大切な気持ち
枕が濡れていくのが自分でもわかった。
目から溢れる大粒の雫が次から次へと染み込んでいく。
もう泣かないと決めていたのに。……旅行中は泣かないと決めていたのに、涙がボロボロと溢れてきた。
鼻水が垂れそうになって鼻を啜る。
ベッドに腰掛けている彼は、身動き一つせずにそこにいた。起きているのは気配で分かる。それで多分私が泣いていることにも気づいている。
駄目だ。こんな顔、彼の前でしたら卑怯なやつだって思われる。
そう思って、顔をそむけながらムクッと起き上がったら、彼は何かを差し出してきた。
泣いて腫れた目を見られないよう、横目で確認したところ、それはポケットティッシュだった。
「……ありがとう。花粉症かな。鼻水止まらなくて……」
私はそう言って、ティッシュを受け取った。
「辛いよな。花粉症」
彼はそう言った。
「……うん」
苦しい言い訳だって言うのは分かっている。
それでも彼は騙されているふりをした。
全ては彼の優しさだ。
その優しさが、残酷なまでの優しさが私をどうしようもなく駄目にした。彼がこんなに優しくなければ、私はこんな辛い思いをせずに済んだだろう。
この胸の苦しみはいつかなくなるのだろうか。若いときのほろ苦い思い出として、懐かしく思い出す日がいつか来るのだろうか? 大人になった三人で再会したとき、子供だったときのように笑える日はやってくるのだろうか?
小さなころぼんやり思い焦がれていた本気の恋というものが、こんなに辛いものだったなんて、想像だにしていなかった。
けれど私はこの思い出を決して離すことはしないのだろう。
紛れもない私の大切な本当の気持ちだから。