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第1話【Metempsychosis:転生】 Ⅳ

 中に入ると、昔の中世の屋敷の大広間のような場所だった。

 空間の雰囲気は重く、照らす灯りは天井から漏れる月の光のみ。

「あれ?もう夜だったのか?おーい、皆早く──」

 後ろを振り向くと、いるはずの4人の姿が無い。

 それどころか、銅作りの扉すら無かった。

「なるほど。迂闊に入ったら駄目なパターンだったか」

 まぁ慌てても仕方ない。

 外に出れそうな場所を探そ。

「扉は無い。窓も無さそう……ん?」

 気付かなかったと言えば嘘になる。

 視線の先には広間の一番奥にそびえ立つ十字架に縛り付けられた女性の石像。

 近くで見ると妙にリアルな表情と肌感に思わず目を奪われる。

 石像を舐めるように見つめていると、下の方に文字が書いてある事に気付く。

「なになに?『ミスラルの宝剣、亡きラフィードに捧げよ』……ミスラルの宝剣って、確かこれだよな?」

 思い出したかのように懐から先程拾った短剣を取り出す。

 すると突然、短剣が光り輝いた。

「うおっ!?眩しっ…」

 視界いっぱいに広がる光に思わず目を手で隠すように覆う。

 そして聞こえる石が引きずられる音。

「なになに!?なんの音!?」

 謎の音に恐怖心を煽られていると、音はすぐに止み、光も次第に落ち着いていく。

 やっと目を開き、辺りを警戒して見回すも殆ど変わった形跡は無い。

 変わったところと言えば、目の前の石像の位置が左にズレており、階段が現れていた。

「ははぁん。ここからが本当の宝部屋って訳ね」

 螺旋階段のような形状の階段を眺め、恐怖より好奇心が疼く。

 1歩踏み出そうとした時、ある事に気付く。

「……あれ?」

 上着の内ポケットを軽く叩く。

 その次にズボンの後ろポケットを叩く。

 横のポケット、腰周り、袖口、足下と隈無く探し続ける。

「無い!?短剣が無いぞ!?」

 そう、廃村で手に入れた短剣が無くなっていたのだ。

 光り輝いた後、自らの役目を終えた短剣は塵のように消滅したのだ。

 どうやらこの隠し通路を開く為の鍵だったようだ。

「クソぉ……これでお宝が無かったら恨むからな!」

 誰を恨むのか疑問だが、俺は怒りながら階段を降りた。

 好奇心は怒りへと変わり、1歩1歩に確かな憎しみを交える。

 そして階段を降り終えると、またしても広い空間に辿り着く。

 先程の洋館のような広間では無く、広くは無いが狭くも無く、岩肌が所々剥き出しになっている地下室となっていた。

 数本の松明が灯りになっており、不気味さを醸し出している。

 そして、空間の中央に一つの棺が置いてあった。

「うわぁ……お宝って遺品みたいな感じ?呪われそう……」

 口では言っているが、オカルトに全く興味は無い。

 やっとお宝とご対面──

「……へ?」

 棺の中を見て、思わず声が裏返る。

 艶のあるワインレッド色の髪の女が眠っていた。

 ミイラでは無い。

 胸が微かに動いている事を見ると呼吸をしている証拠だ。

 なぜここで寝ているのかと疑問に思っていると、女の目が徐々に開いた。

「……誰?」

「それはこっちが聞きたいんだが?」

 質問に質問をぶつけるのは無粋だけど、今はそんな事気にするほど心穏やかでは無い。

 眠りから覚めた女は俺を見ては驚く素振りも見せず訊ねてくる。

 寝起きは良いようだ。

「あなたが私を起こしてくれたの?」

「起こした?いやいや、お前が勝手に起きたんだろ」

「そう……」

 ゆっくりと棺から出ては両手を上に伸ばして体を解す。

 ただ寝ていたなら起こして申し訳ない。

 ここで寝てるあんたが悪い。

「ここを出ましょう」

「出ましょうって言われましても、出口なんてどこにも無いぞ?」

「無いなら作るのよ」

 そう言うと、女はローブから小さな小瓶を取り出す。

 その小瓶を地面に叩き付けると赤黒い煙が立ち、幾何学的な音が鳴り響く。

 煙と音が止むと、そこには扉が出来上がっていた。

「ほえぇ……これが魔法か」

「違うわ。錬金術よ」

「錬金術?」

 俺の質問に答えずに女は扉を開ける。

 扉の先は、なんと見た事のある大きな木製の門の前だった。

「あれ?ここって入口じゃん?」

「そうよ。【旅人の社】って言うの。出入口に通じる扉の役目を担うわ」

 女の言ってる事がいまいち理解出来ないが外に出られた事に安心する俺。

 あれ?なんか忘れてる気が──

 次の瞬間、激しい揺れが襲う。

「なんだ!?」

「どうやら奥の洞窟で崩落が始まったようね」

「崩落!?」

 かなり距離はあるが、不安心を駆り立てる崩落音がここまで確かに聞こえ、とある事を思い出させる。

 思い出した!あそこにまだあの四人がのこってるじゃねぇか!

「待て待て!中にまだ人がいるんだよ!助けに行かないと!」

「そう、残念ね。助からないわ」

 女は淡々と、無関心に、無表情で告げる。

「私の封印が解かれたら崩れて無くなるって仕組みがあったと言うのもあるけれど、老朽化が酷かったのもあってダンジョン自体維持するのが厳しかったのかしらね」

 封印!?封印されてたの!?

 女の言葉にツッコミを入れたいが、俺は門へと向かおうとする。

 すると、女の冷たい言葉を吐いた。

「どこに行くの?」

「アイツらを助けに行くんだよ!」

「なんで?あそこに入ったのは自己責任でしょ?宝欲しさで入ってくる欲まみれの者達には丁度良い罰じゃない?」

 女の言う事は正しい。

 ここは地球とは違い、逐一身の危険を心配するような所の方が多い、それが今の現実だ。

 だけども──

「それでも……死に確でも!はいそうですかって見殺しにする程俺はドライじゃねぇんだよ!」

「……あなたって、不思議な人ね」

 ここへ来た時は独りでに開いた門は役目を終えたのか今回は開かない。

 大きな門を一人で開けるのは至難の業。

 どうにかして門の向こう側に行こうと考えていると俺の横に女が近付く。

「良いわ、手伝ってあげる」

 手伝ってくれる事は有難いが、女の力を足した所で動かせる大きさでは無い。

 そう思っていると女は俺に青い球体を差し出す。

「これを握って中の人を想像して。そうすればここに転移されるから」

 仕組みは分からないが、目の前で不思議な現象を見せた女の力に今は頼るしか無かった。

「頼む…無事でいてくれ……」

 祈るように球体を握り、4人を思い浮かべる。

 すると球体は青白く輝き、目の前にあの4人が姿を現した。

「うわっ!?」

「今度はなんだ!?」

「あれ?外?」

「助かった……のか?」

 突然事に驚く4人を他所に、安堵した俺は膝から崩れ落ちた。

「あ、あんたら……」

「タローさん?」

 思わず泣きそうになるがグッと堪え、俺は4人の元に向かう。

「良かった……無事で……」

「崩落が始まって終わりかと思ったよー!!」

「ところで、なんで私達助かったの?」

「あぁ。あの人はあんたらを助けてくれたんだ」

 俺は礼を言おうと後ろを振り向くと、同時に4人も女を見る。

「っ!?タロー!離れて!!」

「へ?」

 男の一言でハッピーエンドの雰囲気は突然殺伐とした空気に変わった。

「そいつは、淵落の魔女だ!」

「え、淵落?魔女?何言ってんだ?」

 急に臨戦態勢に入った4人を見て動揺が隠せない。

 各々武器を構えて救助の手助けをしてくれた女に敵意を篭った目を向ける。

「はるか昔、魔法と錬金術が発達していた頃に大罪を犯した錬金術師よ!」

「不老不死の薬を作ろうと多くの命を奪った殺戮者だ!」

「あら、今はそう言われているのね」

 そして後ろから聞こえる呑気な魔女の声。

 すると突然、1人の男が魔法陣を展開し、俺の後ろへ大きな火の塊を飛ばした。

 この世界に来て、初めて見た魔法であった。

「何してんだ!?」

「良いから離れて!」

 着弾して炎が燃え上がり、慌てるも炎はすぐに消える。

 炎の中にいた魔女は火傷はおろかかすり傷すら負って無かった。

「その陣術……魔法ね」

「あぁ。錬金術はとうの昔に廃れたよ」

 まるで埃を払うかのようにローブを手で払う。

 その姿は余裕すら感じた。

「魔法と錬金術が発達していた、ねぇ……あなた達、勘違いしてるわ」

 他の二人が再び魔法を放とうとするが、魔女がフッと息を吹きかけると、魔法陣にヒビが入り不発に終わる。

「魔法がっ!?」

「詠唱阻害!?」

 次に魔女が見せたのは両手に二つの魔法陣だった。

 しかし、今まで見た魔法陣とは少し違う。

 先程の魔法陣はただ火の球を生み出しただけだが、魔女の魔法陣は模様が違う。

 左手には土埃が舞っており、右手にはサイズは小さいが稲妻を轟かせている雷雲が漂っていた。

「魔法の発端は、錬金術よ」

 次の瞬間、魔法陣から魔法が放たれる。

 交わることの無い砂嵐と雷が合わさり、小規模の嵐となって4人を襲う。

「魔力が媒介となって魔法を生み出す魔法陣。その魔力の媒介は何だと思う?」

 魔法をもろに食らった4人は立ち上がる事もままならない状態。

 しかし魔女は語る事を止めない。

「魔力と言うのは体内に存在する魔回廊と呼ばれる臓器から生成される。そう言われてきたでしょ?」

 魔女が靴の先端で地面を軽々と叩くと、現れたのは影。

 今度は魔法陣を展開させず、影が地面から不気味に現れ4人を縛り付け、中に浮かせる。

「その知識は当たらずとも遠からずってところね。確かに人体はとある形で魔力を生み出すわ。でも、それは魔回廊では無いわ」

 語り続けながら、魔女は操作するように右手を下ろすと、4人は地面に叩き付けられる。

「魔力は──生命の根源である魂から生み出される」

 ポケットに手を入れながら余裕の姿で拘束された4人を見下す魔女。

 その圧倒的な力に立ち上がる事はもちろん反撃すら出来なかった。

「殺戮者ですって?あれはまだ魔法の使い方が未熟な愚か者共が勝手に使って勝手に死んでいっただけよ。私の所為じゃ無いわ」

「そ、そんな話信じるか!」

「そうよ!」

「それでも結構よ。どうせあなた達はここで眠るんだから」

 動こうにも影に縛られ動けず、影を払おうと魔法を使おうならば発動前にかき消される。

 どう見ても勝ち目の無い戦いに絶望的な状況に陥った。

「今楽にしてあげるわ。眠りなさい」

 操作された影によって再び中に浮かぶ4人。

 顔色を変えない魔女はゆっくりと上げた右手を振り落と──


「なるほど。物騒な名前の割には真っ白なパンツ履いてんだな」


 魔女の動きが止まった。

 それもそのはず、後ろから俺にローブを捲し上げられているのだから。

 視界いっぱいに広がる純白の下着を堪能していると蹴りを入れられるがヒラりと躱す。

 スカート捲りをした甲斐あってか、縛り付けていた影は音も無く消え、4人の拘束は解かれた。

「お前……何をしている!?」

「何って?スカート捲り?」

「ふざけてるのか!?」

 強面の男の焦りと怒りが混じった怒号が耳を通過するが、俺は特に気にしない。

「だってさー?分かんない事だらけなんだもん。魔法だか錬金術だか知らないけど、全員無事に出られた事にまず感謝だろ?」

 そう、気にしたのはそこだ。

 命は1つ、人生は1回きり。

 だからこそ生命の危機に瀕していた所を助けて貰ったのにどうしてそんな事が言えるのか。

「感謝?大罪人に感謝なんて出来るわけないだろ!」

「この人に助け貰ったのに?」

「お前には関係無いだろ!」

「あのダンジョンの宝がこの人だったって言ったら、アンタら同じ事が言えたか?」

 ひょろひょろの男の言葉を聞いてついムキになってしまった。

「信憑性の薄い噂話に乗っかって、いざ宝が見つかったと思ったら大罪人でした。だから殺そうだなんて勝手すぎるだろ」

 この世界は命をなんだと思っているのか。

 大罪を犯したにしろ何にしろ、お礼の1つも言えない奴らにお優しい言葉など無用。

「さっき、お前には関係無いって言ったな?だったら、これからの事はアンタらにも関係の無い事だ」

 内ポケットから2つの白いボールを取り出し、地面に叩き付ける。

 ボールは衝撃で割れ、白い煙が出る仕組みになっている。

 突然の煙幕に驚きながら4人は口元を隠して警戒するが、俺は攻撃はしなかった。

「ちょっ?なに?」

 俺は魔女の肩を抱き寄せ、お姫様抱っこのように持ち上げる。

 煙幕がそよ風で流されそうになったタイミングで俺はマスクを取り出しで目元を隠す。


「怪盗ミラージュ、ここにダンジョンの秘宝姫を頂戴する」


 その言葉を聞いた4人は俺に向かって一斉に攻撃をして来たが、時既に遅し。

 俺の姿はどこにも無く、俺が立っていた場所には怪盗ミラージュと書かれたトランプが突き刺さっていた。

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