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いえ  作者: 経陽 然
3/3

ただ帰るだけ

『こんばんは。お隣いいですか?』薄暗い店内に綺羅びやかなライトが付き、別世界を作り上げる店内。


そして、女の子はドレスを身に纏い、また別人格を作り上げる。


『今日子です。宜しくお願いしまーす』極力明るく、笑顔で愛嬌よく。


女は愛嬌、男は度胸とは良く言ったもので、そこまで整っていない私の顔でも、愛嬌があれば、そこそこ指名を貰うことができる。


今日子と言う源氏名は、キャバ嬢を一日で辞める予定だったから、今日だけの子で今日子にした。


『今日子ちゃんは、務めてどれくらい?』35歳前後の安いスーツを身に着けた男が聞いた。


『うーん。一年くらいかな?』

結局、給料が良いところと、こんな私でもチヤホヤしてくれるのが、どこか心地よくて続けてしまった。


『若さは、お金』なんて同僚の間では言っている。


結局、年取ったら嫌でもこんな職業は出来なくなる。

だったら若い内に若いってだけでお金をくれるおじさんから、お金を貰おうと思った。


『私も飲んでもいい?』

『うん、いいよ』


この手のタイプは、だいたい一杯はご馳走してくれる。


二杯目は『うーん、俺じゃなくて連れに聞いて!』


そういう、男はリピーターにはならない。


でも、上手く乗せれば次は一人で来て指名してくれる。上手なキャバ嬢は、こうしたお客も手の内に入れてしまう。


でも、私はそこまで上手には出来ない。


ある日、真っ赤なハットを被った太い白斑メガネで黄色いスーツを着た男が来た。


しかも、なぜか私を指名してくれた。


ボーイが『今日子ちゃん、あの男の人知ってる?今日子ちゃんご指名なんだけど』と小さい声で確認した。


『いえ、知らないです。初めてだと思います』



『そっか。まぁ、少しついてみて。嫌だったら指名だけど別席にしてあげるから』


『ありがとうございます』


と言って私はハット帽の男の元へ向かった。


『こんばんはー。ご指名ありがとうございます。今日子です。』


お辞儀をして『お隣良いですか?』と言い席についた。


『ねぇ、君、僕を覚えてる?』

『えっ、すみません。』

『いや、いいんだ。覚えてなくて当然だから。』


私は頭をフル回転させたが、どうしても思い出せなかった。


『何飲みますか?』

『じゃあ、水割りをお願い』


そう言われて、私はグラスに氷を入れて、鏡月を少し入れて水で割った。


グラスに付いた水滴をハンカチで拭いて、男に渡した。


『もし、よければ私も何か飲んでいいですか?』


『勿論。好きな飲み物頼んでいいよ』と男は言った。


ボーイを呼んでファジーネーブルを頼んだ。


『今もファジーネーブルを飲むんだね』と男は微笑んだ。

『えっ?私、前もファジーネーブルを飲んでましたか?』


『うん。前と言うか、うん、まぁ前か。前だね』

男は考えながらも良くわからない事を言った。


『本当にすみません。私、前にこのお店でお会いしましたか?』笑顔で聞いてみた。


『うーん。あっ、いや気にしないで。』

男がそう言うタイミングでボーイがファジーネーブルを運んできた。


『じゃあ、カンパーイ』と言ってグラスを重ねた。


お互いに3杯くらい飲んだ頃

男は、目がとろんとしてきて、顔がハットに負けないくらい赤くなってきた。身体はソファにだらし無く座り、完全に酔い始めている。

きっとそんなにお酒が強くないんだろう。

『実は僕、、、』視点も合わなくなってきた。このまま飲ませていいのだろうか?


『予知夢を見るんだ。しかも毎晩。でも、この格好をしないと見れない。だから毎日この格好をして、毎晩予知夢を見るようにしている。

こんな格好、変なのは知ってるよ。でも予知夢が大切なんだ。

今日、君と飲むこと、君がファジーネーブルを頼む事は事前に知ってた。

実は三日前から同じ夢を見るから、意を決してこのお店に来てみたんだ。

今まで、3回も同じ夢を見ることはなかったからね。』


驚く事を言ってきた。これはギャグなのか?笑った方がいいのかな?


『ははは。面白い』私は手を組みながら笑顔で男の顔を見た。『それで会いに来てくれたんですねぇ。嬉しいー』


『うん。それで、予知夢ではこの後僕と君は、一線を越える。そう、大人の関係になるんだ。それも君は4回エクスタシーを感じるよ。

その証拠に、僕は君の左脇腹に3つのホクロがある事を知っている。』


確かに、私の脇腹には3つのホクロがあった。不自然に3つあるので、私はあまり好きではなかった。

と言うか、何だこの男。気味が悪くなってきた。


『えー、ホクロなんて無いですよぉ。』嘘をついた。

『嘘をつかなくていいよ。僕の予知夢は絶対だから。それに君は、嫌々でなくて切望して僕についてくるんだよ。』そう言うと男は私の手の上に手を重ねてきた。


身体に電撃が走る感覚がした。

『あっ、、、』

つい、小さな喘ぎ声を出してしまった。

なぜだ、下半身が疼いた。


『どうだい。もっと気持ちよくなりたいんじゃない。』男は目を見ないで、どこか遠くを見ている。


私の下半身は、急に意識を持ち始めた様に、ドクンドクンいい、私の身体を支配し始めた。


『全然、そんなことない、、、』私は精一杯の強がりを言った。兎に角誰にもバレてはダメだ。


『手を触っただけで気持ちいい。ここならどうかな』そう言って太ももを触ってきた。


頭がおかしくなりそうだった。

下半身がヒクヒクする。なぜだ。直接触られてもいないのに、身体がおかしな事になってる。

しかもまだ営業中にだ。


『さっき、4回エクスタシーを感じるって言ったけど、4回目で君は極限状態になってしまうんだよ。もうわかるだろ?』男は小さく誰にも聞こえない声だった。


そして、手を3センチほど動かした。

それだけで、もう私の身体はビクッと動いた。『ダメ、、、』もう自分ではどうしようも出来ない。ドレスの下は既にびしょ濡れだった。

乳首は勃起し、ドレスに擦れるだけで気持ちよかった。


過去、こんなことは一度としてなかった。

どちらかと言えば感じにくい身体だったのに、こんな真っ赤なハットをかぶった白斑メガネの黄色いスーツに手を重ねられ、太ももを触られ、少し手を動かされただけでかつて無い程に身体が感じていた。


男が、さぁ行こうかと言って立ち上がった際に、フラつきグラスに当たりグラスが床に落ちた。


パリーンと乾いた音がなった。



私は目覚めた。



家にいた。ここはただ寝るために帰ってくる家だ。良かった。私は帰ってこれたのだ。


今のはただの夢だった。


下半身は不思議なまでに濡れていた。


『入れるよ』


目の片隅に真っ赤なハットが見えた。

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