6. 筋肉強化
「マリー、少しいいか?」
あの騒動から2日経ったある日、軽く昼食を終え屋敷の庭の木陰で休んでいたマリーに父親であるオーレンが唐突に話しかけてきた。
「マリー、前に体を鍛えたいなどと言っていただろ?」
「あぁ、上腕二頭筋の話ですね」
「ん?じょうわんにとうきん?...まぁ良い。とにかく病弱な体を鍛えたいと言っていただろう?」
「はい、これ以上お父様に迷惑を掛けたくないので...」
「そう、だからついでと言っては何だが、せっかく鍛えるなら先生をと思ってだな・・・」
そう言って、近くの茂みに隠れていた男性が出てくる。
「紹介しよう。こちら知り合いのハドリー君だ」
「こんにちわマリーちゃん」
そう言って爽やかな笑顔を向けると、木にもたれているマリーに覗き込むようにして挨拶をしてくる。
どこかの騎士様なのだろうか。
腰には装飾が施された剣を差し、白を基調とした豪華な服装をしている。
濃いめの赤髪と同色の瞳をしており、好青年っぽい雰囲気を醸し出していた。
例えお偉い騎士様かもしれないからといって、わざわざ立ち上がってまで挨拶をするのは子供っぽくない。
なぜか2日前から、子供っぽさというかこの世界での私が薄れたように感じる。
そのせいか自然と子供っぽく振舞えない。
「えっと、こちらこそ...」
「あぁ!僕のことは先生とでも呼んでね」
「は、はい...よろしくお願いします先生!」
「ハハハ(笑)違和感凄いから普段通りで構わないよ」
流石イケメンだけある。
子供に対して寛大だ。
「よろしくね先生!」
めいいっぱいの笑顔を振りまき返事をした。
これからマリーのムキムキまでの修行が始まる...
と思ったが、初日から躓くことになった。
あれから挨拶を済ませた二人は、広けた庭の中央に移ると早速稽古を始めようと木剣を渡されたが...
この年でのマリーでは少々大きすぎて、何より重くて持つことすらままならない。
「あちゃー。そうだったいつもの稽古みたいにやっちゃったよ~」
そう言って、重くて剣先を地面に落としたマリーの様子に気が付く。
「ん~、どうしようかな?オーレンさんからは剣の稽古を頼まれたんだけど・・・」
お父さん鬼畜ぅ~。
だがしかし、ここで諦めるただの子供でもないのだ。
私がこの2日間、何もしていないと思ったら勘違いだ・・・っ。
重く持ち上がらない剣を握ったまま、奥底に眠る魔力核を動かしそこから湧き出してくる魔力を操作する。
マリーは魔力核や魔力の存在を詳しく認識できていないが、暇だったマリーの遊びとしてやっていたことなのでそれもそのはず。
「ふんぬぬ・・・」
全身に力を籠め、まだ慣れない魔力を全身に行き渡らせる。
そして、全身を魔力が循環する中マリーは剣を思いっきり持ち上げた。
「おぉ...」
突然剣を持ちあげたマリーにハドリーは関心する。
「凄いね~マリーちゃん!どうやったのかな?」
「えっと、奥にあるこう、ギュッとしたものからスッと取り出して、バァって広げた感じ!!」
「ほうほうほう...なるほどね」
「さっぱりわかんないや!」
何故聞いた。
分からないことを説明するのにも苦労するんだぞ。
「さて、振出しに戻ったことだし稽古始めるかな~」
そう言って、やっとマリーの剣の稽古を兼ねた筋肉強化プログラムがはじまった。