8話
本来は昨日着く予定だった大都会東苑のアスファルトの上にはぽつぽつと小雨が降っていた。コンピューターが使えない関係でその場では切符の払い戻しは受けられず、コンピューターが復帰した際に窓口に切符を持っていけば払い戻しをするということになった。こんな状況になっても払い戻しをしてくれるのはありがたいのだが、最悪1年復旧しないと言っているのにそんなに長い期間切符を保管している人はいったい何人いるのだろうか。年賀状のお年玉だって当たっても4等とかなら交換しない人が多いくらいだぞ……
そんなことを窓口で駅員に聞いた後、約4時間のバスの移動で足が少ししびれていたから少し外を歩いてリフレッシュしようと駅を出ようとしたところだった、
「あっ いたいた」
曲がり角の所に置かれているベンチの所に座っている一人の少女がおそらく僕、いや僕の半径10メートル圏内に誰もいない、だから確実に僕に声をかけてきた。
「もぉー……超帰ってくるの遅いよぉ~」
遅いどころじゃないけれどね。予定よりも一日半遅れだからな。
「待たせてたらごめんね。途中の駅で足止めを食らっててどうしようもなかったんだ」
「咲内ここで5時間も待ってたんだからね」
レインコートにヘルメットをかぶった茶髪の少女がグーパンチで僕の肩をポカポカと叩いてきた。
「なんでヘルメットなんかかぶってるの?」
答えは大体わかっていたけれども一応咲内に聞いてみる。
「そんなの当然バイクで来たからに決まってるじゃ~ん。なに?秋夜の記憶チップも電磁パルスでやられたの?」
やっぱりかよ……悪い予感は感じてたんだが……
「僕の脳がそれくらいでショートするかよ。それよりこんな雨の中、〖大丈夫〗だったのか?」
「全然問題ないに決まってるじゃん~ 何 怖いの?」
彼女に言われると余計怖い 電磁パルス以上の問題がありそう。
とりあえずちょっとのどが渇いていたし、この後いつ飲み物を飲めるかなんてわからないから自動券売機のそばに見える自販機にでも行ってくるか。
「どこ行くの~?自販機なんて動いてないよ~」
そうだった。電気も通ってないんだもんな。じゃあどこに行けばいいのか?
そういうと彼女はまるでこの世界の裏世界をもすべてを把握しているかのようにやたらと得意げに僕に話しかけてきたのだった。
「まずはコンビニだよね~。これ常識よ。あとは市役所とか?ガソリンスタンドにもあるらしいよね~ てか秋夜ナウに生きてる?古代人?化石?それともコンクリート?」
最後の二つは動いてすらいないんだが。特にコンクリートってなんだ。僕がそんなにドロドロに見えるか?
「見えるね」
「おい」
「見えるざます」
「丁寧に言っても誤魔化せないぞ」
「誤魔化すって言っても本当のことだからね~」
例えお互い素性を知っていたとしてもお年頃の少女に言われると超傷つくのだが。
「もぉ~、傷つかないでよ~、お詫びにコンビニで飲み物買ってきてあげるから~」
それは普通にありがたいな。では今まで高くて飲めなかった『金の紅茶プレミアムブレンド』を買ってきてもらうとするか。
「いいの?本当に?」
「ああ」
「わかった。にひひ~」
そういうと彼女は不敵な笑みを浮かべながらコンビニへと走っていった。
そういえば彼女のことについて説明してなかったな。彼女は長田 咲内。いまは高校1年生だっけ?シールやら何やらでいろいろデコりすぎてもはや本体の色がわからない携帯とサラサラの茶髪のボブヘアが彼女の特徴だ。ちなみに僕と同じ苗字だが妹ではない。また、同じところにいると歳が近いこともあってよく他人からはカップルと間違えられるが、カップルなどでは断じてない。大切なことだからもう一度言おう。カップルでは断じてないのだ。でも彼女、そこそこの童顔のわりにレインコート越しからでも膨らみが分かるくらい大……」
「買ってきたよ~」
ストップ!
「うぉっっと、咲内か。まさか本当に買ってきてくれるとは思ってなかったよ。ありがとう。だがその手は何だ?」
「え?配送料だけど」
まぁ咲内で多少邪なことを考えてたし10円くらいはあげてもいいかと思ってた。しかし、
「350円ね~」
おい!買ってきた紅茶の値段と同額じゃないか!どんなぼったくり出前だ!
「なになに~? 『女の子が』『男の子のために』『わざわざ』買ってきたんだよ~? 夜の店なら2000円はくだらないスペシャルオプションサービスだよ~?」
むぅ………言いたいことは山々だけど逆らえない……
結局自分で買うのと同じ結果になってしまった。高くて敬遠してたのにまさかこんな状況で飲むことになるとは……もうちょっと優雅に飲みたかった。
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