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第3話【Purpose:ギルド】 Ⅱ

 宿屋から歩いて少し。

 日本で言う国会議事堂のような造りの建物に着く。

「ようこそ!魔帝直轄ギルド【アドニス】へ!」

 建物に入ってみると、物音を発てると怒られそうな雰囲気に元気ハツラツな受付嬢。

 アンバランスな状況には触れずに建物の中を見渡す。

「……本が1冊も無いが?」

「あら、おかしいわね」

 そう、本はおろか棚すら見当たらなかった。

「すんません。ここに本がいっぱいあるって聞いてたんですけど?」

「本ですか?書倉庫でしたら現在ギルドメンバーしか立ち入ることができないんですよ」

「会員制って訳か。どうすっかな」

「所属すれば良いんじゃない?ギルドカードは身分証の代わりになるわよ?」

「そうなの?ならギルド入ります」

「かしこまりました!でしたら、こちらの用紙にご記入ください。お2人分でよろしいですか?」

「どうする?」

「私は遠慮しておくわ」

 勧めといて自分は入らんのかい。

 受付嬢から用紙を受け取って記入する。

 記入欄を埋めていると、とある項目で筆が止まる。

「この希望ジョブってなんすか?」

「そちらは冒険者か探険者のどちらかを選んでもらってます。冒険者の仕事は主に魔物の討伐や護衛、探険者はダンジョンの調査がメインになりますね」

「ほーん。なるほどなるほど」

 なら探険者だな。

 危険な事とか嫌いだし。

 ジョブは探険者と書いて提出しよう。

「はい、お預かりしますね。では最後にこちらに魔力を流し込めば完了になります」

「魔力?」

 さてはて、そのやり方は存じ上げないぞ?

「どうやれば良いの?」

「イメージするのよ。手の平から放出するイメージが分かりやすいわ」

「ふむふむ。やってみよう」

 両手のひらから放出……と言われてもパっとしなかったので、煙を出すイメージで紙の上に手をかざす。

 集中していると、徐々に手の平が暖かくなるのを感じた。

「はい、大丈夫です。これにて登録は以上になります!これでトーヤさんは全世界のギルドの仕事をお受けすることができるようになりました。依頼は定期的にあちらの掲示板に掲載されてますのでお受けする際は依頼書を剥がして受付までどうぞ」

 白いギルドカードを渡され、俺は晴れて探険者となった。

 元々少ない魔力を消費したせいか体が少し倦怠感を覚えたが、とりあえず書倉庫に向かおうとした。

「よぉ、そこの姉ちゃん」

「そんな冴えねぇ男とより、俺らと遊ばねぇか?」

「うわぁ……」

 後ろから声をかけられ振り返ると、筋肉が隆々とした顔面ゴリラの男と他3名の男がいた。

 俗に言うナンパだ。

「結構よ。あなた達と遊んでる暇は無いの」

「つれねぇこと言うなよ。黙って来た方が身のためだぜ?」

「はぁ……面倒ね……」

「全くだ」

 取り巻く3人のうち1人が短剣を見せびらかし、分かりやすい脅しを見せる。

「そこのゴリさん。悪い事は言わないからこの女は止めておいた方が良いぞ。いや本当に、マジで」

「うるせぇな。てめぇは黙ってろよ」

 俺の発言は許されていなかったらしく、後ろから首元に刃こぼれが目立つ短剣が添えられる。

「……随分と使い込まれた短剣だな?」

「俺の相棒だ。切れ味は抜群だぜ?」

「おーおー、怖い怖い」

 実際は簡単に抜け出せるが、やる気と自信に満ち溢れている野生児達を見て少し面白がる。

「だけどな?そこの位置だと必殺にならないぞ?」

「はぁ?」

「もうちょい上。この辺だ」

 男の手首を掴んで押し付けられていた箇所から少し位置をズラす。

「首のここが皮膚で1番薄い所であって急所だ。ナイフをこう押し付けるだけで簡単に切れる」

 次の瞬間、俺は男の手を引いた。

 すると切られた箇所から大量の血が吹き出る。

「そんでこのくらいの量の血が出たら人は死ぬ。学習したか?」

「な、なんなんだてめぇ!?」

「なんで死なねぇ!?」

 大量出血をしているにも関わらず平然としている俺を見てゴリーズは慌てふためく。

「他にも教えてやるから試し切りしてみろよ。その代わり……」

 俺の首を切った男の肩をポンッと叩くと、その男の首に血は出ないが薄らと切れた跡が浮かび上がった。

「お前らも同じ所が切れるけどな?」

「あ、あああああ!!?」

「き、切れてる!?いつの間に!?」

 首を押え腰を抜かす男を無視し、俺はボスゴリラを見つめる。

「こいつ!ヤバいぞ!」

「に、逃げろ!」

「て、てめぇら!!」

 俺を恐れた3人はその場から逃げ、残るはボスゴリラのみとなる。

 先程までの威勢は完全に消え、目は恐怖で震えていた。

「どうする?まだナンパする?」

「お、覚えてやがれ!」

 そしてボスゴリラも立ち去り、俺は袖で首を拭く。

 切れていたはずの箇所は無傷で、最初から切れていなかった。

「奇妙な手品だったわね」

「どうだった?俺の渾身の演技は?」

「及第点って所かしら。この血は本物?」

「この世界には血糊って無いの?便利だぞこれ」

 即席手品ショーを終えて受付嬢から書倉庫の場所を聞いてやっと目的の場所へ。

 一部始終を見ていた受付嬢が怖がっていたので1輪の薔薇を手品で出してあげた。

 図書館より蔵書があると聞いてはいたが、1階から地下4階まで書倉庫だとは思わなかった。

「予想以上にあるな」

「昔より増えたわね。歴史ならこっちよ」

 リウスに促されて案内されたのは歴史書コーナー。

 そのコーナーだけでも目が疲れる程の本はある。

「こんだけあると、どれから見れば良いのか分からんな」

「だったらこの本から始めてみたら?」

 渡された本の題名は『せかいのれきし おとぎ話ver』

 いやこれ完全に児童向けのタイトルやん。

 もしかして馬鹿にされてる?

 てか、なんつー分厚さなん?広辞苑レベルよ?

「書名に騙されないで。その1冊でこの世界の事は大体知れるわよ」

「へいへーい……字小っさ!?」

 待って?この字の小ささで続くの?

 普通の文庫の半分くらいの小ささじゃん。

 アホなの?馬鹿だろ?

 初手から挫折ギリギリだったが、諦めて溜息を吐きながら席に座る。

 座って読書をしていると、本を何冊か手に抱えたリウスが隣に座る。

 読む仕草を見せずただ本に手を置く。

 それを繰り返していた。

「何してんの?」

「模写よ。この指輪に触れた本の内容をこの指輪を経由して脳に記録させてるの」

「へー!良いなそれ!俺にも1個作ってくれよ」

「別に良いけど、膨大な情報量が一気に入ってくるから使い方を間違えると脳が破裂するわよ?」

「はい、黙って読みます」

 リウスの錬金術に頼るのは止めよう。

 まだ死にたくない。

 努力は地道にとはよく言ったものだ。

 仕方ないので諦めて読書を再開する。

 読み進めて3分の1といった所で、気になる文を発見した。

「7箇所の特異圏ダンジョンねぇ……」

「興味があるの?」

「まさか。物騒な場所の確認をしただけ」

「ちなみに、私が封印されていたダンジョンもその中の1つよ?」

 更に本を集めてきたリウスはページのとある部分を指さす。

「この烈怒の洞窟って所ね」

「なになに?7つの特異圏ダンジョンの中で群を抜いて難易度が高いダンジョン。生息するモンスターと罠のレベルが高く、ソロでの攻略はほぼ不可能……なんつー所に封印されてんだよ」

 今思うとあの4人はそんなダンジョンを何食わぬ顔で調査してたな。

 もしかして凄腕の探険者なのか?

「ん?待てよ?カトウって奴はダンジョン内にダンジョンを作ったってことか?」

「そう言う事ね。しかもしっかりあのダンジョンを攻略した上で」

「んー。是非ともお会いしたく無い」

 同郷の者とは思えないチートっぷりに思わず拍手を送りたくなる。

「しかし、いい加減目が疲れた。目薬とか眼鏡とかあれば良かったのに……」

 体を反って筋肉を伸ばしていると、手の中にモコっと反発する違和感を感じた。

「これは……目薬と眼鏡?」

 右手には目薬が、左手には眼鏡が握られていた。

 急に現れた目薬と眼鏡に驚いていると本を返しに行っていたリウスが戻って来る。

「あら?そんな物持ってたのね」

「いや、なんか握ってた?」

「なんで疑問形なの?」

「俺にもさっぱりなんだよ。目薬と眼鏡が欲しいって言ったら急に……あっ」

 この時、俺は自分のスキルを思い出してはオープンと呟く。

「どうしたの?急に?」

「これだよこれ、【創造[クリエイト]】」

「このスキルがどうかしたのかしら?」

「見てろよ」

 さっきの感覚を思い出しながら、俺はイメージする。

「今思うとおかしな話だった。あるはずの無い小道具がポンポンと出てくるんだからさ」

 あって当たり前だった物は、全て俺が作った物だ。

 それが、この世界にあるはずが無い。

 目の前が光り輝き、1つの物体が現れる。

 俺が愛用していた、相棒とまで言える道具が姿を現した。

「これは……?」

「俺が元いた世界で使ってた武器だ」

「武器?珍しい形をしているのね」

「その反応だとやっぱりこの世界に無いんだな。使う所見せてやるよ」

 分厚い歴史書を片付けて、俺達はギルドを出た。

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