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覚悟

 私ともう一人の男の子が、化学実験室の椅子に座っていた。

 私はかじかんだ手にハーと息をかけ、硬い木の椅子の上でもぞもぞと身じろぎした。

 理科室にある椅子は実験中の事故から身を守れるよう、背もたれがないのだが、そのせいかなんだか座り心地が悪い。


 もう一人の男の子は、何やら難しそうな本を読んでいる。タイトルがちらっと見えたけれど、どうやら物理の本を読んでいるらしかった。それも大学で学ぶようなレベルの本らしい。


 彼と一緒に何かをするというわけでもないのだが、やっぱり仲が悪いよりは良いほうがいいに決まってる。でもなんて話しかければいいか分からない。

 あまり女の子慣れしているようにも見えないし。


 ……もう一人来るはずなんだけれど、その子も男の子らしい。だから旅程では私一人だけが女子になってしまう。男子の多い理系クラスの人のほうが当選しやすいから仕方のないことなのかもしれないけど。

 今のうちに打ち解けておかないと随分と心細い旅になってしまうだろう。


 私は深呼吸をして決意を固めた。


「あの! なんの本読んでるの……」


 男の子はピクッと体を動かし、十秒ほど固まっていたけれど


「……非線形多自由度系の振動」

 と小さな声で答えてくれた。

 ……のだけれど、何を言っているのか分からない。あと目は合わせてくれない。


「へ、へぇ。難しそうだね! なんで読んでるの?」


 男の子はまたしばらく黙ってしまったが


「……線形なら1自由度の振動にモデル化できるんだけど、非線形は簡単にモデル化できないんだ。だからその理論をインプットする必要があって……読んでる」


「……あ、ふーん、そうなんだぁ」


 うーん。余計に難しいこと言われちゃったぞ。あとやっぱり目は合わせてくれない。読書中に話しかけたのが気に障ったのかな。


 仲良くしたいだけなんだけどなぁって少し落ち込んだところで

「名前はなんていうんですか?」

 男の子が私に尋ねてきた。


「あ、安曇梓って言います!」

「……ふーん」

 私の名前を聞いても、男の子は特に笑顔を見せるわけでもなく静かなままだった。でも良かった。怒ってるわけじゃないみたい。


 気を取り直して彼の名も聞いてみた。

「えっと……あなたの名前は?」

豊川稲成(とよかわいなり)

「豊川くんだね。よろしく」

「うん」


 よし挨拶はできた。少しツンツンしてるけど、悪い子じゃなさそう。

 この調子でもう一人の子とも仲良くできるといいな。

 

 そんなことを考えているときのことだった。


 実験室の戸がガラッと開けられ人が入ってきた。


 私は入ってきた人の顔を見て、ドキリと心臓が跳ねるのを感じた。


 私は胸がトクトクなるのを堪えながら、声が上ずらないように注意して


「あ、まるもん。どうしたの?」

 と彼に尋ねた。

 

 彼が実験室に何の用だろうか。部活か委員会のことで連絡でもあるのだろうか。

 そんな予想を立てながら、彼の口が動くのを待った。


「……俺も説明受けに来たんだが」


「……え」


 私は一瞬フリーズしてから、視線を下に落とし、ギュッとスカートの裾を掴んだ。


 彼の言った言葉を解するのに数秒とかからなかったはずだが、その数秒が妙に長く感じられた。


「……まるもんも行くってこと?」

「うん、まあ」


 ……そっか。そうなんだ。


 彼もしたんだ。覚悟を決めたんだ。


 ならば私が言うべきことは決まってる。私がするべき表情は決まってる。


 私はにっこりと微笑んで、彼に言った。


「合格おめでとう!」


妹「え? え? どういうこと!?」

作者「まあまあ」

妹「なんか最近急展開多くないですか? こないだのタイムカプセルのやつとか」

作者「一応、タイムカプセルの話は初出が二章のパンケーキ屋さんのところなんだけどね。ちょろっとだけど」

妹「……多分誰もそんなの覚えてないよ」


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