7. 稽古初日
3日明けの更新です。
遅れてしまいまみまみた...
「じゃあ、試しに剣を振ってみようか」
何とか剣を持ちあげたマリーに何事もなかったのごとく、次の指示を出す。
しかし全身に魔力を行き渡らせ自身の体を強化したマリーは、それだけで手いっぱいだった。
「こ、ここからどうやって剣を振るえば・・・」
額に汗を浮かべながら余裕のない表情を向ける。
しかしハドリーからすれば、身体強化をしたマリーの姿など映っていない。
「ん?普通に好きにすればいいんだよ?見たいだけだから」
(そんなこと言われても...どうやって動かせばっ・・・!)
身体強化を施した体は、力いっぱい動かそうとしてもピクリとも動かない。
動こうとするも、体が重くなってるのか何かの力で拘束されているのか全くもって身動きが取れないのだ。
歯を食いしばり、自分の出せる全力で指の一本でも動かそうとするが、そこで体内から発していた魔力が切れた。
「うわっ」
突然魔力が切れ、持っていた木剣に体重ごと持っていかれる。
咄嗟に手を離すも、勢いのまま地面に落ちた木剣に倒れそうになるが...
マリーの様子を察知したハドリーは、神経を研ぎ澄ませ倒れそうなマリーを受け止める。
「良かったー。危うく木剣に突っ込むとこだったよ...」
地面に横たわった木剣を見るなり、そう言って息をついた。
一方魔力切れを起こしたマリーは、脱力感に襲われ身動き一つ出来ない。
「大丈夫?立てるかな・・・?」
「すみません...限界みたいです」
目の合図で、力が抜け宙でぶらぶらと下がっている両腕を指す。
「あちゃー、剣を振るう以前の問題だったんだねぇ・・・」
腕の中で脱力するマリーを抱えながら、ハドリーはオーレンから言われた以上の弱体に頭を抱えた。
「どうする、今日はもう終わりにする?」
「・・・・・・」
自分の不甲斐なさに迷うも、これ以上体を動かせないため仕方なく頷く。
「うんうん、まだ時間はあるしゆっくりやっていこうねぇー」
落ち込むマリーを宥め、そのまま抱えたまま起き上がると同時にお姫様抱っこをする。
よいしょっと声を上げながら抱え、振り返るとそこにはメイド姿のサフィアがいた。
「うおぁお!!」
本当にすれすれまで近づいていたため、思わず距離を取る。
(き、気づかなかった...ボクが不覚を取るなんて・・・)
目の前に立った無表情のサフィアに少しの恐怖を覚えながら、万が一のために柄を握る。
両者とも初対面のため、傍から見れば気絶したマリーを抱っこする犯罪臭ムンムンな男と気配を殺して後ろに立っていた無表情のメイド服の女性にしか見えない。
「だ、誰ですか・・・?」
何故かメイド姿をしている女性に怪しく思い問いかける。
「あなたこそ...気絶したお嬢様を何処に連れていくつもりですか・・・?」
互いの間に緊張が走る。
草木が風に揺らされ、両者の間に風に乗った葉っぱがひらひらと落ちる。
「と、冗談はここまでにしておいて...旦那様から聞いております。誤解させて申し訳ございません・・・」
「あ、いえいえ。こちらこそ何か勝手に勘違いして殺気を振り向いちゃってすみません・・・」
頭を掻きながら、そう言って抱っこしていたマリーを渡す。
「・・・ありがとうございます。では」
無事に抱っこし、一瞬腕の中で気絶するマリーを見て笑みをこぼしながら、踵を返し屋敷へと歩いていく。
そんなサフィアの後ろ姿を眺めていると、ふと地面に落ちたモノに気づく。
遠くから気になったハドリーは、サフィアがいないことを確認すると咄嗟に拾い上げる。
「Oh...」
拾い上げた手に持ったのは、一本の短剣だった。
ざわざわと心の中を揺らす底知れない恐怖に、どっと冷や汗が噴き出してくる。
(は、早く帰ろう。かな...)
ブルブルと手を震わせながら、反射で拾ってしまったモノをそっと元の場所に置く。
そして地面に確かに置いたことを確認しながら、ゆっくりと後退っていった。
程なくして、マリーを運び終え落としたモノに気づいたサフィアが戻ってくるが、それはハドリーが去った後のことだった。