#07 遭遇 -Encounter-
洞窟での採掘を終え艦に戻ったコウとブランは、出迎えたエルと共にそのまま工作室へ向かう。
「お帰りなさいませ。首尾はどうでした?」
「レベル上げが結構捗ったな。鉱石はかなり掘ったけど、良し悪しは分からないから何とも言えんな。そっちで判断してくれ」
「承知しました。 ブランもお疲れ様!」
「ウォフッ!」
工作室に辿り着き、そのまま作業場に鉱石をインベントリとブランの影から出していく。
鉱石の内訳は、ローズクォーツ・ミスリル・ペリドット・金鉱石・銀鉱石・鉄鉱石・トルマリン・ブラックオニキス。鉱脈が数百年単位で手付かずだったせいか、かなりの採掘量だった。
「!! …これはまた凄い量ですね」
エルは工作班アンドロイドと鉱石を検分していく
「ついでに、倒したモンスターの素材も置いておくわ。こっちも結構あるぞ!」
「隅にまとめて置いといてもらえますか」
「アッハイ…」
「ワフ…」
エルと工作班は素材よりも鉱石まっしぐらである。時々、鉱石の利用方法を工作班と何やら相談してる様で、真剣そのものだ。
待っているのに飽きたコウとブランは、ブランは床にゴロゴロし始め、コウは壁際に設置されているソファーに座りメニューを開く。
UWOはゲーム内でメニューから、公式HP・専用掲示板・公式攻略wiki にアクセスが出来る。当然他のサイトにはアクセス出来無いが。 攻略wiki に関しては、公式側が掲示板と同じようにサーバーを用意し、有志が掲示板の報告その他を纏めて作り上げている。攻略以外にも、施設の説明や重要現地人(NPC)の情報も纏められている。
因みに、ゲーム内からアクセス出来る3つの公式関連サイトは、時間の流れが違う為、現実世界とサーバーは別になっている。
現実側の公式関連サイトだと決まった時刻に纏めて更新が反映される。そして、現実側からの書き込みは出来ない様になっている。
コウは掲示板にアクセスし他のプレイヤーのレベル帯を調べていく。
「平均レベル帯は12~20で、現在のトップがレベル25なのか」
「今の俺のレベルは17、ブランが18 …宇宙行ってみるか。厳しい様だったら戻って来てレベル上げしよう」
今後の事を考えていると、エルがこちらに近づいて来る
「マスター、鉱石の検分が終わりましたが、素晴らしいですね。長い年月放置されていたのもあって、量も品質も充分です! これなら、マスターの装備や艦の資材として有効活用出来ます」
「あー、鉱石の一部をお世話になったオルターさんに譲りたいのだが…」
エルがその場を離れ工作班の所へ。
…相談が終わったのか、戻って来たエルが口を開く。
「ミスリル・ペリドット・鉄鉱石・トルマリン・ブラックオニキスなら、少量融通しても大丈夫です。あくまで”少量”ですが。」
「悪いな。早速だが、融通しても大丈夫な鉱石を別に分けておいてくれないか?」
側に来ていた工作班アンドロイドが頷いて作業を開始する
コウは一度ログアウトする事をエルに告げて、自室に移動する。ベッドで横になり、そのままログアウトして現実世界に戻って来る。
――――――――――――――――――――
「……長時間プレイは精神的な疲れが酷いな。もうちょっと何とかならないだろうか。いや、ログインしている時間を短縮すれば良いのはわかっているのだけど」
ベッドから起き上がり思いっきり伸びをした後、いつもの様に凝り固まった体を解すためのストレッチをする
「今何時だ?」
時計を確認すると17時になったばかりだ。時間を確認した航宙は水分補給の為、1階へ降りる。すると、リビングに父親が居る事に気づいた。
「あれ?お帰り。父さん仕事終わったの?」
「ただいま航宙。 長期フライトが終わってそのまま直帰だよ。明日明後日休んで、またフライトだけどね…」
父は疲れた顔で苦笑いをしている。
航宙の父親である風馬貴弘は旅客機パイロットをしている。勤務形態が中々不規則ではあるが、母親である風馬杏奈とはラブラブだ。本人達曰く、適度に会えないのが良いとの事。
「そうなんだ。まぁ、ゆっくり休んで」
飲み物を取りにキッチンへ行くと、母親が料理中だった。航宙は、料理中の母を横目に冷蔵庫から麦茶を取り出し喉を潤していく。
「航宙、お母さん達明日デートに行ってくるね。夜遅くなるから」
「わかった。夜は適当に作って食べるよ」
リビングに戻ると父がUWOのCMを見ていた。
「これ航宙が遊んでるやつだよね? 面白いのかい?」
「面白いよ。俺としては、他のプレイヤーよりも現地のNPCと交流するのが良いね。AIとかも自然で現実の人にしか見えないね。 ゲームの世界でちゃんと”生きている”と思わされるよ」
「そんなに凄いのか…、会社の同僚がプレイしたがっていたけど、第一陣の抽選時に落選して、あまりの絶望っぷりに社内で話題になったなぁ…宇宙船があるんだよね?」
「戦闘艦ね。俺も持ってるけど、操艦するの楽しいわ。宇宙はこの後行ってみるつもりだけど。いずれ第二陣の募集もするだろうし、もう暫くの辛抱じゃないかな」
「話を聞いてると、面白そうだね。第二陣の事は同僚にも伝えておこうかな」
そんな会話をしている間に夕食が出来上がり、久々に家族3人で夕食を食べる。食後は軽くランニングをし、シャワーで汗を流してから再びログイン。
――――――――――――――――――――
ソル・ステラ内の自室で目覚め、そのままブリッジへ移動する。ブリッジではエルが艦内の各部署からの報告を受けていた。ブランはその辺で転がっている。 エルがこちらに気づき挨拶をする。
「マスター、お帰りさないませ。各部署特に問題もありませんが、この後はどうされますか?」
「ベナウィーに戻ってオルターさんに鉱石を渡したら、宇宙に行くぞ!」
「承知しました!」
艦の進路をベナウィーへ向け移動する。いつもの場所に艦を待機させ、オルターに渡す鉱石を受け取り最速でベナウィーに向かった。今回からブランはコウの影に入っている。
南門でラックに挨拶した後、オルターの店に直行する。
「オルターさんこんにちは」
「おっ、コウか。今回はどうした?」
「採掘に行って来たので、お裾分けに来ました」
「それは助かるぜ! ここ最近、宇宙軍や異世界人専用ギルドやらの影響で、鉱石の消費量が跳ね上がっていて困ってたんだよ!」
「そんなに消費が増えたんですか?」
「ああ。戦闘艦の資材に使ったり、ギルドクエストに備えて新たな装備を生産したりでな」
「そうなんですね。なら丁度良かったか」
そう言いつつコウは、鉱石を渡す為、奥の作業場を案内して貰い鉱石を出していく。鉱石を検分していたオルターの顔は段々と驚愕に染まっていく。
「おい、どんだけ持ってきたんだよ!」
「オルターさんに差し上げる分だけですよ?」
「いや、これをタダでは貰えんぞ! ちゃんと買い取るからな!」
多少すったもんだあったが、結局オルターが買い取る事になった。
「ミスリルが10キロ、ペリドットが5キロ、鉄鉱石が20キロ、トルマリンが5キロ、ブラックオニキスが2キロ、全部で300万Gでどうだ?」
「!? そんなにするんですか?」
「これでも安い方だな。現状ではミスリルはまだ貴重で、雷属性を内包してるトルマリンとかは更に貴重だ。俺達はこれらを武具に加工して、高額商品として販売するからボロ儲けだ。需要も高いしな」
悪い笑みを浮かべながらオルターは語る。だがプレゼントのつもりで持ってきた鉱石なので、今回はコウが譲らず、200万Gで譲る事になった。
「200万Gで譲ってもらうが、その代わりにこいつも一緒に貰っていけ」
そう言ってオルターが渡してきたのはスナイパーライフルだった。
「…いいんですか?」
「元々コウに薦めるつもりで作った装備だからな。お前は遠距離用の銃は持ってなかったよな? シグルドとカーミラに併せて、カラーリングも白黒にしたからな!」
「持ってないですね。では、有難く使わせて貰います」
「おう!その武器の銘は”シューティア”だ」
思ってもいなかった新たな装備に笑みを浮かべるコウ。
そのままオルターにお礼を言い、フレンド登録をした後、店を出る。街の中は以前より大幅に人が減っているが、総合庁舎は人が溢れ返っているようだ。
「ネイトさんの目が虚ろになってそうだな。忙しそうだし、挨拶はいいか」
庁舎を横目に南門に向かう。途中で露店で野菜を1万G分買い込み、露店の後方にある軌道エレベーターを眺める。軌道エレベーターへは豪華な馬車や、商人であろう集団、庁舎の制服に似た服を来た人達が移動している。
「あそこにいるのは軌道エレベーターを利用して、宇宙港に行く人達か」
軌道エレベーターを眺めた後はさっさとラックに挨拶し、南門を抜け艦の待機場所へ移動する。亜空間から現れた艦に乗り込み、食料を保存庫に入れたりと準備をしていく。リビングに戻る前に、工作班に発注したいものがあった為、工作室へ。
「すまないが、このスナイパーライフルに合うサプレッサーを頼める?」
スナイパーライフルを確かめた工作班アンドロイドがコクコク頷く。
「足りない素材があったらエルに伝えてくれ」
工作班はこちらに親指を立てて答える。
工作班にスナイパーライフルをそのまま預け、発注を済ませたコウは影からブランを出し一緒にリビングへと移動する。リビングに到着すると、エルが端末らしき物に腕を突っ込んで固まっていた。
「エル、何してんだ?」
「あっ、マスターお帰りなさいませ。 情報収集してました」
「ハッキングか」
「ハッキングです!」
「ワッフ!」
ドヤ顔しているナビゲーションAI。
「で、何を調べていたんだ?」
「宇宙の状況を調べておきたかったので、その辺りの情報を探っていました」
「何かわかったのか?」
「大勢の異世界人の方々や、この世界の人々が宇宙に出ていて、宇宙港のステーションはかなり込み合っているみたいですね。 後、宇宙軍関連の情報も探っていたのですが、何かあるようです」
「何かってなんだ?」
「他の惑星共々、宇宙軍の設立タイミングがどうにも気になって調べたのですが、半年前あたりから宇宙空間でコードネーム”アルファ”が観測されるようになったみたいですね。その”アルファ”と交戦した記録もあったのですが、”アルファ”についての詳細は分かりませんでした。 恐らく、端末ではなく書類等で管理されているのだと思います」
真剣な様子で調べた内容を報告するエル。
「うーん、わからないものは仕方ないな。宇宙港は混雑しているなら回避したい所だが…」
そんな会話をしている中、脳内に効果音が鳴り響きコウにメッセージが届く。
⦅こんにちは、ネイトです。 傭兵クエストを受ける前に、まずは傭兵ギルド本部に向かって下さい。どこかの小惑星帯にあるとの事で、探し当てて向かうのが傭兵ギルドの正式な所属試験らしいです。⦆
ネイトからのメッセージはもう一通来ていた
⦅私も急に通達されたので驚いていますが、所詮、傭兵ギルド業務を委託で庁舎が請け負ってるだけですもんね… 事後報告上等で顎で使われますもんね… ⦆
…ただの愚痴だった。
ネイトにお礼の返信をかえしつつ、エルに今来たメッセージの内容を伝える。
「傭兵ギルドの本部ですか。ハッキングした時に”エアスト”近辺の宙域地図は手に入れてますが、小惑星帯が結構ありますね…」
「取り敢えず探すしかないか。宇宙に出る準備は大体終わってるよな?」
「はい。準備はほぼ終わってますね」
エルとブランを連れてブリッジに移動し、出発準備を整える。
「このまま上昇して宇宙に出ても問題無いんだよな?」
「問題ありませんね。宇宙港はどちらかと言えば、惑星ギルドとこちらの住人が利用する為のものなので」
「わかった。針路、宇宙! ソル・ステラ発進する!」
ソル・ステラを上昇させ、そのまま大気圏を抜けて宇宙に出る。
艦内に設置されている小物類が浮遊する。体は安全装置で固定している為、小物が浮いているのを見て宇宙に来たと改めて実感した。
「エル、艦内に重力を発生する機能は無いのか?」
「ありますよ。すぐに艦内重力を発生させますね」
小物が落ちたのを見て艦内に重力が発生した事を理解する。コウは安全装置を解除し、リラックスした状態でブリッジのスクリーンを見る。スクリーンには吸い込まれるような黒い宇宙が広がっていた。
「ん? 左下、大気圏の近くに何か白い要塞みたいな物があるな」
「マスター、あれが宇宙港みたいですよ」
「へぇ、あれが惑星ギルドプレイヤーの巣窟か。さて、俺達も傭兵ギルド本部を探しますかね」
「宙域地図によると、小惑星帯は近場に2カ所、遠くに3カ所、2つの中間くらいの位置に5カ所あるみたいですね」
エルがブリッジにある大型スクリーンに宙域地図を表示させながら説明する。
「俺は遠くの小惑星帯が怪しいと踏んでいる。中間にある場所も可能性はあると思うが、近場は無いな」
「何故ですか?」
「だってこれ、一応試験なんだろ? 近場で2カ所しか無い所なんて簡単過ぎないか?」
「それはそうですね。では遠くの小惑星帯から探って行きますか?」
「そうしよう。 ブラン、索敵強化頼むぞ? みんな、宇宙の戦闘は未経験だ。警戒しながら移動するぞ。エル、イースを5機光学迷彩で随伴させてくれ」
「承知しました」
ソル・ステラのステルス状態を維持しながら針路を変更する。徐々にスロットルを上げていくが、見落としが無い様に速度を調整していく。UWOの宇宙は海賊NPCが出現すると公式で明言されていたし、それとは別にエルが仕入れて来た例の、”アルファ”と遭遇する可能性も考えて警戒は怠らない。
はじまりの惑星である”エアスト”を背にして、漆黒の宇宙空間を進んで行く。目的地までにかかる時間をエルが試算した所、約2日かかるそうだ。ログインして既にゲーム内で6時間が経過しており、リアル時間は午後7時半だ。プレイヤーがログアウトしてる間、戦闘艦は亜空間で待機状態になってしまうので、到着まではまだかかるだろう。
「エル、後6時間程航行したら一度ログアウトするから、皆も亜空間で休んでくれ」
「承知しました」
「これが空振りだったら、結構時間掛かるぞ…主に移動時間で」
「そうですね。惑星内とは移動時間が比べ物になりませんから。ですから、戦闘艦は居住性が重要になって来るんですよ」
「まぁ、そうだろうな。偵察型とか強襲型あたりはその特性から艦内は狭そうだな」
「そうですね、おそらく狭いと思います。そういう艦を運用する為に、母艦タイプの戦闘艦も存在はするのですが、一般的に流通はしていないですね」
「母艦タイプとかあるのか。クラン作ってる人達は欲しがるだろうな」
航行してる間、手持ち無沙汰になったコウはトレーニングをして時間を潰す。
時折見かけるアステロイドに注意しながら、艦を6時間進めログアウト準備に入る。
「じゃあ一度ログアウトするから、のんびり休んでくれ」
「行ってらっしゃいませ。こちらは亜空間でのんびりしていますね」
「ワフッ」
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ログアウトした航宙はいつも通り伸びとストレッチを済ませ、ネットでUWOの宇宙に関する情報を調べていく。
「やっぱり”アルファ”についての情報は無しか。惑星ギルドの方で調査クエストでも発行されているかと思ったんだけど、この分だとなさそうだな」
航宙は公式・非公式の掲示板をそれぞれ調べていく。
「そして傭兵ギルドに入っている奴も殆ど居ないか。まぁ殆どのプレイヤーがクランに入っているみたいだし、クランがギルドに所属すると丸ごと所属が変わるし、あえて傭兵に所属するクランは居ないかぁ」
「傭兵クランとか出来そうなもんだけど、思った程所属するメリットに魅力を感じないとかだろうな。まぁ身軽なソロ向けか」
ブログやSNSの書き込みも覗いてみる
「おっ、この人は他の惑星に移動してみたんだな。……長時間移動に耐え切れなくなり断念して引き返したと。敵対生物や遭遇報告とかの情報は無いか」
時刻は午後9時半過ぎ、航宙はネットでの情報集めを切り上げ、リビングに向かう。すると両親が映画を見ながら晩酌していた。
「航宙、ゲームは終わったのかい?」
「一旦休憩だよ。この後もう一度ログインして3時間程やる予定」
「そう言えば、現実時間とゲーム内時間は違うって話だったね」
「そうだね、現実での6時間がゲーム内では1日だよ」
ここで軽く酔っている母が会話に入って来る。
「ええっ、それならゲーム内では趣味に没頭出来るじゃない!ゲーム内で映画が見られるなら私もプレイしたいわ」
「いや、ゲーム内にデータの持ち込みとか出来ないから」
母さんの言いたい事もわかるが、権利関係やその他色々な問題を孕んでいるらしいので無理だろう。
「航宙は宇宙に行った?なんか言ってたよね?」
「今、宇宙を航行中だよ。小惑星帯に向かってる所なんだけど、距離が遠すぎてね…もう半日航行してるけど、あと1日半はかかるかな」
「おお!宇宙を航行中! 宇宙ってどんな感じだい?」
「星の光も綺麗で最初は興奮したけど、吸い込まれそうな程暗くて怖いと思ったよ。イメージだけど、地球上で例えるなら深海とかこんな感じなんだろうなって。あっちは無重力どころか水圧がヤバいけど」
「僕のSF映画知識だと、アステロイドに偽装した敵とか居そうだなぁ」
「アステロイドの影に隠れていたり、張り付いているのを警戒していたけど、今の所は遭遇してないね。まだ宇宙で戦闘してないから、経験しておきたい所だけど」
「航宙のプレイ映像とか見てみたいわね。夏休み入ってからは殆どVRゲームしているから、お母さんも気になるわ」
その母の言葉で、航宙はUWOに録画機能があったのを思い出した。時間加速の関係で生放送は出来ないが、録画して動画にする事は可能だった。
そんな事を思い出しつつ航宙は、トイレと入浴を済ませる為にリビングを離れる。
諸々を済ませ、再びログイン。
――――――――――――――――――――
リビングで目を覚ましたコウの前にはエルとブランが既にいた。
コウは先程の母の話を思い出し、メニューから録画開始ボタンを押す。
「マスター、お帰りなさいませ」
「ワフッ」
「ただいま。何か異常はあったか?」
「特に無いですね。お陰で工作室での作業が捗りました!」
「さいで」
何となく内容を聞くのを避けたコウは、ブリッジに移動する。
「今回も半日程航行するぞ。レーダーの警戒は頼む」
「承知しました」
「ウォッフッ!」
ブリッジ担当のアンドロイド達も親指を立てて応じる。
ソル・ステラが再び航路を動き出して30分後、突如として艦内にアラートが鳴り響く。
艦内の照明が非常灯に切り替わり、ブリッジ全体が床ごとエレベーターの様に下降していく。ブリッジ全体の動きが止まったその瞬間、床以外の壁や天井に外の映像が映し出される。
周囲180度半円状の範囲が視界に変わると言えば伝わるだろうか。
「ブリッジ戦闘モードに移行完了。 マスター、後方に重力震反応です! 何者かがワープアウトして来ます!!」
「総員戦闘準備っ!! ステルスを維持したままイースを重力震反応があった場所の後方に配置しろ。ブラン、【幻惑魔法】はいつでも使えるようにしておけ!」
「ウォン!!」
「こちらは間抜けを装って、このまま呑気に航行するぞ。直ぐにでも回避行動に対応出来る様にしろ!」
エルの指示で、小型自立支援機イースは重力震反応が観測された場所の後方に待機。
ソル・ステラは表面上気づかない素振りをしつつ、針路を維持したまま航行。
コウはログイン後、ステルス状態を解除して航行してた事に若干の後悔をする。
緊張感がブリッジを支配する中、その時がやって来る。
「ワープアウト反応増大、5・4・3・2・1・来ます!!」
ソル・ステラの後方を移すスクリーンには、黒い虫の様な形をした”何か”が映し出されていた。
コウは艦を航行させながら、スクリーンに映るモノに対して【鑑定】を試みる。
名前 : UNKNOWN
種族 : UNKNOWN
「ダメだな。【鑑定】でも何もわからない。これが例の”アルファ”か?」
情報収集をしているエルに尋ねる。
「わかりません。ですが、未知の相手である以上、可能性はあるかと」
アンノウンはソル・ステラとの距離を一定に保ちながらついて来る。
数分後、動き出したのはアンノウンの方だった。コウのスクリーンにロックオン警告が表示される。
「後方のアンノウンからエネルギー反応増大!」
コウはすぐさまスロットルを全開にし、チャフを蒔きつつ艦を急加速させる。
「ブラン、奴に艦がそのまま直線で逃走している様に見える幻術を掛けてくれ」
「ウォンッ!」
ブランの体から魔力が迸り、カプセルを満たしていく。
「エル、相手が幻術にかかった場合は後方のイースに攻撃させてくれ」
「承知しました!」
コウは艦を急旋回させ、アンノウンの頭上を取る様に移動していく。こうして見ると、大きさはソル・ステラの1/4くらいか? アンノウンがここでソル・ステラに反応すれば幻術は効いていない事になるが、そうでなければ有効だと言う事だ。
「こちらに反応は……示さない! エル!!」
「はい!」
エルの指示を受けたイースが背後から攻撃していく。イースの搭載武装は、小型連装ビーム砲2門・誘導ミサイル1基・迎撃ミサイル1基と煙幕である。
「ビーム砲命中…が、弾かれました。…誘導ミサイル直撃、若干の効果あり!」
「ソル・ステラはこのまま近接格闘戦に入る。マニピュレーター起動! 工作班、マニピュレーター用ドリルを射出しろ!」
ビーム砲が効かないと言う結果を受け、即座に砲撃戦から近接格闘戦に切り替える。
光学兵器に耐性がある装甲でも、以前に聞いていたマニピュレーター用ロマン装備なら通るだろうと言う判断を下す。
射出されたドリルをマニピュレーターの腕にドッキングさせ、そのままドリルを回転させながらアンノウンの頭上に向かって突貫を敢行する。
艦内にドリルの回転音が響き渡る。
《ギュィィィィィィィィィィ……》
「ビームがダメなら物理で殴れば良いんだよっ!!」
そのままアンノウン本体にマニピュレータードリルを貫通させ、腕を振り払う様にして貫通させたアンノウンを振り払う。
「アンノウンからエネルギー反応が消失しました。生体反応もありません」
アンノウンの無力化を確認し、緊張で体に入っていた力を抜いていく。
<<レベルアップしました>>
<<レベルアップしました>>
戦闘艦の戦闘でも経験値が入る事に驚いたコウだが、それよりも優先する事がある。
「何とかなったか。…本音を言えば、相手の手札を少しでも確認しておきたかったが、宇宙初戦闘の俺にそんな度胸は無かったな。 エル、無力化したアンノウンにイースを回せ。ドリルで開けた穴から内部を確認させてくれ」
「すぐにイースを回します!」
指示を終えたコウはスクリーンを工作室に繋いだ。
「工作班のみんな、いい仕事だったぞ!感謝する!」
スクリーンに映る工作班アンドロイド達は無表情ではあるが、親指を立ててこちらに応じる。
コウは工作班にお礼を伝えた後は、ブリッジクルーにも感謝を伝えて一息をつく。
すると、エルがこちらへやって来る。
「マスター、調査が終わりました」
あの虫みたいな外見どっかで見た様な気がするんだよな……
――――――――――――――――――――
名前:コウ Lv.19
種族 : 人間
所持戦闘艦
・特殊万能型戦闘艦ソル・ステラ
メインスキル
【影魔法】
サブスキル
【鑑定】【HP自動回復】【MP自動回復】
【器用値上昇】【敏捷値上昇】
【生活魔法】【気配察知】【隠密】
【跳躍】【バックスタブ】【暗視】
【採掘】
所持金
2,013,250G
名前 : ブラン・ノワール(愛称・ブラン) Lv 19
種族 : 従魔(魔狼)
スキル
【??】【かみつき】【魔爪撃】【疾駆】
【気配察知】【隠密】【幻惑魔法】
【影魔法】【聴覚強化】【特殊偽装】
【熱無効】【暗視】
お読みいただきありがとうございます。