表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼と魚  作者: 若松ユウ
4/5

二人きりの湖

 荷馬車の中では、少女は空の木箱に身を隠していました。

 ところが、落石がゴロゴロしている未舗装の崖路を進んで行く途中、車輪の一つが割れ、荷馬車は横転してしまいました。

 驚いた馬が逃げ出そうとしたので、馭者は慌てて馬を追い掛けました。

 その間に、少女が隠れていた木箱が滑り落ち、崖下の湖まで転がっていたとも気付かずに。


  *


 陸に上がった少年は、そのまま川沿いの街道を歩いていました。

 川は、途中から人里を離れた山へ向かって行くようでした。

 慣れない地上での二足歩行に疲れてしまっていた少年は、人気が無いことを確かめると、雪解け水で増水した川に飛び込み、そのまま流れに逆らうように泳いでいきました。


  *


 壊れた木箱から出た少女が最初に目撃したのは、湖畔で濡れたシャツを絞っている少年の姿でした。

 少女は、その少年の見た目が、これまで目にしてきた村人たちと違い、自分によく似た特徴を持っていることに気付きました。

 ひょっとしたら敵意を持っているかもしれない。けど、もう、ひとりぼっちは嫌だ。 

 そう思った少女は、ワンピースのポケットに石を一つ入れてから立ち上がり、少年に近付いて声を掛けました。


「あのっ。あなたは?」

「うわっ。そういう君は?」


 他に誰かいると思っていなかった少年は、驚いてシャツを湖の中に落としてしまいました。

 時は折しも、春爛漫の頃。

 湖の周囲の草原には、食用に向いた植物が多くあり、水中に潜れば、蛋白源を獲得することが出来る季節でした。

 住めば都というように、二人は互いに協力し合い、そのまま湖畔で暮らしていきました。


 そのまま誰にも邪魔されることなく、生長の夏、実りの秋と過ごすうちに親睦は深まり、いつしか二人の間には、固い信頼の絆が生まれていました。

 それと同時に、互いを異性として意識するようになっていきました。


「じゃあ、行ってくるよ」

「行ってらっしゃい。気を付けてね」


 少女は、食糧の獲得に行く少年の頬へ、小さくキスをしました。

 少年は、照れ臭そうにはにかむと、急いで湖へと向かいました。

 これが、二人にとってさいごの会話となるとは、この時点では知る由も無かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ