3話
腕に着けたねじ巻き式の腕時計は10時を指している。いまだに新幹線はエアーコンプレッサーの排気音の一つも上げずまるで災害の後の避難小屋のように駅のホームに鎮座している。手回しライトの光はあるがやはり車内も駅も薄暗く、外の駅名標は見えなくなっていた。
「はぁ、、、」
ブランケットを体にかけた僕は意識せずとも弱音をつぶやいていたのかもしれない。
「今日は大変なことになったごわすね」
それに気づいていたのかはわからないが斎藤が少し小声で話しかけてきた。
「はい、でも大丈夫です」
僕はブランケットの下で少し拳を握ってそういうと
「そんなことはないと思うごわすよ、長田君だって少なくともおいどんよりは若いはずだからつらくてもしょうがないでごわす。」
見透かしたように彼は言った。
「……高校生です。ある友達 というか恩人かな その人たちに会ってきた帰りなんです」
「そうだったでごわすか。その長田君が言う恩人とはどんな人なのでごわす?」
「…………」
僕の拳の握りが強くなる 体の縮こまりがよりきつくなる
「…………」
「悪かったでごわすな。無理に話さなくても大丈夫でごわすよ。思えばまだ出会って半日もたってなかったでごわすね。とにかく長田君の恩人ということでいいでごわすよ。」
「はい」
「でも」
「ん?何かありましたか?」
「そうでごわすね…… ありきたりな言葉ですけどその人を大切にするんでごわすよ」
「それはもちろんです」
「それは良かった」
彼はそう言うと野〇の〇太並みの驚くべき早さで眠りについた。
「………
大切かぁ、、、」
一人でその言葉を反復してみてもなにも浮かばない。正確に言えばいい思い出はだけれど……
「そろそろ僕も眠るとするか」
結局一時間くらい考えても浮かばなかった。
諦めてゆりかごのようにゆっくりと横に揺れる新幹線の車中で僕も寝ることにした。
思えば今日は当然だけどいろんなことがあったなぁ、、、電波の届かない携帯 斎藤貴教………
そこまで考えて僕は思考を止めて大人しく寝ることにした。
次に出てくる単語は嫌なものしか出てくる気がしなかったから。