表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

第1話【Metempsychosis:転生】 Ⅱ

 それは瞬きをするように一瞬だった。

 視界いっぱいの光は直ぐに収まり、目の前には壮大に広がる大森林。

 小鳥達の囀りと木々の枝が揺れて奏でる心地良い音が耳に優しく響く。

「さて、ここはどこじゃい?」

 土地感など無くて当たり前。

 急に転生させてやると言われ、なんの下調べもしていない。

 スパルタの塊とも言える邪神から事前情報など無い。

「とりあえず歩くか。スキルの説明も見なきゃいけないし歩いてればどこかしらに着くだろ」

 遭難した場合、無闇に歩かない方が得策だが、情報無し武器無し食糧無しの今の状況では埒が明かないと考え、一先ず歩く事に。

 幸運にも険しい獣道では無かった事が唯一の救いであった。

「てか、スキルってどう見れば良いの?」

 転生される前は目の前に表示されているスキル名を選ぶと説明文が表記されていたが、そもそもあれは邪神がやっていた事。

 小説や漫画で異世界転生の知識のある者なら1つや2つ確かめる案が浮かぶが、全くの無知であるトウヤがその考えに到達するのは些か難しい。

「はぁ……第1村人発見したら聞いてみよ……おっ?」

 見飽きた木々の中に1つ、見慣れない木の実を垂らしている樹木を発見する。

「なんか木の実みたいなのもあるけど、食えるかも分からないしな……おっ?」

 生い茂る木の実を凝視すると、文字が表示される。

「これが『鑑定』の能力か。どれどれ……」

 ピンク色の果実を1つ捥ぎ、表示された文を読み上げる。

「シナの実……未熟時は猛毒だが熟成されると甘く美味しいと。しかも熟してる状態じゃん。ラッキー!」

 早くも食糧を発見し、熟しているシナの実を2~3個捥ぐ。

「幸先良いんじゃないの?このまま今日中に街に着ければ申し分無し」

 しかし、現実はそう甘くは無かった。

 いくら歩いても森から抜けれず、地球では絶対にいない巨大な魔物と遭遇したり、断崖絶壁から落ちかけ、ボロボロになりながら気が付けば2回は朝日を見た。

「全然着かねぇじゃん!広すぎなんだよこの森!」

 木の実だけの生活に体も応えて来た頃、トウヤはある事に気付く。

「なんか霧かかってきたな。でも湿度はそんなんでもないぞ?」

 薄らと視界が霧に覆われ、次第に方向感覚が分からない程に深くなる。

 しかし、歩みを止めず進んでいると視界が開け、大きな木製の門が現れた。

「うへー、デカい門だな。こんな門生まれて初めて見たわ」

 3階建てのアパートの高さ並の門を見上げていると、独りでにゆっくりと開き始めた。

「まさかの自動でしたか。お邪魔しまーす」

 人がいるかもしれないと思い、軽い足取りで門の内側へと歩いて向かう。

 門の中には木製の家屋が並んでいたが、人の気配は全くといって無い。

「村……だよね?誰もいないけど」

 家を覗くが、生活感は多少あるものの人の姿は無い。

 よく見ると、建物は全て朽ちており、どう見ても人が住める状態ではなかった。

「もしかして廃村?でも門開いたし、誰かしらはいるよね?」

 仕方なく家にお邪魔し、物色を始める。

 罪悪感を感じないところはさすが怪盗をしていただけの事はある。

「何か無いかな……おっ!武器発見!」

 クローゼットの中に短めの剣を発見する。

 凝視すると木の実と同様に文字が表示された。

「ラフィードの宝剣……宝剣って事はお宝か!?」

 転生前の世界のナイフより軽いその剣は刀身が水色に光っていた。

 軽過ぎて耐久度に問題無いかと懸念したが、耐久度が強と表示されていたので安心する。

 なにやら強力な武器を手に入れ、一先ず家から出る。

「なんであんな古びた家に宝の剣があるんだ?まぁ良いか!」

 宝と金に目が無いトウヤにとって場所など関係無い。

 収穫があればそれで良し。そのスタンスを貫くだけだ。

「もしかしてここはお宝の山なのか?散策し甲斐があるじゃないか!」

 意気揚々と家から出ると、遠くから足音が聞こえた。

「あれ?やっぱり誰かいたのか」

 足音のする方を向くと、ぼんやりと動く影が見える。

 距離が離れている為、目を凝らして見ると、再び文字が表示された。

「……おいおい」

 子供くらいの背丈に、人とは思えない緑色の皮膚。

 木製の棍棒や刃こぼれの激しい鉈を持ちながら、鬼気迫る目付きでこちらを睨む夥しい数の群衆。

 頭上に『ゴブリン:亜種』と表示されながら、こちらに駆け寄っていたのだ。

「で、出たぁ!!?」

 思わずその場から逃げるが、ゴブリンの大軍を振り払う事は出来ない。

「馬鹿デカいイノシシとかなんかプルプルしてるキモい奴とか!なんなのこの森!野性味溢れすぎ!」

 ここに辿り着くまでに様々な生物に出会したが、大勢で迫られるのは初めて。

 逃げる事に特化した自慢の脚力で逃走していると、明らかに怪しい洞窟を発見する。

「……いや!あそこには入らないぞ!」

 洞窟に隠れる事も考えたが、どの世界に知りもしない洞穴に逃げ込む奴がいるだろうか。

 逃げ先は一択、通って来た巨大な門だ。

「やっぱり欲張っちゃいかん!さっさととんずらするぞ!」

 ゴブリン群との距離を開けながらトウヤは門を目指した。

 それから数分後──


「なんでこうなるんだちくしょうがぁぁぁああ!!」


 行きは良い良い帰りは恐いとはよく言ったものだ。

 門まで無事に戻ったは良いが、固く閉ざされていたのだ。

 無理矢理こじ開けようと試してみたが、ミリ単位で動く気配が無かった。

 仕方なく宝剣が隠されていた家屋に逃げ込むも、ゴブリンの嗅覚は鋭く、一瞬で包囲される始末。

 屋根の上に登って見渡すと、群が倍に増えている様子を見て流石に死を悟った。

 だがしかし、宝を手に入れた以上生きて帰ると言う使命感が働き、朽ちた屋根を伝って包囲網から逃げ出す事には成功した。

 そして、今に至る。

「追いかけられるなら女の子が良かったよ!いやあの人数は流石に引く!!」

 とうとう例の洞窟の入り口まで到着してしまい、苦虫を噛み潰したような顔で洞窟に入り込む。

 そして近くにあった大きな岩に身を隠す。

 息を殺し、ゴブリンの様子を伺う為に恐る恐る確かめる。

 すると、ゴブリンの群れは洞窟に入ろうとはせずに入り口の手前で止まっていた。

「あいつら、なんで入って来ないんだ?」

 不自然なゴブリン達を眺めるも、追いかけて来ない事をラッキーだと思い洞窟の奥に視線を変えた。

「……行きたくないけど、行くしかないよね?」

 前方は勝機があるか分からないモンスターの群れ、後方はどこに繋がっているか怪しい洞窟。

 八方塞がりではあるが、命を落とす確率がより少ない方を選ばないといけない。

「ぐぬぬ……ぐぬぬぬぬぬぬぬ……だぁ!もう!」

 重い腰を上げ、足先を洞窟内に向ける。

「絶対に生き抜いてやるわい!」

 意気込んで歩くと、入り口付近は荒れていたものの奥に進むにつれて整備されていた。

 土壁にはボロボロの松明、地面は歩き潰されていて平ら。

 洞窟と言うより炭坑に近かった。

「コウモリだろうと小人だろうともう驚かんぞ。出てきたら倒してやる!」

 意気揚々と歩いていると、後ろから物音が。

「ゴブリン達がとうとう入って来たか?ふんっ、今度は正々堂々倒してやる!」

 気合い半分諦め半分の気持ちで物音がする方を振り向くと……

「…………」

「…………」

 鎧を身に纏った人影……いや、人ではない。

 『アークスケルトン』と表示されている骸骨が立っていた。

 しかも一体だけでは無い、四体も。

「グォォォオオオオ!!」

「骸骨は予想外だぁぁぁ!」

 そして再び脱兎のごとく走り出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ