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ブラック企業の『キツネうどん』

作者: ヤミマル

秋が始まり、街路樹の色が変わる頃。深夜のコンビニで俺が選んだのは『キツネうどん』だった。


お湯がいらずレンジで温めるだけのヤツだ。ここで温めて貰い家で食べる。そのつもりだった。


しかし家への帰り道。途中にある古びた稲荷神社を覗いた時、俺の足は止まっていた。


古くて薄暗い街灯の明かりでも、ボロボロだとわかる鳥居の向こう。御堂のある石段の上に、一匹の狐が座っていたからだ。


なんとなく狐と目が合ったのが解った。夜遅くまでの残業で、俺の体は疲れきっていたが、その狐に興味が湧いて、俺は御堂に足を向けた。


小さな空間に、砂利を踏む音が響いても狐は逃げない。目の前に立っても狐は逃げず、とうとう狐の隣に座ってしまった。


どうしようかと考えたが、それよりも腹が減っていたので、温かい『キツネうどん』を取り出す。


そう言えば、狐はお揚げが好きだと聞いた事があったので、うどんの蓋にお揚げを置いて、狐の前に差し出してみた。


狐は動かなかったが、俺が素うどんになったソレをすすっていると、狐も食べ始めた。冷めるのを待っていたのだろうか?


それから俺は、毎晩同じ様に御堂に通った。


そして、コンビニの店員が。


「おい、来たぞ『キツネうどん』」

「本当だ。良く飽きねえなアイツ」


と陰口を叩いているのを聞いて、自分のアダ名が『キツネうどん』だと知った頃。


隣でお揚げを食べ終わった狐が、初めて「コーーン」と鳴いた。


その瞬間。深夜だと言うのに空が明るくなり、冬だと言うのに桜が舞った。


いつの間にか御堂と鳥居が真新しくなり、狭い広場で和服の子供達が遊んでいる。


あまりの事に俺は立ち上がり、食べ掛けのうどんを落としてしまった。


その瞬間、バキバキとけたたましい音が鳴り、地響きと共に御堂が崩れた。


気がつけば辺りは暗く。目の前には自分の重みで潰れた御堂があった。狐の姿は何処にも無い。


「…………走馬灯……?」


そんな言葉が頭に浮かび、この御堂は、その化身である狐と共に死んだのだと思った。


「…………明日からは、『キツネうどん』じゃなくていいな……」


鼻を啜りながら、俺はそんな事を呟いた。


しかし、それからも俺は何故か『キツネうどん』を買い続け、ある朝、工事が終わり綺麗になった御堂に子狐が座っているのを見て、俺は悟る。


俺のアダ名は『キツネうどん』のままらしいと。

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