人狼族の村
木々が生い茂る森の中に、人狼族が住まう村がありました。
村人たちは皆、狼のように銀色の尖った耳、鋭い牙と爪、そして、フサフサの長い尻尾を持っていました。
ところが、その中に一人だけ、見た目が大きく違う少女がおりました。
「やめてください!」
「うわっ、耳が丸いぞ」
「爪も真っ平だ」
「尻尾もないね」
少女だけは、私たち人間と同じような見た目でした。
彼女は、村の学校に通っていました。
校舎内では、なるべく人目を避けるように歩き、登下校時は、フード目深にかぶったり、マスクや手袋をしたりして自衛していたのですが、好奇心旺盛な同年代の少年たちにとっては、逆効果でしかありません。
スカートを捲られたり、硬い干し肉を食べさせられたりといった悪戯は、日常茶飯事でした。
学校には彼女と同じ年頃の少女たちも通っていましたが、その少女たちは、少年たちのように悪戯を仕掛ける真似はしませんでしたが、さりとて、話のグループに加えたり、困っている彼女に救いの手を差し伸べたりすることもありませんでした。
「ただいま、おばあちゃん」
「おかえり。学校は楽しかったかい?」
「うん。まぁまぁかな」
「そう……。クッキーを焼いたから、手を洗っておいで」
「はぁい」
それでも少女が学校に通っていたのは、一緒に暮らしている祖母を心配させたくないからでした。
少女の母親は、彼女を出産してすぐに他界し、父親は葬儀を終えるやいなや、彼女を義理の母に押し付け、以前から隠れて付き合っていた女性と再婚しました。
そんな少女にとって、優しい祖母だけが心の支えでした。
ところが、ささやかな幸せも、長くは続きませんでした。
少女が十五歳を迎えて学校を卒業したとき、祖母は帰らぬ人となりました。
拠り所を喪失した少女は、明日を生きる気力をなくし、フラフラと当ても無いまま、家を飛び出しました。
そして、一台の荷馬車が目に入り、荷役の男性が目を離した隙に荷台へ乗り込み、そのまま村から離れました。