2. お父様はデレデレです
3/1 追記:マリーの転倒の描写を変更
異世界に召喚されてからしばらく経ったある日。
太陽が昇り丁度正午の時間を迎えるころ、屋敷の玄関が開いた。
閉じた玄関が開くと、音を聞きつけてひょこっとどこからともなく出現したマリーは、広い玄関口の中央に並ぶ階段上から現れる。
「マリー!!」
「お父様!」
父の久方ぶりの帰宅に嬉しくなったマリーは、思わず身を乗り出してしまう。
「あっ」
階段の上から身を乗り出し、足元を見ていなかったため階段の手前で躓き体制を崩す。
体勢を崩し、勢いよく階段上から転んでしまったマリーは、そのまま宙に投げ出された。
「マリー!!!!」
娘が転んだことを心配する父親の頭上を、マリーはそのまま通り過ぎ、屋敷の窓ガラスに飛び込んでしまう。
パリィンと窓ガラスを割る音が響く。
ドサッと鈍い音を立てて落下したマリーは、庭の芝生に投げ出される。
「マリー!!」
悲鳴に近い声を上げた父親のオーレンは、心配して慌てて庭に飛び出してくる。
「マリー・・・」
玄関を飛び出し、娘の様子を見たオーレンは消えゆくローソクのように娘の名前を呼んだ。
しかしそれに答えうる娘の反応はない。
「マリー??」
名前を呼んでも微動だにしない娘の様子に戸惑いながら、近づく。
そっと寄り添い、地面に倒れ伏した娘の顔を見るべく体を持ち上げ抱き寄せる。
マリーの顔面は、窓ガラスの破片が無数に刺さり血まみれで、からだ中にも顔よりは少ないがガラスの破片が散りばめるようにして突き刺さっている。
地面に叩きつけられたからか、腕は赤く腫れていた。
口元を確認し、息を確認する。
スゥースゥーと今にも消えそうなか細い呼吸をし、体中に走っている痛みに耐えるように生きていた。
「良かった...生きてる。おい、誰かいないのか!!??」
開いた屋敷にいる使用人を呼ぼうと声を上げたが反応がない。
「クソっ」
「呼びましたか旦那様。」
「うおぅ!!」
声がした方向に振り返ると、珍しく息を上げて突っ立ったサフィアの姿があった。
相変わらずの無表情である。
「おい、フィ医者を呼べ。早急にだ。私は取り敢えずマリーをベッドに運ぶ。」
「承知しました。早急に手配します。」
感情のない口調で口早に答えたサフィアは、スカートを持ち上げ踵を返し走り出す。
颯爽と去っていったサフィアの姿を後にし、オーレンは娘を運びながらふと1週間前のことを思い出していた。
◇
「マリーどうしたんだい?」
「あのね、お父様。私ムキムキになりたいです!」
上腕二頭筋を強調しながら満面の笑みでオーレンを見上げる。
「いや、本当にどうしたんだい!!??」
一瞬固まりながらも気を取り戻したオーレンは、話の続きに耳を傾ける。
「わたし、昔から体が弱くて寝たきりで...お父様に迷惑を掛けてきたでしょう?だから、自分にも何かできないかなって」
中身20歳の可愛げな少女が、儚げそうにも満面の笑みを浮かべた。
それを見た父親であるオーレンは、そんな娘の姿に感嘆した。
「そうかそうか、マリーは偉いなぁ~」
熱くなった目頭を押さえながら、娘の成長に涙を浮かべる。
思わず抑えた隙間から零れそうになった涙に天井を見上げながら、熱くなった目頭を冷ます。
そんな父の様子を不思議そうに見つめる娘の姿に、咄嗟に気づいたオーレンは零れていた涙を拭い切り替えた。
「よし、そうと決まればお稽古の先生を呼ばないとな!!」
「稽古の先生?」
「あぁ、私も体が弱かった幼少期は剣を...こうっ鍛えていたからな」
ビュンっと剣を振りかぶる動作をしながら過去の経験を語る。
「・・・でも大丈夫か?弱い体を鍛えるのは大変だぞ?」
「大丈夫!だって、お父さんの娘なんだもん!!」
「そうかそうか...」
娘の言葉に内心嬉しくなりながら、座っている自分の前に立つ我が子に手を伸ばす。
伸ばした手で娘の頭を撫でながら、いっぱいのマリー成分を補充して宛のある稽古先の先生の姿を思い浮かべるのだった。