリアはもう一つあったと言い、口を開く
「後、他のギルドを選んだのに、簡単に手のひら返す様な子もお断りね。信用ならないわ」
「あー……」
アメリアはうんざりした顔でそう話す。そして、追加情報を投下する。
「コウくん。ここだけの話だけど、上から通達があって傭兵ギルドは所属条件を設ける事になったのよ」
「所属条件ですか?」
「ええ。条件は ”ソロ限定” で、クランに入ってる人は無理。それに加え、正式所属試験突破者のみ。勿論、コウくんの様な正式所属者がギルド本部の場所をリークしたりしたら、問答無用で登録抹消になるわね!」
「そんな事はしませんよ。そもそも、他の異世界人との交流はほぼ無いので。寧ろ、この世界の人達の方が交流ありますね」
アメリアが嬉しそうな顔をする。
「前に異世界人がこの世界に来た時は、”態度が悪い”と評判最悪だったわ。コウくんみたいな子は歓迎よ。私とも仲良くしてね!」
脳内でいつもの効果音が鳴る。NPCのフレンドがまた一人…
「はい。ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、仲良くしてください。あっ、アメリアさんにお土産がありました」
コウはアンノウンの事を思い出したので、アメリアに詳細を話す。
「未確認の敵対生物ね…それはまたとんでも無いお土産だわ。じゃあ、格納港を開けるからそっちに持ってきて貰える?」
「わかりました。では、持ってきますね」
コウとブランは一度ソル・ステラに戻り、エル達に事情を話して艦を格納港に移動させる。
要塞の様なギルド本部の下側にある巨大な扉が開き出した。あれが格納港の様だ。
格納港入口ではアメリアが興味深げにソル・ステラを見上げていた。
白と黒の美しい船体がアメリアの前に現れる。
「これがコウくんの戦闘艦…」
ソル・ステラの後部貨物ハッチが開き、イースがコンテナを運んでいく。
『アメリアさん、コンテナは何処に運べばいいですか?』
コウがソル・ステラを操艦しながら尋ねる。
「格納港の奥に倉庫があるから、そこに頼める?」
『わかりました』
エルがイースに指示を出し、倉庫にコンテナを運んでいく。
ソル・ステラを格納港に停泊させ、今回はエルも伴って下船する。
アメリアがこちらに気づき近づいて来る。
「凄い船ね。通常の戦闘艦よりサイズも大きいし、船体も美しい」
「ありがとうございます」
コウはお礼を言いつつ、エルを紹介する。
「アメリアさん、こっちは艦のナビゲーションAIで、エルと言います」
「万能型戦闘艦ソル・ステラのナビゲーションAI・エルです」
「実体を持っていて動き回れるAIなの!? 今まで見た事も無いわ… 傭兵ギルド本部グランドマスターのアメリアよ。宜しくね」
「こちらこそ宜しくお願いします」
エルとアメリアが握手をする。
「素晴らしい船ね。コンテナよりも気になって仕方ないわ」
アメリアのその発言を受け、コウが何か言う前に毅然とした態度でエルが言う。
「申し訳ありませんが、マスター以外の乗艦は認められませんし、詳細をお話するつもりもありませんので、邪な考えは抱かない方がよろしいかと」
「これは手厳しい。情報は武器だし飯のタネだから仕方ないわね。諦めるわ」
アメリアが大人しく引き下がったのを見て満足げなエル。険悪な雰囲気にならなくて胸を撫で下ろしたコウは、アメリアに尋ねる。
「アメリアさん、コンテナを確認して欲しいのですが」
「そうだったわね! では倉庫の方に移動しましょうか」
エルとブランが同行するので、艦は亜空間に移動させておく。奥の倉庫では、イースが待機状態でこちらの指示を待っていた。
コウが目でアメリアに問うと彼女は頷く。
「イース、コンテナの封印解除をしてくれ」
コウが指示を出すと、小型自立支援機イースはコンテナを開封していく。
開封され、現れた”アンノウン”を見てアメリアは確信する。
「ああ、やっぱりね。しかし、倒して回収とはお手柄だわコウくん!」
「アメリアさんは何か知っているんですか?」
「コレは以前から定期的に存在は確認されていて、戦闘もあったんだけど、艦砲が一切効かずにこっちが大損害を被っているわ。……コードネーム”アルファ”って言ってたかな?」
「(やっぱり”アルファ”ってこいつか…)では今回の回収が初めて?」
「そうなるわ。大穴が開いているけど、どうやって倒したの?」
「ビーム砲が弾かれたんで、大型採掘ドリルを射出して倒しました」
アメリアが頭を抱える。何となくマニピュレーターは隠し玉になりそうなので、それを伏せた状態で説明するコウ。
「ミサイルも薄いですが効果があったので、物理が有効だと思った結果ですね」
「それでこの大穴ね。この敵、動きが結構早いのに良く捕らえられたわね」
「こっちを背後から狙っていたので、気づかない振りをしつつ動かれる前に速攻で仕留めました。ですので、相手の手の内とか挙動の類が全く分からないんですよね」
「その速攻の過程でビームが効かず、ミサイルが効いて物理有効と判断し、この結果ね。 …コウ君は戦闘能力も問題無さそうね。 その身のこなしの感じだと白兵戦も行けるでしょ?」
身のこなし?忍者の鍛錬の影響か?それともレベルアップに伴うステータス上昇で身のこなしが変わるのか?
そう言えばエル達に忍者刀の由来を説明する時に、そもそも”忍者”がわからず、そこから色々教える事になったなぁ。その場に工作班が居た事に一抹の不安があるが…
「うーん、どうでしょうか?白兵戦は何とも言えませんね」
「まぁ、そういう事にしてあげる。この死体はこちらで回収して、上層部には”物理攻撃が有効”と併せて報告しておくわね」
「お願いします」
イースを艦に戻し、エルとブランを伴ったままアメリアとホールに戻る。
ホールに戻った直後、アメリアに通信が入ったようだ。
「…コウくん、お仲間が増えるかもしれないわ」
「? どう言う意味ですか?」
「今、正式所属試験を受けてるのが2グループ居るみたいね。3人組と2人組で」
「クランに入っていない人なんですよね?たまたま出会ったのかな?」
アメリアが何やら情報を確認している。
「そうね。クランにも入っていないわね。道中で出会って組んだのかもしれないわ」
「同じソロプレイヤーか。どんな人達なんでしょうね…」
「両方とも現在地は…、宙域地図で真ん中辺りにある小惑星帯に居るわね」
「ああ、あの一杯ある所ですか…」
「送られた情報によると、中央の探索は終わったみたい。これからこっちに来そうね」
アメリアはタブレットの様な物を見ながら教えてくれる。
情報が気になったコウは尋ねる。
「どうやって情報を得ているんですか?」
「中央は小惑星帯が多いのもあって、遭難とか海賊とか出やすいのよ。だから、アステロイドに監視カメラを仕込んであるの。ワープ通信でラグは殆ど無いわ」
――ワープ通信便利だな!
「便利ですね。では、自分達は艦で少し休みますね」
「わかったわ。大体1日くらいでここの近辺に来そうだから、明日、顔合わせも兼ねてコウくんも本部に来てね」
「わかりました」
終始大人しくしていたエルとブランを連れて、格納港に停泊しているソル・ステラに戻る。
そのままリビングで一息ついていたら、エルが言葉を発する。
「マスター。”エアスト”からここ、”傭兵ギルド本部”までの航路が確立されましたので、今後この間のルートは”ワープ航法”が使用可能になりました」
「ワープ航法!?」
「はい。ワープ航法は、通常航路で移動した場合の1/4の時間で目的地に辿り着きます。今回で言えば、ここまで丸2日の航行ですから、半日の12時間で辿り着けるようになります」
「さすがに一瞬では無いか。それでも充分だけど」
<<ワールドアナウンスです。複数のプレイヤーが惑星から目的地への航路を開拓した事で、ワープ航法機能が開示されました。詳細はヘルプを参照してください>>
「おっ、ワールドアナウンスか」
「マスター、また神のお告げがあったのですか?」
「ワープ航法機能が開示されたとか何とか」
「宇宙の移動は時間がかかるので、ワープ航法を周知して、異世界人の方々のやる気を上げようとしているのかもしれませんね」
「そうかもなぁ。 ヘルプで確認しておくか」
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【ヘルプ】
戦闘艦のワープ航法について
・「出発地」又は「出発惑星」から「目的地」又は「目的の惑星」に辿り着いたら、道中の航路が新たに開拓される。その航路を利用したワープが可能になる。
・開拓された航路は開拓したプレイヤー個人のもの。 プレイヤー個別に航路を開拓する必要がある。
・航路のルートはプレイヤーが目的の場所へと辿った道なので、プレイヤー毎に航路は違う。
・航路が開拓された「惑星同士」で、お互いの惑星出身のNPCによる直接交流が開始される。 航路を開拓したプレイヤー人数に応じて交流が盛んになる。
・ワープは一瞬で辿り着くわけではなく、あくまで移動時間の短縮。
・通常航路で移動する時間の1/4で移動する事が出来る。
・ワープ中は通常航路では無く、専用のワープ空間を移動する事になる。「基本的には」他の艦と敵には遭遇しない。
・あくまで「出発地」又は「出発惑星」から「目的地」又は「目的惑星」間の「航路」のみの開拓なので、他の惑星間ルートは新たに開拓しないといけない。
・PTやクランで移動する場合、そのリーダーが開拓した航路が使用可能になる。
・ワープ空間の中限定で、ログアウトしても艦は亜空間で待機状態にならず、目的地に進む様になる。
・ワープ空間でログアウト中に目的地に辿り着いた場合は、ワープアウト直後の場所で亜空間待機状態になる。
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お読みいただきありがとうございます。