表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/21

番外編 事実は小説よりも奇なり

 




 アスター王立魔法学園という超名門学園に奇跡的に入学でき、無事三年に上がることも出来た私は、先日彼氏と喧嘩してしまい、憂鬱な気分だった。


 記入漏れがあり再提出する羽目になった私は、修正した書類を持って、生徒会室に向かっていた。

 曲がり角のその先に人の気配を感じ、どうしてか、隠れるように身を翻して壁に背をつけてしまった。



 反射的に隠れてしまったけど、何をしてるんだ、私。出にくくなってしまったではないか。そう思いながら、少し頭を出して、誰だろうかと覗く。

 そこには制服姿の男女が二人。…あれは。




 私が二年の頃に派手なドレスを制服に変え、その悪魔のようだったお化粧を剥がすと、とんでもない美少女だった事が判明し、一時期学園中で噂をされていた超有名人。


 ルーシー・ハワード公爵令嬢。


 そして、もう一人の男子生徒は、私と同じ学年である貴族の生徒だ。



 ふむふむ。この光景は何度か見たことがある。


 ルーシー様は、生徒会に入ったという時から、以前の噂と違いとても丁寧で平等な態度になったため、もしかしてと色々夢見るチャレンジャー達が一定数いた。


 そして、すべて社交辞令だと思っているらしいルーシー様は、口説かれていると全く気がついていないご様子で。はじめて見た時はびっくりした。



 今日もそうらしく、書類を片手に身振り手振りで必死に約束を取り付けたいらしい男子生徒に、絶妙な感じで気づかないルーシー様。正直男子生徒が哀れすぎる。



 完全に出るタイミングを失った私がしばらく見ていると、視界にもう一人の登場人物が入ってきた。



 信じられない程整った綺麗な顔を、信じられないぐらい怖い顔にしてルーシー様の後ろに立つ、私と同じクラスであるエリアス・ウィーラー様だった。


 エリアス様は男子生徒を、見ている私まで恐怖を感じるような目で睨みつけた。すると、男子生徒は竦み上がり、ルーシー様に一言いうと、逃げるようにして去った。


 ひと睨みで男子生徒を蹴散らしたエリアス様は、不思議そうに首を傾げてから振り返ったルーシー様に対しては、すごく穏やかな表情を向けていた。



 そんなエリアス様の瞳に見覚えがある。私の愛する彼も、そのような瞳で私を見てくれている。



「あれ、またエリアスさんじゃないですか。偶然にしてはよくお会いしますね」

「……そうかもしれないね」



 ……まって。もしかしてルーシー様気づいてない? え、嘘でしょう? 鈍感っていうか、もう天然の域だとおもう。


 いつも通りすがりながら見ていて、エリアス様のこのご登場とその瞳は初めて見たが、そんな私でもわかる。




 ……まあ貴族の人は上位になればなるほど、平民の私などとは違い、簡単に付き合ったり出来ないと聞いた事がある。婚前交渉など論外だとか。それゆえ経験がなく鈍感になってしまうのも無理はないのかもしれない。それにしてもとも思わなくもないが。








 ☆








 無事に彼氏と仲直りして今日は放課後デートする約束をしていた私は、学園の門まで着いた時、教室に課題を置いてきた事に気づいた。


 これからデートで急いでいたのに最悪だ……。


 普段なら戻らないだろうが、明日は学園が休みで、提出期限は休み明けなのだ。成績上位者でもない私が提出期限を守らないとかありえない。なので急いで階段を登り教室まで課題を取りに行った。




 思い出してよかった……と安心して門まで向かっていた時だった。





「あんたほんとなにしてんの」

「えっと……私の髪はストケシアでは珍しくて、よく触らせてほしいって言われてたんです。その時の昔の ”ノリ” で、つい……」

「ついじゃないから、ありえないから」





 怯えた表情で必死に話すルーシー様と、そんなルーシー様に" 壁ドン "をしているエリアス様だった。


 その意味のわからなさすぎる状況に、急いでいるのも忘れて足を止め、じっと見てしまっていた。



 ちなみに壁ドンとは、男性(ただしイケメンに限る)が女性を壁際などに追い詰めて、手を壁にドンと突き迫る行為ーーという主に恋愛小説などで使われる行為の造語である。なおその他に、床ドン、股ドン、顎クイなどがあるが今は確実にどうでもいいだろう。



 ていうか現実に壁ドンとかする人ほんとにいるんだ……。


 と、唖然としてしまうが、完璧な容姿のエリアス様とルーシー様ならヨダレものの光景ではある。

 それにエリアス様本人は真剣そうだし、こちらから顔は見えないが、その声は相当怒っているのがわかる。



「……はい、貴族令嬢として有るまじき行為でした。しかも殿方に……で、ですが、誰にも見られてないですし」

「色々そういう事じゃないし、まず俺に見られてるし、その男だって言いふらすに決まってるし」

「え? ……でもエリアスさんは私の中身が "残念令嬢" だと知っていますし、正直言いふらされても痛くも痒くもないといいますか……」




 本当にそういう事ではないだろうし、"ノリ" とか "残念令嬢" とか、スラングだらけで平民の私には親しみやすすぎるし、ストケシアとか昔とか全然よくわからないが、考えてもわかる筈もないし、聞ける事もないだろう。


 ……何やら、例のチャレンジャーの一人にそのプラチナブロンドの綺麗な髪を触らせてほしいと言われ、その "昔のノリ" とやらのせいで触らせてしまった。


 そしてルーシー様が大好きらしいエリアス様は激おこりしていると、そういう事らしい。



 ……うわあ。なんだかすごく可愛いものを見せられている気がするのは私だけ? なんなのこれ。



「あ、あのもう絶対あの様な事は致しません。ですから怒りを鎮めてもらえないでしょうか」

「ほんとさ、いい加減自覚しなよ」



 エリアス様はそう言い、他にも怒って色々言っていた。怒りは相当らしいが、彼氏がいる私も気持ちはわかる。

 だけれど、鈍感で天然らしいルーシー様に素直な言葉を言わないエリアス様にも原因があるのでは……。



 そんな怒りが頂点に到達しているらしいエリアス様に、ルーシー様は何やら覚悟を決めたような表情をした。



 ……え? 何が始まるの。もう結構お腹いっぱいだよ?



「あの、本当にごめんなさい。……反省するので、ゆるしてはくださいませんか?」



 ……正直。

 その上目遣いと甘えた声に、女である私にも相当な破壊力があった。

 なんなのこの人。無自覚にこんな事をするなんて、ある意味たちが悪いんじゃなかろうか。

 ただでさえ美少女なのに更に好きな人にこれをされるエリアス様はたまったものではないだろう。




「……もういい」




 そういって手で口元をおさえ、顔を横を横に向けたエリアス様の耳が赤くなっている意味がわからないほど、私は純情な女ではないので、しっかり心のフォルダーに仕舞わせて頂いた。


 そんな様子のエリアス様に、ルーシー様は何故か驚いていた。


 恐らくだが……ルーシー様は、誰かに入れ知恵されたのではと、私はみた。


 もちろんエリアス様の気持ちをしっているその誰かに。そしてものすごく面白そうな顔でルーシー様に教えてあげたんだろう。そんな誰かさんの気持ちもわからなくは無いけど、エリアス様が可哀想だぞ。



 ……いや、そうでもないのか?



 ルーシー様は、エリアス様が内心悶えているだろうその隙に、そろりそろりと "壁ドン" から抜け出し、そうっとその場を後にしようとしていた。



 だがしかし。



「どうせ生徒会室でしょ。一緒に行く」



 そう言って悶えたその時のまま、ルーシー様に目線を向けないまま逃げようとするルーシー様の腕を掴んだ。


 ……あの、今全くルーシー様をみてませんでしたよね? 寸分の狂いもなく今、腕をつかみましたよね?




「あはは……ですよね」




 バレた……と言わんばかりの表情でそういったルーシー様を無言で手を繋いだまま連れ、生徒会室の方に歩き出したエリアス様だった。




 なんだか、すごく幼い子の恋愛を見せつけられたような、でもなんだか胸が暖かくなるような、何やら不思議な気持ちになった。


 あそこまで好きなオーラを出すエリアス様が気づいて貰えないのは、心底同情したが。




「あ! デート!」





 人様の恋愛模様に心踊らされている場合ではなかった。確実に遅刻だ。自分の恋愛を疎かにしてどうするだ私!




 ……それに今ものすごく彼氏に会いたい……。








「おまたせ! 本当にごめん!」

「……まじで遅い。まあ来てくれたからよかったけど」

「ほんとごめん! ……いやあそれがね課題を忘れた事だけじゃなくて、ちょっととんでもないものを――」




 ――そうして私は、大好きな彼氏に遅れてしまった理由を一部始終楽しく語ったのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ