何やらせてもできる人は、大抵何も出来ないって答える。
「おっしゃあ。俺らのサーブだ! ここ取ってくぞ!!」
「「オゥ!」」
威勢はいいが、すでに最終セット、相手側のマッチポイントである。今ほど崖っぷちという言葉が合うシチュエーションはない。そんな状況だった。
俺らE組が、相手に勝つポイントがあるとすれば、虚勢を張ることぐらいだな。何も勝ってねえな。
声を出し終えた外野が俺の肩をたたいた。
「おい、花丸」
「なんだよ」
「一本くらい食らわせてやろうぜ。お前にトス出すから」
そういってウインクしてくる。
俺は左腕で、顔を滴る汗をぬぐった。
ちらと相手陣営の方を見た。相手側の応援団の中には、依然として橘が凛とした様子で立っている。
俺らE組が滅多打ちにされてさぞかし気分がいいのだろうと思ったが、先ほどの笑みも消え無表情に近い顔をしていた。
平静を装い、心の中で大いに笑っているに違いない。なめやがって。
「……分かった」
いくら俺だって、滅多打ちにされて、いい気分でいられる訳ではない。少しくらいは悔しいと思う気持ちがあるのは当然で、一矢報いてやりたいという外野の気持ちは、よく分かる。
審判の笛が鳴る。
こちらの後衛が出した、フラフラとしたサーブはなんとか入り、相手は難なく打ち返してくる。幸いマッチョマンは後衛にいるので、殺人スパイクは心配しなくてもいいだろう。
相手の素人くんがフラフラとした球をこちらに打ってきて、俺らの後衛がきっちりと、フロントセンターにいる外野に繋げた。
「行くぞ!!」
俺は外野の動きに合わせステップを踏んで、飛び上がった。
この世には様々なスポーツがある。俺が知らないスポーツでもごまんとあるだろう。
でもそれぞれのスポーツが完全に特異的な動作をしているというわけではなく、ある程度の共通性は見いだせる。当たり前といったら当たり前だが、走る、跳ぶ、投げるなどの行為だ。
バレーのスパイクは、胸を開き、体を捻ってためを作り、肘を先行させ、肩の回転運動、腕の伸展、回内、内旋、手首のスナップという一連の動作が組み合わさったものだ。
もちろん細かな違いはあるのだが。それはバレー特異的な動作ではなく、野球のオーバースロー、バドミントンのオーバーヘッドストローク、そしてテニスのサーブとスマッシュにも共通して見られる動作である。
体に馴染んだその動き、頭で考えずとも腕が勝手に動いてくれる。
外野はほぼ完璧な位置にトスを上げ、俺の予備動作もまたバッチリのタイミングだった。
「打て!」
外野の声とほぼ同時にミートした感触が俺の体に伝わった。
ボンっという打撃音の後、ボールは一直線に相手側のコートに飛んでいき、そして土を巻き上げ後ろのフェンスにガシャンと当たった。そのあたりで応援していたのF組の女子たちが悲鳴を上げる。
「お前、女子にも容赦ねえな!」
と外野は嬉しそうに手をたたいた。
「不可抗力だ」
俺と外野がそんなやり取りをしている横で、沈んでいたE組の陣営から歓声が上がった。
「よっしゃー!」
「とったどー!!」
「うぇーい!!!!」
こちらの攻撃で点を取れたのがよほど嬉しかったのか、選手含めE組は大盛り上がりしている。
まるで勝利したかのような賑わいですけど、圧倒的劣勢なのは変わっていないんですが、もし。
そこでまた橘の方を見てみれば、彼女も俺たちの滑稽さに失笑したのか、口元を手で隠すようにではあったが、笑っていた。F組のほかの連中がポカンとしている中、笑う余裕があるのだから、あいつの胆の太さと言ったらない。
喜べたのは束の間。マッチョマンが前衛へと上がる。
俺はそこで、自分の足にも限界が来ているのに気付いた。前衛についているときは、ブロックのためほぼ毎回跳んでいたから、ふくらはぎが疲労のためプルプルと震えている。
もうブロックは無理だな。どちらにせよ、マッチョマンの攻撃は一度も防げていないのだが。
俺は軽く足をもみほぐしてみたが、気休めみたいなものだ。集中する為、頬をパンパンとたたいた。
再びこちらがサーブを打ち、相手側のレシーブと引き続きセッターがトスを上げ、マッチョマンが宙に浮いた。
ドォンという衝撃音の後、ボールがすさまじい勢いで飛んできた。ブロックする代わりに後ろに下がっていた俺のところに向かって。どうやら俺を狙ってきたらしい。
アンダーハンドパスの構えで、ボールの下に滑り込んで、ベチンという痛みが走ってから、ボールは高く宙に浮いた。
「まじいってぇな」
ぼやきながらボールの動向を目で追う。なんとか外野に拾ってもらえそうだ。
俺はとっさに
「外野! こっちよこせ!」
と声を上げた。
外野は小さく頷き、オーバーハンドでトスを俺に挙げてくる。
再び俺はステップを踏んで、飛び上がってスパイクを打ち込んだ。
心地よい打撃音の後、ボールは一直線に相手のコートに向かい、そして……
一人の選手の顔に直撃した。
「あ……やっべ」
その人物は鼻血を出しながら、地面に崩れた。
その瞬間、マッチョマンの鍛え抜かれた分厚い体躯から、ズシリと響くような咆哮が上がった。
「輝彦ぅ!!」
マッチョマンは叫びながら、ぶっ倒れたというか俺がぶっ飛ばした人物に駆け寄った。
マッチョマンに抱きかかえられた輝彦くんは鼻血を出しながら悶絶し、言葉も出せないようだ。
「これが貴様のやり方かぁ!!」
マッチョマンは逆上した様子で、俺を指さし睨んできた。
えぇ、君が今まで僕らにしてた、というかさっきのあれは何だったの?
そこからは前衛に上がったマッチョマンとバレー部員による猛攻により、あっさり点を取られ、E組はあえなく敗退した。
*
華麗なる敗退劇のおかげで、ドッヂを見に行くという安曇さんとの約束を守ることができそうだ。
俺はそそくさとバレーボールコートを後にし、仮設のドッヂボール会場へと向かった。
ついたときには既にゲームがスタートしており、両サイドの観客から歓声が上がっていた。
うちの高校にはドッヂボール部というものがないから、特定の部員が無双することもないだろうと思っていたのだが、どうやら違うらしい。
主にボールを操っているのは、こんがり小麦色に焼けた女子達。周りの人間の話を聞くにどうやらハンドボール部員らしい。
鬼のような形相で、逃げ惑う可憐な乙女たちに思いっきりボールを当てている。避けきれず顔にあたって、ガチ泣きしている女子もいる。多分俺でもあれが顔にあたったら、涙目ぐらいにはなると思う。
……なるほど、男子のドッヂは怪我人が続出したため、何年か前に中止になったという話を聞いたが、納得した。
女子でさえ、こんなんだから、男子が本気でやったらなおさらやばいだろう。
何分か見ているうちにE組が劣勢であることがわかった。うちのクラスはどの女子もキャーキャー逃げ惑うばかりで、まともに攻撃できているやつがいない。
とうとうE組は残りの一人にまで追い詰められてしまった。
名誉の残党兵を務めるのは……安曇さんである。
どこで鍛えたのか、クルクルすんでのところでボールを交わし続けている。一人になったことでコートを広く逃げ回れて、避けやすいらしい。一回なんか、ブリッジしてボールを避けて敵陣営からも喝采を受けていた。
安曇がクルクル舞うたび、周りから歓声が上がる。
「ひゅ~」
「たまんねえなあ」
……周りから……歓声?
俺は妙な声を上げている男どもをじっと見た。
俺はそこで気づいた。
こいつら、安曇の胸ばっか見てやがる。
安曇が体を揺らすたび、彼女の豊かな胸部が慣性のままに踊っている。それに呼応するように、野郎どもが馬鹿な声を出しているのだ。
一生懸命頑張っている女の子に色情的な目線を向けるなんて、ゲスの極みだな。一旦滅びればいい。だからお前らには彼女が出来ないんだよ。……。
俺は歯ぎしりをしながら、馬鹿な男どもを呪って睨みつつ、安曇の健闘を祈った。
とうとう最後まで安曇にボールは当たらず、試合終了のホイッスルが鳴った。
「終了! F組の勝ち!」
審判の号令の後、両チーム互いに挨拶をして、E組対F組の女子ドッヂボール対決は終了した。
試合が終了し、安曇はタオルを首にかけ汗を拭きながら、スポーツドリンクを口に含んでいた。それから俺に気づいたようで安曇は近づいてきて
「イェイ!」
と左手を腰に当て、右手で横ピースをしてきた。激しく動き回った為か、頬は紅潮し汗が顔をはじめ全身に流れ、体操服もしっとり濡れているように見える。
「イェイってあなた負けてますがな」
負けたのにも関わらずテンション高めの安曇さんを見て、俺は少し呆れながら言った。
「でもちゃんと最後まで残ったよ?」
「知ってる? ドッヂボールって球を避けるって意味だけど、不思議な事に、相手にボールを当てないと勝てないんだよ」
俺が言ったら安曇はむくれた顔をした。
「まず、おつかれとか、頑張ったねとか、労いの言葉はないの?」
「……おつかれ」
安曇さんはそれでも不服らしく、顔をプイと横に向ける。
「ふんっ!」
それから眉を寄せながら
「そういうまるもんはどうなの? 男子バレー勝てた?」
と尋ねてきた。
俺は威勢よくサムズアップする。
「ボロ負けだったぜ!」
「なんだ。負けちゃったか。どことだったの?」
「F組。橘のクラスだな」
「じゃあ今私が戦ってたとこじゃん」
「F組強すぎん?」
安曇は肩をすくめた。
「美幸ちゃんの試合始まるんじゃない? 見に行こうよ。どうせ暇でしょ」
そういって、少し休んだだけなのに駆け出した安曇を追おうと、俺も足を踏み出した。美幸ちゃんの試合って、まあ俺らE組の女子バレーの試合でもあるんだけどね。
だが、
「あっ……」
ふくらはぎに激痛が走った。
………………。
あまりの痛さに声も出ず、その場にうずくまった。
俺が付いてきてないのに気付いたのか、安曇が振り返ってうずくまっている俺を見て、不思議そうな顔をした。
「まるもん、何してるの?」
「……攣った」
息も絶え絶えに言ったら、安曇はあきれたように
「またぁ!?」
と叫んだ。
うるさいちきしょう。俺は頑張ったんでい。
毒づきながら、動けずにしゃがみこんでいると、安曇が近づいてきて
「はい、これ飲んでて」
と蓋を開けたスポーツドリンクを渡してきた。
俺は受け取り、それを口に入れる。
安曇は俺の近くにしゃがんで
「どっちの足?」
と尋ねてくる。
「左だ」
「じゃ、左足伸ばして」
と指示を出してきた。
素直に言われた通り、足を延ばしたら安曇は俺の足を手にもって、もう一方の手で、ふくらはぎを太ももの方へさするようにマッサージし始めた。
「え、ちょ、なにしてんの?」
俺が困惑して、安曇の方を見れば安曇は顔も上げずに真剣な横顔で
「攣ったとき用のマッサージ。サッカー部にいた時に習ったの」
と答えた。
俺は照れくさいのを隠すように
「……去年、テニスコートで攣ったときもやってほしかったなあ」
とぼやくように言った。
「……そん時は、皆いたし、まだ……そんなに仲良くなかったから、できなかった」
安曇はうつむいたままでそういった。
皆いたって、今もというか、むしろ今の方がギャラリー多いですが。
二、三分ほど安曇に足をもみもみされていたのだが
「どう?」
と彼女が顔を上げて尋ねてくる。
「あ、うん。気持ちいい。……少しは良くなった。もう大丈夫」
「ん」
安曇は立ち上がって、膝についた土を払った。
俺もゆっくりと立ち上がる。痙攣は収まったようだ。
「歩けそう?」
「なんとか」
「保健室行く?」
「行っても、変わらんだろ。いいよ、バレーコート行こうぜ」
「分かった」
安曇の心配そうな視線を受けながら、二人でバレーボールコートへと向かった。
バレーコートに行ったら、橘たちF組のチームと、E組のチームがそれぞれアップを始めていた。
ギャラリーも集まっており、俺と安曇はE組の連中が固まっている方へと移動した。
「おい花丸、どこ行ってた!」
外野が俺を見つけ声を掛けてくる。
「……女子のドッヂだよ」
「ああ、負けたらしいな」
「それを言うなら俺らだってボロボロだったろうが」
「ほんとそれな。せっかくお前と二人きりで練習したというのに。お前と二人きりで!!」
そういって熱を帯びたような、気持ち悪い目線を向けてくる。
俺はため息をついた。
そうなのだ。外野との特別レッスン。ここ数日そのおかげで家に帰るのが遅れ、お袋に妙な勘繰られをされる被害にあっていた。
そうなるに至った経緯は……
*
話は練習の初日に戻る。
体育館での練習中、外野に「トスを出すぞ」と言われた俺は、そんな急にやって上手くいくわけがないとは思ったが、授業で習ったことを思い返しながら、よたよたとステップを踏んで、跳ねた。
「よいしょっと」
手で思いっきりバチンとボールを叩いたら、幸運にもボールは向こうのコートに飛んでいった。
結構な勢いだったので、相手は驚いた表情をしながら、手ではじくようにオーバーハンドで受けようとしたが、ボールは後ろの方へと飛んで行ってしまった。
「おお、あたった、あたった」
俺は思いがけず、結構いい球が打てたので、自分でも驚きながら呟いた。
他の連中は茫然としている。はじいてしまった男子が、慌ててボールを取りに走った。他のクラスの連中に拾ってもらって、ぺこぺこしている。
「……おうし、次行こう」
俺がファインプレーをしたというのに、以外にも外野はそっけない反応だった。いつもだったら「うおぉぉぉ!!」とか叫ぶところだったのに。
また先程のように二、三回ボールがコートを行き来してから
「レフト!」
と外野が掛け声を出す。
俺は今度は、先ほどよりも滑らかにステップを踏んで、高く飛んだ。そして、もっと強くミートした。
ボンッという打撃音がして、ボールは向こうのコートに強く叩きつけられ、転々と体育館の奥まで転がっていった。そして相手チームの一人が走って取りに行く。
外野がトスを出す。俺がスパイクを打つ。走って取りに行く。トス、スパイク、走る。そんなのが五、六回続いてから、五限目の開始の予鈴が鳴った。昼休み終了五分前だ。他のクラスも引き上げ始め、俺らE組も移動を始める。
「……花丸」
皆で歩いて教室に戻る中、外野が真面目な顔で俺の肩を叩いた。あまりの俺のすごさに感激でもしたか。
「なんだ? 惚れ直したか?」
とややふざけて返した。
ところが全く想定外のことを言われた。
「……お前、本番までスパイク打つな」
「何故!? いくら何でもぶっつけじゃ無理だぞ」
俺がそう反論したら、外野は若干涙目になり
「お前に自由に打たせてたら、ボール拾いで昼休み終わっちまうんだよ!! 他の奴らの練習にならんだろうが!」
と叫んだ。
「あ……ごめん」
そんな訳で、俺は練習でスパイクを打つのを禁止されてしまったのだ。誠に遺憾である。
スパイクを禁止されたため、その後しばらく若干腐っていたのだが、その日の放課後、もう帰ろうかという時に、野球部の練習着姿の外野に呼び止められた。
「今からやるぞ!」
外野はバレーボールを胸に抱えている。
「……冗談だろ」
「冗談なもんか! 行くぞ!」
俺は外野に引っ張られ、野球部の練習場に言った。
二つ並べられたピッチングネットの前に立たされ、
「じゃあ、トスあげるから、あそこに打てよ」
と指示を出される。
「打てよって、他の連中は?」
「だから言ったろ。お前にスパイク打たせてたら他の奴の練習にならんから、お前の練習は別にやる必要があるんだよ」
「……お前、暇なのか?」
「暇なわけあるかいな。これは俺がお前のために貴重な時間を割いてやる、特別レッスンだ。ありがたく思え!」
「あ、それなら、気使わなくて結構なんで。俺帰ります」
俺が踵を返して帰ろうとしたら
「あ、ま、待てい! お願い! ちょっとでいいから! ちょっとあそこの穴に入れてくれるだけでいいから! それ以外何もしないから!!」
と外野が引き留めにかかる。
「……帰る」
「嘘嘘!! お願いだ! 俺を一人にしないでくれ!!」
そう言って外野は地面に頭をこすりつけた。
……。
うわあ、何だろうこの強烈な既視感。
「……はあ、十五分だけだぞ」
男に土下座させて、無視するのはさすがの俺でも忍びない。
「よっしゃ!」
俺がそう言ったら、外野はこすりつけていた頭をあげ、跳ねあがった。
そんな感じで、俺と外野はクラスマッチまでの数日間、二人で特訓をすることになったのだ。
*
「終わったもんはしゃあない。女子が勝つのを祈ろうぜ」
俺は悔しそうな顔をしている外野にそう言った。
「だな」
ホイッスルが鳴り、E組女子バレーチームとF組女子バレーチームが整列した。
「礼!」
せめて女子のバレーぐらいは勝ってほしいなあと、思っていたのだが、どうやらE組はF組に討ち滅ぼされる運命にあったらしい。
女子のバレーは「うふふ」「おほほ」「行きますわよ」みたいな、天界のお花畑で繰り広げられるような、のんびりしたものだと思っていたが、実際は男子のそれと同じように、強いアタックの応酬だった。……いや、応酬ではないな。一方的な攻撃だな。
やられているのは俺のクラス。
うちのクラスの女子を苦しめたのは……橘さんである。
彼女は長い髪を後頭部でまとめて、いつもとは違い白い項が顕になっている。平時でさえ人目を引くその美貌が、キラリと光る汗がスパイスとなってさらに際立っている。そこに立っているだけで目立つような人間なのに、跳ね回ってファインプレーを決めているから、関係のないクラスの人間まで観戦をしに集まる始末。
彼女はスラリとした肢体を踊らせ球を操り、そしてムチのようにしなる腕が打ち出すスパイクは、俺でも腰を浮かせていたら体を持っていかれるぐらいの威力があった。女子がキャーキャーいいながら逃げ惑っていたのは言うまでもないこと。俺はバレーボールを見に来たはずなのに、ドッヂボールを見ているような気分になった。
何これいじめじゃん。そんな俺たちE組の気持ちなどお構いなく橘は攻撃の手を緩めなかった。
橘は空を舞い、スパイクを放つ。
そして攻撃が決まるたび、F組は沸き立ち、E組はどんどん沈んでいった。
橘は点を取るたび、他の連中とハイタッチをした。皆と仲良くやれているようで結構、結構と俺は彼女のおじいちゃんになった気分で、見守っていた。勝負の結果についてはなんかもう、しょうがないよねって感じで達観した気持ちになっていった。
馬鹿「ふっふっふ。花丸がスパイクを打てたのは、この俺が完璧なトスを上げたということをお忘れなく!!」
妹「……なんか、最近、兄の人たらしの性質が増悪している気がして、不安で仕方ないんですけど」
ヒロインC「げんきくんは平等主義者だからね! 皆と仲良くしてくれるの!」
馬鹿「──そなたたちはどうして私のことを無視するのだ?」
妹「それは、妹としては承服しかねるんですけど」
ヒロインC「げんきくんがみんなとベタベタしてくれたら、皆幸せになれるんだよ?」
妹「若干一名、それだと兄のことを刺殺しかねない人がいるんですけど」
馬鹿「だから、なぜ私のことを無視するぅ?」
妹「あの、さっきからうるさいんですけど。少し静かにしてもらえますか?」
馬鹿「……ところでなんだが、梓氏が花丸に渡したスポーツドリンクは一体どこから取り出したのだろうな」
ヒロインC「……」
妹「…………あ」