1話:一匹狼は巻き込まれる
「奴はまだここらにいるはずだ!探せ、ただちに見つけろ!!」
非常に焦っているサツが俺の横を素通りしていく。変装に気づいてない証拠だ。
現在地は首都圏都市の一つ、〈高貴な市場〉エルストガイヤの中心地。日光が眩しいこんな昼間にこのお上品な街が騒がしいのには、理由がある。
ーー俺が盗んだからだ。
盗んだのは、一生を遊んで暮らせる金が手に入るほどの価値があると呼ばれる〈エルストの財宝〉エルスターダイヤ。今日まで美術館創立から厳重に保管されてきた。
ちなみにエルスターダイヤは昔に、落下した隕石の欠片が長年の月日を経てより神秘的になったダイヤの宝石ような輝かしいブツである。結構小さい。
「いやしかし…やっぱ綺麗だな〜エルスター。うん…やっぱ綺麗だ…。」
綺麗すぎて綺麗しか言えない現象を起こしながら帰路を辿ろうとしたとき、ふと目の前に綺麗な白髪の女性が現れ、俺に勢いよく抱きついてきてこう言った。
ーー助けてください!
その瞬間、前方の工場が爆破した。
同時に、俺の本能も働いた。これは関わってはいけないやつだ。
「ごめん、無理!」と言い振り切ろうとしたが振り切れないので全力で断る。「ちょ、離れて!」
「嫌です!助けてくれなきゃ嫌です!」
「なんで!?」
「命の危機なんです!殺し屋に追われてるんです!」
「よ〜しわかった!助けてやるから離してくれ!離してくれたら快くお兄さん善意1億%で助けるよ!」
「ほんとですか!?ありがとうございます!」
そう言った瞬間少女が手を離した隙を逃さず、俺は全力で逃げた。
「ちょ!?逃げないって言ったじゃないですか!」
「残念!助けるとは言ったけど、逃げないとは言ってない!だからバイバイ二度と会うな!」だが、助けようと思った気持ちは1ミリもない。
正面方向の工場が爆破したのをみて、俺は回り道をして帰ることにした。周りがやけに静かだ。人影がない。
「はぁ、はぁ…………助かった…俺にはわかるぞ…あの女、絶対地雷中の地雷だ…。どれだけ世界が破滅しても絶対関わらねぇ…。あー…イテッ…おいおい避難するのはいいけど前方はよく見…」
そのときぶつかった人のは、いかにも人殺しが趣味なように見える、筋肉ダルマの袋の仮面を被った大男だった。
「おかしいな…俺はたしかに正面は避けたはずだが…」と言った瞬間、仮面男が殴りかかってきた。「お前が気をつければいい話だと思うから、お前を殺すとしよう。」
俺は紙一重でその一撃を避けた。が、しかしその拳が叩いた地面を見て驚愕した。
「おいおい……これはやりすぎでしょ…。」
コンクリートが、このときは脆く汚いガラスのようにしか見えなかった。
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