一本道
辺り一面桜色の道を歩いていた。
そこは並木道によって示された長い一本道で、終わりはない。
僕はただそこを歩き続けた。
「どのくらい歩いているの?」
道の途中でウグイスに聞かれた。
―さあ?忘れてしまったよ
そう答えるとウグイスは言った。
「変なヒトだね」
しばらく歩くと、キツネに出会った。
「そんなに歩いて疲れないの?」
と、キツネは聞いた。
―さあ…忘れてしまったよ
「冷たいヒトだね」
またしばらく歩くと、今度はネコに会った。
「何のために歩いているの?」
ネコはそう聞いた。
―さあ?……忘れて、しまったよ
「本当に生きているの?」
それからもたくさんの動物に出会った。そして、様々な事を聞かれた。でも僕は、とりわけ気にもしなかったし、なんとなくただ、この道を歩き続ければいいと思っていた。
でも、一つだけ気になる事がある。
最後に出会った、僕によく似た動物に聞かれた言葉。何故かはわからないけど、ひどく悲しそうな目で僕を見ていた。
「あなた、本当にヒトなの?」
それでも一本道は果てしなく続く。僕もたぶん気付いている。この道の先に、幸福に満ちた終わりなどないと。
この道の終焉は、深い闇と悠久の孤独がぽっかりと口を開けて待っている、そんな終わり。
―わかっているよ
それでも、僕は歩くしかなかった。示された、ただ長い、目の前の桜色の道を。
振り返ってしまったら、この美しい道も、今まで歩いてきた道も、全て消えてしまうとわかっていたから。
だから、僕は歩くんだ。