3. 走れサフィア
「ちょちょちょっ...」
急に執務室に入ってきたかと思うと、この無表情メイドさんは患者がいると言ってボクを急かし、仕方なく山のようにある書類を放置して身支度を済ませて今に至る。
服の袖を引っ張られ、急ぎ足で連れ去れているボクが可哀想だと思わないか?
(痛い痛い痛い。服が伸びるって・・・)
怪力に引っ張られ、足が浮いた状態で運ばれている様は傍から見ると情けない姿である。
ひ弱で冴えなくも好青年である彼は、この状態を変に見られはするが通り過ぎていく女性からは彼のことを好感の目で見られている。
イケメンであるからして、許されることなのだろう。
「ねぇ、無表情ちゃん。ボクに頼むって相当重症なの?部位の欠損とか」
風をきり、人ごみの中を颯爽と走るサフィアは息を荒げながらも答えた。
「欠損はありませんが...重症です...ね...」
ハァハァと焦りの混じった荒い息を上げながら、王都の中心街を走り抜ける。
そして、検問所まで来たサフィアは懐から青空色に澄んだ透明の結晶を取り出すと、魔力を込める。
魔力を流し込まれた結晶は、青空色に発光しサフィアたちは一瞬にして光に包まれた。
◇
マリーの父、オーレンが治める領地より離れた王都シグノにて。
生涯をもって仕えるフォースト家のメイドとして、現状知りうる最高の回復士を求めてきたサフィアは王城の中で務めている回復士を連れていた。
シグノ王国最大の都市であり、王族が住まう王都シグノ。
貴族が多く住まうこの都市は、多くの住民と商売で賑わっていた。
そんな傍ら、中心街を駆け抜けたサフィアたちは転移結晶で領地へと戻った。
何もないところから青白く眩しい光が発生した後、フレッドを連れたサフィアが現れる。
王都からノンストップで駆けていたことで、苦しくなっていた息を一旦落ち着かせる。
「うわぁ、転移結晶初めて見たな~。結構高いんでしょ?」
緊迫した状況の中、少しでも和らげようと話題を振った。
「さ、急ぎますよ」
「え、ちょ無視しないで――」
一瞬で息を整え、普段のように整ったサフィアは爆音とともに駆け出し全速力でマリーの元へと向かう。
「うわぁぁぁぁ!!!!!死ぬ死ぬ死ぬって、早いってぇぇぇぇーーー!!!!」
全身を包み込むようにして魔力を帯びたサフィアは、常人よりも遥かに速く、それに引っ張られているフレッドはたまったものじゃあない。
土埃を上げながら全速力で走るサフィアは、今も苦しんでいるだろうマリーの顔を浮かべ更に速度上げた。