雫の音色
五章始まります
しとしとと雫が落ちる音がする。
巻き上がる塵埃はその水滴に包まれ、どこかへと流れてゆく。
平年より少しだけ早いと言っていたが、梅雨がもう始まったのだろうか。
灰白色の空が見渡す限り続いていた。小さい頃はあの雲の向こうが青い空で満ち満ちていると言われても、納得できなかったな。ふとそんな事を思い出した。
場違いな思念に頭を振り、私は直面している相手の方に向き直った。
色々な問題を後回しにして、決して認めるべきではなかった現状に満足して、ぬるま湯につかって、人の優しさに甘えて、わがままな女の子であり続けた私に、何かを決める権利なんてないんだ。それは私の犯した罪であり、当然私はその罰を受けなければならない。
……いやそれを罰というには、あまりに私は汚れ過ぎたのかもしれない。そんな資格さえ私にはない。それをそう断ずるなんて烏滸がましい。
彼女と相対した私の脳内は、そんな思考でぐるぐると満たされていた。
彼女は深く頭を下げた。そして彼女のたった一つの些細な願いを、口からこぼしたのだ。
彼女が紡いだ言葉に、私は一瞬どんな表情をすればいいか、分からなかった。
……本当に不器用な子なんだと思った。自分の正義を決して裏切ることなんてできない。どこまでも正直で、嘘なんてつけない。彼女が選ぶのはいつも最善の道ではなく、正しい道だ。例えそれで誰かを傷つけるとしても、自分を傷つけるとしても。
でも私は、そんな彼女を愛してしまったのだ。
だから私は微笑んだ。
「駄目なんて言えないよ」
顔に張り付いた愛想笑い。私はいつから自分の気持ちを隠すために、こういう風に笑うようになったのだろうか。本当は泣きたくてたまらないのに、それを隠すために笑うようになったのだろうか。
怒ることなんてできなかった。私にはそんな権利ないから。
それに私は、何よりも彼女のことが好きだったから。