8月16日 4話
誰かに肩をたたかれた。前に肩をたたかれて起きたのはいつだっけ? そんなことを考えながら目やにがついてるであろう眼をこする。
「起きて 朝でごわすよ」
あ………斎藤さんか(この状況ではほぼ当然だけど)
何の鳥かはわからないけど鳥の鳴き声が次に聞こえてきた
「おはようございます」
僕はあれからずっと新幹線の椅子に座ったまま寝てたのか……やっぱり昨日は相当疲れていたんだろう。
「おはよう。眠れたでごわすか?」
「なんとか」
「それはよかったでごわす」
彼はテーブルに置かれている弁当らしきものに入っていた焼鮭を頬張りながら言った。
そう認知した瞬間
なぜか口の中がよだれであふれる感覚があった。そしてそのよだれは止まることを知らず僕の口の下を伝っていく。
「あっはっは! まぁ昨日の夕飯が乾パンだけだったごわすからね。おなかがすいてるんでごわすね。ほれ、少年の分」
彼は笑いながら前の座席の下にあったビニール袋を取り出し、その中から鮭が上に堂々と乗った弁当を僕の太ももにのっけた。
「弁当自体は1時間前に配られたんでごわすが少年がその時ぐっすり夢の中だったから少年の分もとっといたでごわす。さぁ 早く食べとくでごわす」
「それはありがとうございました。ではいただきます」
太ももの上の焼鮭の弁当はふたを開ける前から「Tha 美味い」というような香りを漂わせていそうなフォルムをしていた。
そして興奮にかられながらふたを開けてみると、想像を超える「美味い」臭が僕の鼻にダイレクトにアタックしてきた。弁当に付属していた箸を包み紙から取り出し恐る恐る鮭の身をほぐす。そしてたまごボーロくらいの大きさになった切り身を口に持っていく。切り身を舌の上で2回ほど転がし歯でさらに細かくかみ切る。そして、ほろほろと崩れた切り身を食道に流し込む。そんな一連の動作をした感想はーー?
「超美味い!!」
この言葉がすべてだった。僕自身まさか鮭という食べ物に軽いエクスタシーを覚えるなんて思ってもいなかった。
「そうでごわすよね!1日ぶりのまともな食事なのもあるけどそれでもこの焼鮭弁当はうまいでごわす」
「はい。人生で5本の指に入るほどおいしいです。」
それから僕は弁当の仕切りの緑のプラスチックの草や魚の形をした醤油の入れ物までも食べてしまいそうになるほどまさに一心不乱に弁当を貪りつくした。
「ごちそうさまでした とてもおいしかったです」
「おいおい。わっしゃにいってもさすがにわっしゃのおかげじゃないごわすよ」
「斎藤さんがこの弁当をとってくれてなかったらこんなおいしい鮭に巡り合うこともなかったと思うからお礼を言うのは当然ですよ」
「うーん、そんなつもりで言ったんじゃなかったでごわすが。まぁ結果往来でごわすね」
「え!? 違う意味だったんですか?」
「いや、そういう意味であってるんじゃないでごわすかね?」
「え?どっちなんですか?」
「タブンソウイウイミデゴワスヨ」
自分の脳内が混乱してきた。でも多分悪い意味じゃないと思うからここはいい意味で捉えておこう。