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夏合宿前編

「という訳で島に行きます」

「え、何が?」


 橘に呼び出されて、モールでの買い物に付き合い、カフェで一息ついていたところ、なんの前触れもなく高らかに彼女は宣言した。


「だからこの夏の間にやりたいこと全部やっておきたいの」

「そうだよな。高二の夏は一度きりだもんな」

「ええそうでしょう。だから泊りがけで南の島に一週間行くわよ」

 ……。軽い調子で合わせてみたものの、やはり何を言っているのかよくわからない。


「いやいや待て。なぜ島なのだ」

 俺が尋ねてみれば、橘は理由を矢継ぎ早に並べ立てた。

「だってまだ海にも行ってないし、砂浜で遊んでもいないし、スイカ割りもしていないし、海に沈む夕日も夏の満天の星空も見ていないわ」


「それ全部浜辺のイベントだけど、島に行く必然性なくない? それに一週間も遊ぶのは流石に不味くないか」

「今年のテーマは絆よ。島という一見開かれたようで閉じられている特殊な空間で行うことに大きな意味があるの。それにちゃんと勉強する時間も取るわよ」

「……いやちょっと何を言ってんのかわかんないけど」

 大体、絆って十年くらい前の「今年の漢字」だったよね。


「……花丸くん、行きたくないの?」

 そう言って橘はうるうるとした上目遣いで俺のことを見てきた。

「いや、だって泊りがけってハードル高くない?」

 それも一週間とは。

 まず親になんて説明しようか。部活の合宿というのは苦しすぎる。


「ねえ、いいでしょう?」

 橘は長い睫毛をパチパチさせ、キラキラした瞳で俺を見つめてきた。

「うっ、やめろその目は」


「ねえ、お願い。記念すべき十回目のデートよ。思い出に残ることがしたいわ」

 なに、十回目だと。もうそんなにデートしたのか。途中から数えるのを辞めていたぜ。

 しかしながら、こんな可愛い顔でこんな可愛いことを言われてしまえば、抗い難いものがある。やっこさんもこれは、おつきあいにOKを出す前提で話をしている。記念というのなら仕方ない。


「……分かったよ。行くよ」

 俺がそういった途端、橘はすっと真顔に戻って言った。


「よし。じゃあ、安曇さんたちに伝えておくわね」

 ……。

 

「あ……俺とお前の二人きりじゃないんだ」

「何言っているの? 当たり前でしょう。真夏の夜に若い男女が二人きりでなんていたら、間違いが起こるに決まってるじゃない」

「なんだよ間違いって」


「間違いは間違いよ」

 橘はきっぱりと言った。


 安曇たちも一緒か。果たしてそれがデートと呼べるかは疑問だが、まあみんなでワイワイ楽しければ、それはそれでいいのかもしれない。……ん?

 さっき橘なんて言った?


「……安曇たちってなんだよ。他に誰が来るんだよ?」


「それは、持ち主抜きで楽しむわけには行かないじゃない」


 はて、この子は何を言ってらっしゃる。


   *



「こちら山岳部の皆さんよ」


 俺は結局、合宿の全日程と参加人員を把握しないまま、当日を迎え、橘と安曇と名駅で合流してから、黒光りするミニバンに乗せられ、港まで引っ張っていかれ、着いたところでどうもはじめましての人たちと対面することになった。

 山岳部の皆さんとは? 

 寝耳に水どころか、鉄砲水を食らった気分である。


 それもここに来るまでが驚きの連続で、親になんと切り出せばいいのやらと悩んでいたところ、すでに手回しはされていて、

 穂波が

「お兄ちゃん、みんなと南の島に合宿行くんだって? お母さんから聞いたよ。いいなー」

 と何故か母親にすら話していないはずの内容をすでに知っており、慌ててお袋に確認したところ

「昼頃に身なりのいいお嬢さんが、なんかただならぬ車で家の前に乗り付けて、『ご子息の面倒はこちらでしっかり見させていただきます』って、お嬢さんと一緒にいたシークレットサービスみたいな人に言われたから、どうか息子をよろしくおねがいしますって、びっくりして反射的に言っちゃったけど、高校の学生手帳見せてもらったし、保護者がいるならいいかなって思ったんだけど。あんたほっといたら家で勉強ばっかしてそうだし。

 あんたのお友達よね、その子。なんて名前だったかしら。きれいな名前だったのは覚えているのだけれど。連絡先をもらったのよ。どこやったかな」

 とガサゴソ棚を探り始める。


 誰だろう。話から察するに多分橘だとは思うが、俺のいない隙にあの子何してるんだろう、と首をひねっていた次第である。


「部長の綿貫さやかです」

 橘から紹介され、まず四人いるうちの山岳部員の一人の女子がそう言ってペコリと頭を下げた。


 俺はその苗字にピクリと反応して

「綿貫? 綿貫って……」

「はい、萌菜先輩は私の親戚です」

 親戚なのか。似てるからてっきり姉妹かと。彼女が萌菜先輩の名を口にしたとき、他の三人の表情が若干強張ったように見えた。……なるほど萌菜先輩には彼らも()()になったらしい。俺もだからよく分かる。本当、あの人って人は。


 綿貫嬢は続けて

「先日花丸さんのお宅にお伺いしたのですが、いらっしゃらなかったようでしたので、失礼とは存じましたが、そのままお母様に合宿のご挨拶させていただきました。事前に連絡差し上げたかったのですが、何分ご連絡先がわからなかったもので。ご無礼を働き申し訳ございません」

 と至極丁寧な口調で詫びられた。


「あ、この前来た高級車の子って君だったんだ」

 てっきり橘かと思っていたが、違ったらしい。

 それにしてもたかが合宿で家まで挨拶に来るとは、たいそう厳格な家である。


 俺が感心していたら

「いいのよ、さやかさん。気にしなくて。私があなたに花丸くんの連絡先を教えて置かなかったのがいけなかったのだから」

「いえいえ。私の方から確認すべきことでした」

 

 ……臭うな。いくらなんでも、橘がそんな間抜けなことをするだろうか。住所を教えておいて電話番号を教えないなんて。順序が逆である。


 俺はこっそり橘を肘でつついて

「おい、お前わざと教えなかったんじゃないか」

 とコソコソ聞いてみれば

「嫌だわ。そんなしょうもないことするわけないじゃない。あなたがさやかさんの連絡先を知って私が嫌な気分になるわけでもあるまいし。あなたがいないときを狙って、彼女に家に行かせたところで何になるというの? 彼女が私に確認を取ろうとしたときに私のスマホの電源が落ちていたのもなにかの偶然に違いないわ」

 ……。


「ごめん。こいつめんどくさいやつで」

 と俺がさやか嬢に言えば

「いいえ。みゆきさんが心配性なのは昔から知っていることですから」

 とニッコリした顔で答えてきた。

「ちょっとさやかさん、何を言っているのかよくわからないけれど。大体花丸くんは──」

 橘が真顔でなにかブツブツ言っているが、放っておこう。

 

 続けて自己紹介をしたのは、すらっとした背格好の男子だった。


「深山太郎です。……よろしく」

 ぶっきらぼうにそう言い、ぶっきらぼうに頭を下げた。愛想のない男である。

 こいつは知らんな。まるでクラスの隅っこで、縮こまって一人で本を読んでそうなタイプだな。まるで俺。


「僕は久しぶりって言ったほうがいいかな?」

 続けてもう一人の男子が紹介する。

 

 ……ふむ。


「あんた誰?」


 俺がその男に言ったところ深山太郎が

「おい、雄清、お前覚えられてないぞ」

 とその男をいじる。

「……あはは、は。太郎並みに記憶力の悪い人初めて見たよ」


「おい。俺は記憶力は悪くない。むしろめちゃくちゃいい。人の名前も覚えようとすれば覚えられる。ただ覚えようとしないだけだ」

「うん、なお悪い」


 その二人のやり取りを見て安曇がこそこそと俺に言った。

「ねえ、なんかまるモンに似てる」

「おいおい、俺をあんな捻くれものと一緒にすんなよ」

 全く安曇さんは冗談がきつい。 


 それに深山が口を挟んで言う。

「そうだ嬢ちゃん。俺のひねくれ具合はそんじょそこらのやつに到底追いつけるほどのものでない。捻りすぎて逆に真っ直ぐになるくらい俺はひねくれている」


「……やっぱ似てる」

 だから似てないよ?


 俺は先程の男子の方を向いた。

「悪い山本。冗談だ」

「もう嫌だなあ。変な冗談はよしてくれよ。一瞬本気で焦ったんだけど」


「さすがに執行委員長様の名前と顔くらい覚えているよ。色々世話になったし。でも今回の件全く聞かされてなかったから、いたずらしてやろうと思ってな」

 まったく俺お前の仲であるというのに、連絡すらよこしてこないのは流石にひどくないだろうか。


 そしたら山本は弁明するように言う。

「橘さんに言うなって釘刺されてたんだよ」


「あ、そうなの? うちの部長が毎度ご迷惑を」

 俺が部長に変わって謝罪したら、橘に睨まれた。

「ちょっと、花丸くん。別に私悪いことしてないじゃない」

 俺に悪いことしてるよね?

 

 山本は橘の憤慨などお構いなしに続ける。

「今回は蒲郡さんは来なかったんだね。花丸くんと仲よさげに見えたから」


 山本がそんな事を言った瞬間、局所的に温度が下がったのを感じた。

「ちょっと雄くん」

 と隣にいたちっこめの女子に小突かれてる。彼女には見覚えがある。山本の彼女だ。


 そしてもうひとりひんやりとした空気を放った人間がいた。

 そして俺の脇腹に鈍い痛みが走っている。


「ねえ橘さん。気づいてないかもしれないけど、俺の脇腹つねってるから」

「あら、ごめんなさい。気づかなかったわ」

 橘はすぐに手を離した。

「分かってくれればそれでいいんだ」

「あなたって優しいのね、花丸くん」


 ……。


「冗談よ。別に本当に怒ったわけじゃないわ」

「分かってる。お前が怒ったら逆に何もしてこないし」

 それにあんまり痛くなかったし。


 それにしても蒲郡よ。これだけ二年の女子を敵に回しても、のうのうと高校生活をエンジョイできてるお前の胆力が羨ましいんだが。


「あ、いいですか」

 山本の彼女が気まずそうに咳払いをしながらこちらを見てきた。


「ごめん。続けて」


「佐藤留奈です。よろしくお願いします」


 留奈ちゃんに続き、俺たち放送部も各々挨拶をした。


 最後に今回の合宿の保護者で、綿貫家の執事でもある黒岩さんという男性から紹介を受けた。

 渋い感じの初老のイケオジで、お袋が会ったというスーツの男性はこの人なのだろう。今日はスーツではなく、動きやすそうなラフな格好をしていたが、襟元から覗く太い首筋と、ラグビーボールが入っているかのような、発達したふくらはぎから察するに、相当な実力者であることが察せられる。その上この人の運転する()()()で島まで行くというのだから、自然、どのような人生を生きてきたのか背景が気になる。もしかしたら元レンジャー隊とかそんな感じかもしれない。 

 お目付け役としてそんな人が同行するのだから、おいたはできそうにない。逆に子供の遊びに突き合わせて申し訳ないまであるが、綿貫家のご令嬢然り、橘然り、お嬢様の安全を確保するにはそれでも大げさということはないのかもしれない。


 挨拶を済ませた俺たちは港に停泊していた飛行艇に乗り込んだ。飛行艇は十人程乗れそうな機体で、プロペラが両翼についている。機体が水に着いており、水面を滑走路代わりにして飛び立つのだ。博物館に飾ってありそうな風貌。

 俺は飛行艇というものは乗ったことはもちろん、見たのも今日が初めてだった。


 波止場から翼に跳び移る感じで乗るらしい。

 安曇も初めてのようで、はしゃぎながら乗り込んでいたのだが、橘含め他の奴らは別に珍しいものでもなさそうな顔で乗り込んでいた。こいつら本当に高校生だろうか。


「で、この飛行艇はどこに向かうんだ?」

 乗り込んでシートベルトを締めたところで、隣の橘に尋ねた。

「綿貫家が保有している島よ。火山島の周りに裾礁ができているところなの。すごく景色がきれいなのよ」

 個人で島を保有している時点で十分驚きに値するが、橘の言った裾礁という言葉に俺は耳を疑った。


「裾礁だって?!」

「ええ。島の周りにサンゴ礁が発達してるの。テレビとかで見たことあるでしょう」


「それ、熱帯とかの話だろ? 一体どこ向かってんだ?」

「だから、南の島に行くって言ったじゃない」

 南ってそんな南なのかよ。せいぜい伊勢志摩に行くくらいだと思ってた。


 橘の隣に座っている安曇が、にゅっと首を出して俺の方に向かって

「まるもん、どこ行くか聞いてなかったの? 南西諸島だよ! 南西諸島。沖縄の仲間だよ! 私沖縄のほう行くの初めてなんだあ」

 安曇さん嬉しそうに言ってるけど、多分今から行くところ、沖縄なんかよりずっとレアなところだと思うよ。


 結構揺れたりうるさかったりするのだろうかと思っていたが、存外機内は快適だった。

 一度鹿児島での休憩を挟み、総計三時間で目的の島に到着した。


 水色に浮かぶ白い砂浜と濃い緑。典型的な南国の島といった感じだが、いざ眼前にすると感嘆のため、息が自然と(こぼ)れてくる。


「ほら花丸くん。突っ立ってないで早く行くわよ」

 島の美しさに見とれていたところ、橘にせっつかれた。


 一行は波止場から歩いて、ビーチに面したモダンな建物へと向かった。それ以外の建物は見当たらず、にわかに信じがたかったのだが島一帯が綿貫家のテリトリーであるということは本当のことらしい。


 別荘に入り、男子と女子に別れて部屋に入った。


 山本とはそれなりに仲良くやっているが、深山太郎という男と話をするのは初めてである。一週間ともに生活する相手だ。だんまりでいるのも気まずいと思って、適当な話題を探した。


「山本が文系なのは知っているが、深山はどっちなんだ?」

 俺がそう尋ねたら、

「理系だが」

 と深山は答えた。この男はもう少し愛想というものを勉強したほうがいいと思う。


「そうか。俺も理系だ。俺は物理選択だが、お前はどっちなんだ」

「生選だ」


「そうか。社会はどうだ。俺は地理選択だが」

「日本史だ」


 ……。こいつは会話をする気がないのだろうか。


 いや、初めてならこんなものか。しばらく経てばそのうち仲良くなるだろう。そう思って俺はあまり気にしないようにした。



 綺麗な海と砂浜を前に、若盛の高校生たちが大人しくしていられるはずはなく、皆水着に着替えて遊んだり、浜辺でバーベキューをしたりしたが、勉強時間もしっかり確保されていた。それも決して申し訳程度ではなかった。

 オンオフがカッチリ決められていたので、各々家にいるとき以上に集中して勉強できたのではないだろうか。


 それはそれとして、どうにも俺は深山太郎という男とは相性が悪いらしい。

 勉強はそれぞれの部屋に分かれてするのが中心だったが、途中リビングに集まって分からないところを教えあったときのことだ。


「おい深山。その問題は普通に長さ出してやったほうがいいだろ。なんでガウス平面に置き換えるんだ」

 ホワイトボードにこねくり回した数式を書いている深山に文句を言った。


「何言ってんだ。こっちのほうがスマートだろ」

「お前は馬鹿か。安曇はともかく、他のやつは文系なんだから、そんなやり方で説明されて分かるわけ無いだろ」

「とか言って自分が分かってないだけなんだろ。これだから地理選択は」

「地理は関係ないだろ! お前、女子の前だからってわざと小難しいこと言って、格好つけてんじゃねえよ」

「あんだと? いつも女子を二人引き連れて歩いてるお前が何を言うか」

「あぁ? 俺が女子を引き連れて歩いているだと? お前の目は節穴か。俺が女子に引き摺り回されてんだよ。ばか」

「あ? バカはどっちだバカ」


 深山は不遜な態度で俺に噛み付いてくる。

 とにかく俺のことが嫌いらしい。奇遇だな。俺もお前が嫌いだよ。


「ちょっと花丸くん。どうして仲良くできないの? せっかくの合宿なのに」

 橘は俺を諌めるように言った。

「だって深山が」

「言い訳しないの」

「……」

 橘に叱られている俺を見て、深山が「ざまあみろ」とでも言いたげな顔をしている。本当にむかつく野郎だ。


 俺が憤慨していたところ、さやかちゃんが

「深山さん。みんなと仲良くしなきゃ駄目ですよ」

 と深山を窘めた。

「だって花丸が」

「だってじゃありません」

「……」

 さやかちゃんに怒られて拗ねてやがる。ざまあみろ!!



 その後ビーチでバレーをしたり、島を散策したり、肝試しをしたりしたが、やはり何度も深山とは衝突した。


 海で遊んだ後、着替えて廊下を歩いていたところ、誤ってペットボトルを落としてしまった。すぐに拾ったところで

「そこにいるの誰?」

 と声をかけられた。安曇の声だ。女子の部屋の扉が開いており、その中から聞こえてきている。


「安曇か。俺だ」

「ああ、まるもんか。ちょうど良かった。ちょっと来てくれない」

「え、中にか。女子の部屋入るの不味くないか」

「大丈夫。他の子、外でバーベキューの準備してるから」


 俺はそう言われたものの、他のやつに見られやしないかとビクビクしながら中に入った。


「えぇ、何してんの」

 中では安曇が背中に手を伸ばして、ワンピースのチャックを占めようと悪戦苦闘していた。


「ごめん。昨日のビーチバレーで肩回らなくなっちゃって。……閉めるの手伝ってくれない?」

「女子に頼めよ。そんなの」

「だから。みんな行っちゃったし」

「スマホは……使えないんだった」

 本島から離れており、連絡手段は海底ケーブルで引かれた固定電話だけなのだ。


「さすがにこのまま出てって、男の子に見られるのやだから。直してよ」

「俺も男なんだが」

「まるもんはいいの」

 つまり俺は男じゃないという。


 俺は渋々安曇のワンピースのチャックを上げてやった。これだけ間近に妹以外の女子の素肌を間近に見るのは初めてだ。妙に緊張して手汗がやばい。何がやばいかってこんなところを橘に見られたら、この長閑(のどか)な南国の島が須臾にして「南西諸島殺人事件」の舞台に早変わりしてしまうこと。橘を犯罪者にしてしまう事態は絶対に避けなければならない。


「できたぞ」

「うん。ありがとう」

 でも安曇さんはもうちょっと危機意識というものを持ったほうがいいな。世の中俺みたいないいやつばかりじゃないんだから。


 そんな説教は飲み込んで

「女子同士は仲良くしてるか」

 と女子たちの様子を尋ねた。


「うん。二人ともいい子だよ。男子たちも仲良くやってるみたいじゃん」

「お前はあれのどこを見て仲良くしてると?」


 安曇は不思議そうな顔をする。

「深山くんとのこと? 普通に仲いいでしょ。本当に相性悪かったら、口すら聞かないと思うけど」


 そうだろうか。俺はあいつのことを思い出すだけで腹が立ってくる。

「くそ。なんであいつはああも鼻につくことをするんだ」

 と俺がこぼしたら

「多分同族嫌悪だと思うよ」

 と安曇に言われた。


「あいつと似ているなんて、末代までの恥だぞ。忌々しい」

「まるもんがそう思ってんなら、向こうも同じこと思ってると思う」

「……」



 その後、安曇と二人でビーチまで出て行ったのだが、深山と目があったので確認しておいた。


「なあ、深山。お前って俺の同族?」

「は? 何気持ち悪いこと言ってんのお前?」


 ……。


 やっぱり友達にはなれそうにない。


 

ヒロインA「少し気づいたことがあるのだけれど。なんだか後半になるにつれて登場人物にどんどん雑な名前つけるようになったわね。前に出てきた子も……なんて言ったかしら、確かラグーナなんたらみたいな感じだったと思うのだけれど」

自称世界一の後輩「蒲郡です! いい加減覚えてください。あとラグーナはいらないですし!」

ヒロインA「ああ、確かそんな名前だったわね」

自称世界一の後輩「だいたい今はラグーナ蒲郡なんて言いませんよ。ラグーナテンボスっていうんです。平成の女子高生は知らないのかもしれませんが」


主人公「お前も平成生まれだろ」

自称世界一の後輩「そうじゃないですよ、先輩。私は令和入学なので、令和の女子高生なんです。平成のおばさんとは違うんです」


ヒロインA「ねえ花丸くん。小生意気な小娘にへそで沸かした煮え湯で溶いた爪の垢を飲ませてやりたいから持ってきてくれる?」

主人公「そんなおぞましいものは知らない。知ってても持ってこないし」


自称世界一の後輩「つまり先輩は橘先輩より私のほうが大切ってことですよね!」

主人公「いやちがうよ? 違うからね、橘さん。ねえ、だから無言の笑顔でこっち見るのやめて。怖いから」


自称世界一の後輩「橘先輩知らないんですか? 男子が女子に求める理想像っていうのは、いつも愛想が良くて、『俺』を立ててくれる、献身的な女の子なんですよ? 橘先輩はその点まるでできてないので、女子失格ですね。そうやって恐怖で押さえつけているようじゃ、そのうち相手されなくなりますよ?」


主人公「あ、いや、橘。俺は別にお前のそういうところ気にしてないぞ。むしろそこがいいまである」


ヒロインA「……ねえ花丸くん。人気のない大きな古い館と、司法解剖で引っかからない毒薬を持ってきてくれる?」

主人公「いや! そんなの持ってるわけ無いだろ! というか、持ってたとしても絶対渡さない!」

ヒロインA「田舎の屋敷で起こってしまった第一の殺人。被害者のダイイングメッセージにはHMという頭文字。一体犯人は誰なのか。次回『被疑者死亡のまま書類送検』お楽しみに!」

主人公「俺、濡衣着せられた上に真犯人に殺されてるし! 第二の殺人起こっちゃってる上に迷宮入りまっしぐらじゃねえか!」


ヒロインA「ふっ、面白い推理だ。君は小説家にでもなったほうが良さそうだな」

主人公「それ完全に殺ってる奴のセリフだよ」

ヒロインA「俺が犯人だと言うなら証拠を出せよ! 証拠を!」

主人公「完全にフラグ立ててるじゃねえか」

ヒロインA「続く」

主人公「続きません」


自称世界一の後輩「隙あらばイチャコラするのやめてもらえますか?」


「「してない」」

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