閑話・運営する者達
都内某所に巨大なビルがある。
このビルのとある1フロアに、今話題のUniverse World Online の運営開発会社が存在している。
これは、運営業務を勤しむ者達の会話である。
「深水主任、ようやく宇宙とギルドが解放されましたね」
深水と呼ばれた男が答える。
「何とか解放に漕ぎつけられて一安心だな。このままだといつまで掛かるか見通しが立たなかったからな…」
「そうですね。ゲーム開始直後にやれる事が少な過ぎましたからね…戦闘艦入手数20隻の条件は厳し過ぎましたよ」
「上の見通しが甘すぎた結果だな。冒険者と商業ギルドを現地民のみにしたのも悪手だったな」
「いくら何でも、やれる事がレベルとお金稼ぎと戦闘艦探索しかないのはダメでしょう」
「柳田、ダメだと思ってたのは上層部以外全員たぞ。開発の連中すら反対していたし、そのお陰で解放条件を早める為、正規サービス開始直前にβの戦闘艦引継ぎが決まったんだからな」
溜息をつきつつ会話する二人に、もう一人が加わる。
「βテストの時に、連中がもう少し現地NPC達と友好的に接してくれていれば…」
「そうだな。竹内の言う通り現地民と友好関係を築いていれば、そこからクエストが発生していたはずだしな」
竹内と呼ばれた部下は不満を隠しもせずに言う。
「あれだけリアルな世界で、住民も本当の人と見分けがつかない程リアルに応対するのに、NPCとして見下しているのが信じられないですね」
「お陰で住民間のプレイヤーに対する評判は最悪で、基本的に関わらない様になってたからな」
「現地NPC達も、プレイヤーと同じようにフレンドリストとチャット機能使がえるので、情報伝達は迅速でしたね」
「まさか、ゲーム内で情報伝達速度の重要さを改めて知るとは思わなかったぞ」
そこへ柳田がフォローに入る。
「不幸中の幸いなのは、正式サービス開始で入って来たプレイヤーの中に、まともな人が幾人かいた事ですね」
「ああ。その幾人かのお陰で、プレイヤーに対する現地民の対応が多少マシになったな」
深水はしみじみとその時の事を思い出しながら柳田と会話していると、部屋に別の人物が入って来た。
「主任、アレは大丈夫なんですか?」
「茅野か。ああ、”統括AI”が決めたアレはどうしようもないからなぁ」
すると柳田と竹内もすぐに察したようだ。
「アレは僕達も驚いたけど、どうしようもないでしょ」
「現地民とフレンド交換した稀有なプレイヤーだし、わくわくしながら今後も見守っていきたいね」
茅野は竹内の言葉に同意する。
「自分も彼を見守って行きたいですね。見ていて単純に面白い」
「俺も主任として、動向を把握しておきたいプレイヤーだな。特に気になっているのは、あの戦闘力だな」
深水の発言にこの場に居た全員が納得し、とあるプレイヤーの戦闘映像がディスプレイに表示される。
「あー、レベル低いのにやたらと戦闘能力高いのは僕も気になりますね」
「リアルの経験や身体能力が反映されるとはいえ、あの動きは凄いね…」
「自分も開発に問い合わせて確認してもらいましたが、チート等不正は一切無しでした。確認した開発の人達も彼の動きに驚いていましたね」
茅野の発言を受けて深水は言う。
「フルダイブ型のVRMMOはプレイヤーの安全に一番気を使っている。だからこそ、どんな悪影響を与えるかもわからないチートの類は、最優先でプロテクトされている。チート等不正は不可能だろう」
件の人物の戦闘能力談義を終えた主任とその部下達は、アレについての話に戻った。
深水が言う。
「彼が、古代遺跡で戦闘艦を見つけたのがまさかのアレだったとはな…」
「アレって、開発がお遊びで”一点物”として”戦闘艦の外見とAIの性格”をデザインした奴ですよね。性格に関しては、完全に悪乗りでしたけど」
「そうだ。だが、その”一点物”が”性能も一点物”になってしまったな…。一部例外はあるが、基本的に俺達”人”が開発するのは、敵に関する全般・各種建物やマップ・各惑星と施設の設定・バトルシステム・各種戦闘艦関係の”外見と一部の搭載AIの性格”だからな。それ以外の、現地NPCの外見や性格・戦闘艦関係の”性能”とその他は、ゲーム内の”統括AI”が設定する。…まさか彼が見つけた”一点物”の外見を持つ戦闘艦に、”一点物の性能”を設定するとは誰も予想していなかったな」
彼等の会社が何故、こんな高度なAIをUWOに利用できたかと言うと、この会社の社長の伝手を使った為だった。
AI研究の分野に於いてトップをひた走る海外企業、”グランダー社”のトップとこの会社の社長は、学生時代の友人で、その縁で実現した事だった。
UWOに導入されたAIは、人々との交流で自己学習を繰り返し、進化していく。その過程のデータを取得し、検証する”AI実験”の側面も存在していた。
ゲーム内の”統括AI”とは、言うなればUWO内での”神”のポジションである。
遺跡で入手した戦闘艦に関しては、主に入手したプレイヤーの能力・行動情報を参照して性能を決定している。尚、ショップ販売は艦種によってそれぞれ能力が固定されており、改造・改装で個性を出すように設計されている。
勿論、”統括AI”に指示をして軌道修正を図る事も可能だが、先に言った”AI実験”の側面がある為、致命的な問題以外は原則、直接介入禁止となっている。
深水が説明を続ける。
「開発と一緒に、”統括AI”が設定した能力を調べたが、それなりにデメリットもあるし、現時点では言うほど飛び抜けている訳では無いから、それ程問題は無い。それよりも、”一点物の外見”で騒ぎ出す奴が出そうでな…」
竹内は「あー…」と言いながら言葉を発した。
「”隣の芝生は青く見える”プレイヤーが出て来るんですね…」
「まぁ、何処にでも現れる類の奴だから、無視でいいけどな」
すると柳田が最もな事を言う。
「それなら自分の戦闘艦の外見を改装すればいいだけの話ですよね。ゲーム内マネーがあれば外見の変更は出来る訳だし」
「その通りだ。変更する時の改装に、時間と金がかかるだけだしな。アレは改装が出来ないし、まわりが改装や改造でパワーアップしても、アレは精々自力で装備開発して装備するのが限度だから。成長するとは言え、プレイヤーの腕と能力でカバーしないと大変な戦闘艦だぞ。……枷を外していけば化けるのと、まだ隠し玉があるが」
深水の最後のつぶやきは、部下には聞こえていなかったようだ……
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