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思い込みが激しい王子は逆にこわい

 




「……普通、部屋に連れていかれた時点で気づくでしょ」

「いやあ……まさかダレン殿下が私を襲うとは思わなくて」

「生徒会に入ってくるまではそうかもね」



 心底呆れているらしいエリアスは、会場を出た私を、追うようにいなくなったダレンを不審に思い、後を追って来てくれたらしい。


 全く悪びれていない様子だったダレンは、今日はここまでにしておいてやる、と次回予告かのような全くいらない言葉を残して休憩室を出ていった。



「あんた、自覚があるのかないのかしらないけど、生徒会に入ってからのあんたはその前と別の意味で目立つんだ」

「はあ、別の意味ですか」

「……綺麗だってことだよ。レオもダレン殿下が興味を持ち出すかもしれないって心配してた」

「……そう、ですか」

「あんた、もう少しで貴族令嬢としての名誉が地に落ちる所だったんだよ。……なのにどうしてそんな普通でいられるの」


 確かに、嫌だったし不快であったが、前世の私は死に際でさえそうだった訳で。

 変な風に慣れてしまっているのかもしれない。




「まあとにかく、男といる時は必ず警戒すること」

「……はい。助けて頂きありがとうございました」

「……ほんとに、ギリギリだったけど。…ダレン殿下も婚約者でもないハワード公爵家の令嬢に手を出そうとするなんて、ここまで馬鹿だとは思わなかった」



 確かに、婚約者であっても良しとはされない。だからこそ油断してしまったのだが。





「……気をつけます。あ、あの、この事は他の人には黙っててもらっても?」

「うん、そのつもりだったよ。だけど、ダレン殿下のあの様子からしてあきらめていないようだったし、本当に気をつけてね」

「……はい。でもダレン殿下には意中の方がいらっしゃるはずなのに」

「そういう事はあの人に関係ないんじゃないの。それに、基本的に男は心と身体は別だと思った方がいい」



 確かに、娼婦時代の客も既婚者が大半であった。本当に心と身体は別なんだろう。

 私を好きになってくれてから、一切女性との関係を持たなかったらしいロイは特別なんだろうと思う。



「あとの事は俺達に任せて、今日は帰った方がいい」

「……申し訳ありません。よろしくお願いします」

「あんたのせいじゃないよ。悪いのはダレン殿下だから」



 そうしてエリアスに優しい言葉で送り出された私は、魔法を使いなんとかドレスを着直し、学園からハワード公爵家の屋敷に帰ったのだった。






 ☆





 ダンスパーティーの後の学園で、ダレンからの接触はなく安心していた私は、生徒会室にて次の文化祭の打ち合わせに参加していた。



「次の文化祭に、外国からの来賓がある。そこで、ルーシーに案内の仕事を頼みたい」

「……私ですか?」

「ああ、ルーシーはストケシア語が堪能だっただろう?」

「まさか、ストケシアの方ですか?」

「ああ、そうだ。ルーシーなら聞いた事があるとおもうのだが、このアスター王国にも大きな影響力をもつカールトン商会というところの商会長だ」



 カールトン商会。聞いた事も何も、ロイのお父様が経営されていて、結婚してからは跡を継いだロイを支えるべく、私自身もカールトン商会に所属していた。



「引き受けてくれるか?」

「え、ええもちろんです」



 かなり動揺しているが、仕方ないと思う。まさかロイよりも先にお父様にお会いするなんて。


 ……でも、私を息子さんの結婚相手にどうですかと売り込めるチャンスなんじゃ。



 そう思い、気合いを入れて案内しようと心に決めた。







 ☆








 学園のテストや、文化祭の準備のため、忙しく動き回っていた私は、やつの存在が頭からすっかり抜け落ちていた、そんな時だった。



「ルーシー・ハワード。貴様はどこまで私を愚弄すれば気が済むのだ」



 そんな言葉で私を呼び止めたのは、ダレンだった。




「何を仰られているのかわかりませんわ」



 今回はなんなんだ。前回の事だって忘れてねえからなコノヤロウ。



「前回のテストはまぐれだと思っていたが、今回も満点で一位だと? 今まではわざと手を抜いていたのか? 私はとんだ笑い物ではないか」

「……いいえ。生徒会のためですわ」

「生徒会もそうだ。私と兄上の関係だって知っているくせに、当てつけのように生徒会に入った。そこまでして私の気を引きたいか」



 思い込みが激しすぎるその言葉に、溜息が出そうになる。



「殿下には意中の方がいらっしゃるのでしょう? 私は身を引かせて頂くと、前回もそう言ったはずですわ」

「ふん、その発言もお前の浅はかな作戦のひとつであろう」



 ダメだ。こいつには何を言っても通用しない。もっとはっきり言った方がいいのだろうか。


 そんな事を考えていると、私とダレンの間を割るようにして、この場に闖入する存在が現れた。



「もうダレン様に付き纏うのはやめてください!!」



 その大きな瞳に涙をためてそう私に言ったのは、噂の、ダレンが想いを寄せる相手だった。


 のちに聖女と呼ばれる優れた治癒魔法の使い手である、リリー・レジェノ。


 背中まで伸ばしたピンクブロンドの髪。小柄な彼女は、ダレンが惚れても仕方がないと思う程整った容姿で、庇護欲を掻き立てられそうな雰囲気の美少女だった。



「ダレン様はお優しいから、はっきりと言えないんですっ。でも、私は知っていますっ。ダレン様は迷惑されてたんです。さっきもダレン様が、テストだったり生徒会だったり気を引くのに必死だって仰っていましたしっ。もうやめてください!!」

「ああ……リリー。わざわざ私が心配で来てくれたのか?」

「え、ええ。はじめは見てるだけって、思ったんですが、思わず……勝手な事をしてごめんなさい……」

「いいんだよ、リリー。私の事を思っての事だろう?」

「は、はい……」



 蕩けたように甘い瞳をしてリリー・レジェノの腰を引くダレンと、顔を真っ赤にして照れているリリー。


 なんなんだこの茶番は。そしてリリー・レジェノの耳と頭は正常なのだろうか。どうすれば最初から会話を聞いていて私が気を引こうとしていると思えるのだろうか。


 ……以前の付き纏っていた頃の私の行いのせいなのか。時を戻す魔法はまだなのか。




「……もういいですか?」



 心底この状況に呆れた私がそう言うと、甘い雰囲気から一転、私を睨みつけたダレン。



「もういいとはなんだ。不敬なやつめ」

「この際なので、はっきりと言わせて頂きます。確かに以前は殿下をお慕い申しておりましたが、今は違います。テストや生徒会も殿下とは一切関係ありません」

「な、なんだと……」

「これ以上、勘違いはおやめ下さい。このような事が続くのであれば、この前のパーティで殿下が私になさった事、そちらの大切なお嬢様に教えて差しあげてもよろしいですわよ?」

「なっ……!リ、 リリー。この女は頭がおかしいんだ。聞いてはいけないよ」



 私の言葉に慌てるダレンは、リリーに何があったのと迫られていて、必死に言い訳をしていた。その姿が滑稽すぎて笑いすら出てこない。



 もう本当に馬鹿馬鹿しい。脅しも効いたようで、もう絡んで来る事もないだろうし、さっさと退散させてもらおう。




「ど、どこにいく! 待て!」







 ダレンのその声に聞こえないふりをした私は、足早にその場を去ったのだった。









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