#03 邂逅 -Chance encounter-
買取査定が終わるまでの間、店内をじっくり見て行く。装備も確認していくが、どれもしっかりとした作りのようだ。集中して商品を見ていると、声が掛けられた。
「坊主、査定が終わったぞ」
「どんなもんですかね?」
「白角ウサギの素材から説明するが、耳が2000G、毛皮が2枚で3000G。角ウサギの素材は、耳が5つで5000G、毛皮が30枚で22500G。グローヴウルフの素材は、毛皮が4枚で3200G、牙が4本で4000Gの合計39700Gになるが、それでいいか?」
「お願いします」
――これで所持金が43200Gか。なんとかこの金額で準備を整えなければ。
「後、装備を整えたいのですが、見繕って貰っても良いですか?」
「坊主は伝統装備と近代装備どっちを希望するんだ?」
――伝統装備?近代装備? あっ、現地の人はファンタジー装備と近未来装備をそう呼んでるのか。
「近代装備で。現在はレーザーソードとレーザーガン一丁です。出来れば、ハンドガンタイプは2丁で運用したいですね。防具はお任せします」
「近代装備ならまずはハンドガンだな。そのレーザータイプは最低限の能力だから、それを使うくらいならこっちの実弾タイプの方が良いだろう」
そう言って奥から綺麗な箱に入っている白と黒、2丁のハンドガンが出てきた。
「これは?」
「これは20年ほど前に、枯葉てたダンジョンから出土した実弾タイプの2丁ハンドガンだ。20年前はまだ枯れて無かったけどな。 これが出土した当時は、軽くて取り回しの良いレーザー系の武器が出回りはじめていて、買い取ったは良いが結局、売れずに倉庫に仕舞っていた銃だ。整備はしっかりしてあるし、これなら2丁セット10000Gで売るぞ?」
「いくら何でも安すぎませんか?」
「さっきまで忘れていて、倉庫に眠っていた20年前に出土したロートル品だから気にするな。整備はしっかりしてあるし、状態も悪くないけどな。どうせ店頭に並べても、レーザー系武器の方が人気で売れないから在庫処分みたいなもんだ」
「それなら遠慮なく購入させて貰いますね!」
「個人的には良い武器だと思うぞ。銘は白い銃が”シグルド”、黒い銃が”カーミラ”だ。大事に使ってくれ」
「はい!大事にします」
白と黒の無骨な2丁ハンドガンだ。店内にある普通のハンドガンと比べてみても、少し大きめ。
UWOにおける銃の弾丸は、MPを消費して弾丸を生成するタイプである。勿論、銃毎に弾丸生成消費MPが違うので確認の必要がある。
「次は防具か。坊主に合うのは…この灰色の魔防刃コートと白の防刃インナー、黒の防刃デニム&ブーツって所だな。紹介状初回特別価格で纏めて25000Gだな」
「買います!」
「毎度あり。この魔防刃コートだが、その名の通り魔防と防刃、両方に耐性があるから危なくなったらコートで体を覆って防御しろ。他の装備は防刃しかついてない普通の服だからな。伝統装備は初期でも鎧があるが、近代装備の初期は厳しいな。上の方のランク装備になると逆に凄まじい事になるが」
「まぁ、防刃ついてるだけでホント普通の服ですもんね。コートも耐性はありますが一見して普通のコートですし…」
「伝統に変えるか?軽鎧とかあるぞ?」
「近代が好きなのでこれでいいです!」
早速、購入した防具を装備する。
――うん、大分見られる格好になったな。
「近接はまだそのレーザーソードでも充分やっていけるだろう」
「そうですね。外でモンスターを狩っていても問題ありませんでした」
――後は野営用のアイテムか。
「野営用の道具と回復薬ってありますか?」
「テント・調理器具が揃っている野営セットが5000Gだな。それとHPポーションが1本300G、MPポーションが1本800G、状態異常回復ポーションが1本500Gだ」
「じゃあ、野営セットとHPポーション3本、MPポーション2本、状態異常回復ポーションを1本下さい」
「おう、合計8000Gだ」
8000Gを支払い道具とアイテムをインベントリにしまう。これで残金は200G。
「無事装備と道具を買い揃える事が出来ました!ありがとうございました」
「おう、確かコウだったな! 俺は「グランド」店主、オルターだ。また来いよ!」
頭を下げて店を後にする。
――枯葉てたダンジョンに向かうのは明日の朝で良いだろう。今日は宿屋を取ってそこで一旦ログアウトしよう。
総合庁舎のすぐ側に宿屋を発見するが、所持金が200Gしかない事を思い出す。
まずは宿屋の並びにある肉屋で肉を売却しよう。
肉屋に入ると優しそうなおじさんが肉の切り分けをしていた。
「すみません、この肉って買い取って貰えるのでしょうか?」
「いらっしゃい。うん、グローヴウルフの肉が3つで1500G、白角ウサギの肉は2つで6000Gだね」
「ではその金額でお願いします」
「はいよ。合計7500Gね。いやー、白角ウサギの肉は貴重だから助かるよ」
「喜んで貰えたならなによりです。ありがとうございました」
お礼を言って店を出る。すぐさま宿屋に直行して部屋を取る。
「すみません、1泊お願いしたいのですが、部屋空いてますか?」
「いらっしゃいませ。1泊ですね、空いてますよ。お食事はどうされますか?」
「お願い出きますか?」
「では1泊500G、夕食が200Gで合計700Gなります」
「ではこれで。夕食は部屋に持ってきていただけますか?」
「こちらが部屋の鍵になります。部屋は階段上ってつきあたりにある部屋になります。お食事は出来次第お運びします」
宿の部屋に移動し、ベッドに寝転がり一息つく。部屋には簡素な机とその傍に窓があり、ベッドが一つと寝るだけなら充分な部屋だった。
「ふぅ、何だかんだで疲れたな。今何時だ?」
メニュー画面を呼び出し、時刻を確認する。ゲーム内時刻は午後6時、リアル時刻は午後3時か。
UWOはリアル6時間でゲーム内1日となっており、リアル1日でゲーム内は4日経過する。
「夕飯食べて空腹回復したら、一旦ログアウトするか」
ボーっと夕食を待っていると、脳内にベルの様な効果音が鳴る。無言でメニューを開くと、フレンドリストにあるタカトからのボイスチャットに応答する。
「何の用だ?」
『あー、そっちはどうだ?』
「マイペースにやってるよ」
『そっか。何か困った事があったら連絡してくれ。フーカとマイも気にしてるしさ』
「…身勝手なお前達に頼る事は何も無いから、こっちに構わず楽しんでくれ」
そう言ってボイスチャットを切る。
通知音に邪魔されたくない為、メニューからフレンドリストに居る3人の通知音を無音設定にする。もう、あいつ等とゲーム内で関わる事はないだろう。
そんな事を考えてるとドアがノックされた。
「お食事をお持ちしました」
「ありがとうございます」
「では、お食事が終わりましたら食器を1階カウンターまでお持ちください」
「わかりました。ありがとうございます」
「それでは失礼します。ごゆっくりどうぞ」
運ばれてきた夕食のメニューは堅めのパンに肉と野菜が煮込まれたシチューだ。
――まずは、スプーンでシチューを一口食べる …よく煮込まれていて野菜の甘味と旨味もしっかりとあり、トマトであろう酸味も良いアクセントだな。肉は程よく弾力があり中々に美味しい。なんの肉だこれ。
そしてパンは、固めだけどシチューに浸して食べる前提だろうから問題なく食べられる。
「予想以上に美味しいな。でもやっぱり肉が気になる…【鑑定】」
名前 : 角ウサギの煮込まれたもも肉
煮込まれてもホロホロに煮崩れたりはしない!この程よい弾力こそ至高!
「誰だよこのフレーバーテキスト考えたやつ… 開発運営サイドににぶっ飛んだ人居そうだな。しかし、これ角ウサギか。ダンジョンへ向かう道中、野営で食べると思って肉屋で売らずにとっておいたのは正解だったかな」
気が付いたらあっと言う間に食べ終わっていた。
「ごちそうさまでした。しかし味覚再現度も凄い、どれだけ拘ったのだろうか」
思った以上の食事に満足しつつ、食器を返却しに行き、再び部屋へ。
「一旦、ログアウトするか」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
意識が再びだんだんと覚醒していく。VRゴーグルを外し、凝り固まったからだを解していく。
肉体的には疲労は無いが、精神的な疲れが酷いな。時計を確認すると午後3時30分と表示されている。
1階のリビングに行き水分を補給していたら、母親におつかいを頼まれスーパーへ買い出しにに。
帰宅してそのまま夕食の準備と調理を手伝い、少し早めのリアル夕飯を食べる。
諸々ログイン準備が整ったら、午後6時丁度にログインする。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「よし、宿屋だな。チェックアウトして枯葉てたダンジョンに行くか」
宿屋でチェックアウトし、南門へ続く早朝の大通りを歩いていく。ゲーム内は早朝ではあるが、時間加速しているので現実はまだ午後6時。住民は少ないがプレイヤーは結構いる。注意深く通りを見渡しながら歩いていると、プレイヤーが露店を開いていたりする。生産系スキルを持ったプレイヤーだろう。
中々に活気があり、値段交渉の駆け引きをする声がうっすらと聞こえる。
「そういえば、はじまりの街であり王都でもあるけど、殆ど見て回って無いな。ちょっと勿体ないとは思うけど、総合庁舎のネイトさんと”グランド”のオルターさん、南門のラックさんと知り合えただけでも現状は充分だな。 その他諸々は戦闘艦を手に入れてからだ」
そのまま歩き続け、南門に到着するがラックの姿が見えない。知らない兵士の方に会釈だけして門を抜け、南へ歩きながら、地図を片手にネイトに教えて貰った道を辿って行く。
プレイヤーはデフォルトでメニューにマップ機能があるのだが、あくまで通った道がマッピングされていくだけなので、初見の道はちゃんとした地図が必要なのである。
黙々と歩いて行く事8時間、その間もしっかり【気配察知】と【隠密】を使う事も忘れない。
最初は平地、続いて林、そして森と周囲の風景が変わっていく。歩くのに飽きてきたら、【隠密】を切ってモンスターと戦闘してレベルを上げてみたり、気分転換をしながら更に歩く事4時間。 そろそろ目的地周辺と言う所で野営をする事に。
元々、祖父の元で忍の修行をしていた時に、野営の訓練もあったのでテント張りは問題無い。
テントを張り、食事も済ませたコウはテントに入りログアウトする。
フィールドであってもテント内であれば宿屋と同じで安全にログアウト出来る。
テントには魔物除けが付いており、ある程度の魔物には効果がある。魔物除けより強い魔物が居た場合、リスキルならぬログインキルされる可能性や、破壊されたテントの残骸の上にログインする可能性もある。リスクはあるが、フィールド上で安全に「ログアウト」出来ると言う面で、βテストに参加していたプレイヤーから密かな人気がある。
そしてログインする時は、テントがどうなっているのか分からない為、「ログインガチャ」と呼ばれている。
――――――――――――――――――――
ログアウトした後は、体を解して風呂に入り眠りにベッドで横になったら、すぐに睡魔がやってきて眠るのであった。
翌日朝、日課の鍛錬を終わらせた航宙はシャワーと朝食済ませ、若干の緊張を帯びながら再びログイン。
――――――――――――――――――――
「……よっし! ログインガチャ成功! ネットで調べておいて良かったわ。偽装完璧だったな」
コウはオルターの店で野営セットを購入した時に、テントの色が複数あったので、目的の色を選択していた。テントと同じ背丈、同じ色の草むらで、深緑のテントを満足げに眺めつつ木の枝などの偽装を解体していく。
「偽装の解体も終わったし、空腹感の解消だな。歩きながらのジャーキーでいいか」
再び地図を手に森の中にある獣道を歩いていく。道を進んでいく程に空気が澄んでいき、周囲の雰囲気が変わってくる。だんだんと周囲に差し込む明かりが増えていき、森の出口が見えてくる。
出口に辿り着くと同時に新しい景色の全貌が露わになる。左右に大きな湖を従え、中央には大きな山がそびえたち、その麓にはポッカリと大きな入口が存在している。
「これが枯葉てたダンジョンか…。何か雰囲気は充分だけど既に枯れてるんだよな…」
左右に湖を挟み、その中央からダンジョン入口まで繋がる一本道を慎重に進んで行く。気配察知には特に反応を示さない。コウは十分に警戒しながら、そのポッカリ開いた入口に侵入していく。
この”枯葉てたダンジョン”は外見通り、洞窟タイプのダンジョンのようだ。
「このダンジョンは本当に死んでいるんだな……生気がまるで感じられない…」
ダンジョン1階層目は小部屋がそれなりにあるが、それ以外では特に入り組んでいたりはしていない。
「各小部屋も特に何もないし、天井や壁にも仕掛けは無いと。ネイトさんの話では、全部で地下5層構造になっていて、下に降りる階段があるとの事だが…」
地下2階層へ降りる階段を無事に見つけ、更に進んで行く。だが、地下一階とほぼ同じ構造をしており、何もおかしな所は確認出来なかった。残すは、この階層の一番奥にある部屋を調べるのみとなっていた。
「2階層はここが最後か。ん?ここは壁に壁画があるな」
部屋の奥にある壁が壁画になっている。太陽と月が描かれていて、周りには5つの惑星が描かれている。そして、太陽の上の方に小さい虫?みたいなものが描かれている。
――この壁画を立体的に見立てると、虫みたいな奴は太陽の後方、そして小さいって事は、かなり遠い位置って事か? うーん、よくわからんな。
「しかし良く出来てるなぁ。…ん? この壁画の月の部分、マグネットみたいにずらすと動くぞ? …他の惑星や太陽は動かないな。どうすんだこれ?」
それから、月を虫に重ねたり、惑星と惑星の間に移動したりしてみたが、反応は無し。
「惑星に重ねても反応なし。一応、太陽にも重ねてみるか」
考えられるパターンを色々試し、最後に月を太陽に重ねてみると…
《カチッ! ガコン!》
太陽に重ねた月が、そのまま太陽の中央部分に飲み込まれるように嵌まった。
「ッ! これ日食だな!何か音もしたし、何かの仕掛けか!?」
咄嗟に辺りを見回すが特に変化がない。
「何も起こらないな…。取り敢えず次の階層に降りるか」
気を取り直して地下3階層に降りて行く。……地下3階と地下4階はそれまでの上層階と構造が全く同じだったので、特に迷う事無く探索を進める事が出来た。そして、地下2階にあったような仕掛けも特に無く、成果無しと言う結果に終わった。
「次の地下5階層で終わりって話だったし、これはホントに何も無いのか?敵も宝箱も出ないし、いい加減飽きてきたな…」
そして最後の地下5階層に降りて行く。そこの景色を見たコウは驚きのあまり眼を見開く。地下5階は今までとは違い、高低差のある”すり鉢状の巨大な1つの部屋”だった。地下水なのか、川が流れていて、一番奥には巨大な滝がある。
「これは凄い光景だわ…。この景色を見れただけでも来た甲斐があったな。だけど、本当に何にも無いんだな…聞いていた通り採取物すらも無い」
コウは警戒しながらすり鉢状のスロープを下っていく。水中にも気配察知に引っかかるものは無い。時間をかけ、ゆっくりと周囲を調べながらスロープを下りきると、そこは滝壺になっていた。
「一番下まで来てしまった訳だが、どうしよう… 後調べる所があるとすれば、定番の滝裏と滝壺の中かぁ。滝裏はスロープでグルグル回りながら降りて来た時に覗いてみたけど、何も無かったんだよな。となると滝壺の中かぁ…」
意を決し、滝壺に飛び込む。思ったより深くはない滝壺に安堵するものの、しっかり調べるため、滝壺の側面と地面を注意深く調べて行く。息継ぎを何度か繰り返しながら調べて行くと、一か所亀裂が入っている壁を発見した。
「プハッッ! あれ壊せば何かありそうだな。と言うかアレ以外に怪しい所が無い! レーザーは水中半減するし、ここはシグルドとカーミラの出番か? 実弾武装だし、リアルと違ってゲームだから水中でも使えるだろ。 ダメだったら大人しく一度街に戻って装備を揃えよう」
再度水中に潜り、亀裂の入った壁の前に辿り着く。 白と黒のハンドガンを構え、交互に連続射撃していく。すると、亀裂が砕けていく。 亀裂の中にあったのは、地下2階にあった壁画と全く同じものだった。壁画を見て瞬時に察したコウは、月を太陽に重ねて日食を作り、急いで地上に戻る。
「プハッ! ハァハァハァ… このゲーム酸素ボンベってあんのかな?オルターさんの所で見かけたら購入しておこう」
息を整えていると、岩が擦れるような音がして滝壺の水面が振動している。辺りを見回しても何も変化が無い。となると…
「クソッ、また潜るのかよ!酸素ボンベが欲しいぞチクショウ!」
ブーブー言いながらも、三度滝壺に飛び込んで行く。すると、壁画があった場所が水中通路に変化していた。半ばやけくそ気味にそのまま進んで行くと、やがて出口が見えてきた。
「プハッ! ハァハァ… 溺死は何とか回避されたか… 流石に初死亡溺死は嫌すぎる」
水から上がると目の前には、見た事も無い白と黒の戦闘艦と思しきものがあった。戦闘艦はネットで画像がいくつか公開されてるが、どう見ても他とデザイン系統が異なる。
この場所自体、地面は石畳が辺り一面に敷き詰められ、白く綺麗な壁に覆われている。人口的に作られていると感じられる場所だ。天井には光の玉が浮いており、照明の役割を果たしているようで昼間の様に明るい。
「こ、これ戦闘艦か?シグルド&カーミラと同じカラーリングって事は何か関係あるのかね?この2丁もここから出土したってオルターさんも言ってたし」
しげしげと船体を見つめていると、戦闘艦からセンサースキャンの光が飛び、コウがスキャンされていく。
[[センサースキャン開始します。壁画ギミック時の指紋一致、シグルドとカーミラの所持を確認。…条件を満たしている事を確認。……マスターとして承認。 お待ちしておりましたマスター]]
「マスター? 取り敢えず戦闘艦が手に入ったって事でいいのか?」
[[その認識で問題ありませんマスター。ハッチを解放します]]
白と黒の美しい流線形を持つ艦の側面ハッチが開く。コウは何処か緊張しながらゆっくりと艦内に入って行く。
コウが入ったと同時に艦内の明かりが点灯し、音声が響き渡る。
『マスター、そこから左手に真っすぐお進みください』
言われた通りに進んで行くと広いリビングの様な所に出た。すると側にある大きいスクリーンに、紺色の髪をサイドテールに纏め、碧眼の女性が現れた。
『マスター、はじめまして。私はこの”特殊万能型戦闘艦Hi-0098 ソル・ステラ”のナビゲーションAI・エルと申します。これから宜しくお願い致します』
「俺の名前はコウだ。こちらこそよろしく頼む」
『マスター、手続きがまだあるのでブリッジにご案内します』
「あ、ああ。頼む」
エルに音声案内されブリッジへと入る。ブリッジは野球のホームベースの様な形になっていて、先頭が1人、左右にそれぞれ2名が列になる様にシートがあり、その中央に丸いカプセルがある。
『マスター、その中央にあるカプセルに触れてください』
「わかった」
エルに言われた通りにカプセルに触れると、体の中から何かが抜ける感覚がする。MPバーを見ると徐々に減少している。
「これ魔力が吸われてる気がするのだが」
『そうです。もう少しお待ちください』
暫く待つと丸いカプセルが縦に割れるように開いていく。中には白い毛皮を纏って足先と耳の先だけ黒い狼が居た。
「!? なんで戦闘艦の中に狼が居るんだ?」
『この子は普通の狼ではありません。この艦と共にある存在の特殊な狼です。マスター、鑑定をお持ちでしたら使用してみて下さい』
「わかった。【鑑定】」
名前 : ??? Lv 15
種族 : 魔狼(従魔)
スキル
【??】【かみつき】【魔爪撃】【疾駆】
【気配察知】【隠密】【幻惑魔法】
【影魔法】【聴覚強化】【特殊偽装】
【熱無効】
「いやいやいや、ツッコミ所が多すぎるだろこれ…」
『この艦の主であるマスターが、魔力を分け与え目覚めさせたので、マスターの従魔となっています。先程も言ったように、この艦と共にある特殊な狼、”魔狼”ですので。ステータスは【特殊偽装】によって、普通の狼程度にしか見えないようになっているのでご安心下さい。種族も魔狼ではなく従魔と表示されます』
「対象の偽装を見抜くスキルがあったらヤバイんじゃないか?」
『看破系のスキルは確かに存在しますが、それでも突破するのは無理です。普通の【偽装】ではありませんので』
「それなら大丈夫か。名前は付けてあげた方が良いよな?」
『もちろんです』
伏せてずっと大人しくしている白黒魔狼が居る。
「お前の名前はブラン・ノワール。普段は略してブランと呼ぼう」
「ワフッ」
かなり賢いのだろう、尻尾を振って答えるブラン。
「艦内で寝泊まりしても大丈夫か?」
『もちろん大丈夫です! 居住スペースもかなりあるので、快適ですよ』
「俺たちがログアウト…自分達の世界に帰ってる間、この艦はどうなる?」
『今はマスターの所有物ですので、異世界人であるマスターがご自分の世界に帰られている間、この艦は亜空間に収容され、マスターがこちらの世界に再び来ると元の場所に戻ります。仮に、この艦に密航者などマスター以外の誰かしらが乗艦してた場合、その者を艦から強制的に叩き出した上で亜空間に入りますのでセキュリティ面でもご安心下さい』
「他の異世界人も戦闘艦を所持してる奴が居るのだが、その亜空間の機能は他の戦闘艦にもあるのか?」
『異世界人が所有する戦闘艦限定ではありますが、他の戦闘艦でも標準装備ですね。ざっくり言うと盗難防止的な機能ですので』
「そうなのか。じゃあ、一旦元の世界に戻ろうと思うのだが、部屋ってあるか?」
『では、艦長室にご案内します。こちらへどうぞ』
ブリッジから出て、白で満たされた通路をエルの音声案内によってしばらく歩き、大体艦の中央辺りにある広い部屋へ案内された。上質な家具類が揃っていて、とても清潔な部屋だった。そして、風呂キッチン完備は素晴らしい。
「じゃあ、一旦ログアウトするよ」
『承知しました。では、次回は艦の運用についてお話しますので、ブラン共々お待ちしております』
「ワッフ!」
「わかった。ではまたな」
ログアウトによって意識がだんだん薄れて行く……
――――――――――――――――――――
名前:コウ Lv.8
種族 : 人間
所持戦闘艦
・特殊万能型戦闘艦ソル・ステラ
メインスキル
なし
サブスキル
【鑑定】【HP自動回復】【MP自動回復】
【器用値上昇】【敏捷値上昇】
【生活魔法】【気配察知】【隠密】
【跳躍】【バックスタブ】
所持金
7000G
名前 : ブラン・ノワール Lv 15
種族 : 従魔(魔狼)
スキル
【??】【かみつき】【魔爪撃】【疾駆】
【気配察知】【隠密】【幻惑魔法】
【影魔法】【聴覚強化】【特殊偽装】
【熱無効】
お読みいただきありがとうございます。