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黒百合と月見草 〜ツンデレからデレを引いたような女〜  作者: 逸真芙蘭
閑話と言うより甘話な幕間劇 其の参
100/146

正義の味方

 翌朝、昇降口でスリッパに履き替えていたところ

「やあ、彼女はどうだい?」

 後ろから声をかけてくる男がいた。

 声で誰か分かったが、その顔を確認するように、俺は振り返って応対した。

「……自分で追い払っといて、その心配をするとは、全く優しい先輩だな」

「ははは、君は意地悪を言うなぁ」

 そこに立っていたのは蒲郡を放送部に押し付けた張本人。山本執行委員長だ。


「……お前、あいつのことどう思う?」

 俺は何とはなしに、彼に尋ねた。山本はどこまで睨んで、彼女を俺たちのところに連れてきたのか、そればかりは考えてもわからないことだった。


「仕事はできる。そしてまあ、男子には好かれるだろうねぇ。でもそういう女子にしては、女子にも嫌われにくいタイプだと思うよ」

「なんでだ?」

 山本のその言葉に疑問を投げた。

 山本は片眉を釣り上げて

「人の懐に入るのがうまいんだ。誰に対しても同じ態度を取るわけじゃない。よく相手を観察して、適切なアプローチでその人のことを虜にしてしまう。ちょっと抜けたところを見せるのも、その手の内だよ」

 と答えた。


「……お前、そこまで分かってたのか」

 山本がそのような深いところまで洞察していたとは、流石に思わなかった。

「僕もなかなか冷めてるからね。完璧に見える円があれば、どこか歪んだところがないか探しちゃう性分なのさ」

 なんというか、あれだな。ひねくれ者の悲しき(さが)かな。


「……客観的意見はよく分かった。それであえて聞く。お前は、あいつのことどう思う」

 山本は俺の質問に、顔をじっと見つめるような仕草を見せたが「やっぱり君も何か感じたんだね」と呟き

「とらえどころが無い子……かな。ぶっちゃけて言うと、何考えているのか分かんない」

 と肩をすくめながら答えてくれた。

「何を考えているか分からん、か」


 山本は続ける。

「うん。彼女の行動理念とでも言うものかな。どうしてそうするのか。なんでそんなことを言うのか。そうまでしてどうして人の心をつかもうとするのか。別にすべての人がそういうものを持ってるわけじゃないけど、ああいうことをする人なら、大抵の人は持ち合わせていると思うんだ。表面は笑っているかもしれない。けれど中身までそうかと問われたら僕はその問いに肯定的に答えることは多分できないだろう」

「……あいつは、フリをしてるだけでしかもそれに目的意識を感じられないということか?」

 俺は聞き返した。

 彼が放った次の言葉には、さすがの俺も複雑な気持ちになった。


「あるいは感情が欠けているって言ったら、僕の感じた彼女に対する人物評はおよそ言い表せると思う」



  *



 山本が別れ際に、付け足したように言った「でも根はいい子だと思う。彼女が問題を抱えているのなら、助けてやってくれないかな?」という言葉が、ゆらゆらと俺の頭の中で踊っていた。


 誰しもが蒲郡茉織は非の打ち所がない人間だという。彼女を前にほとんどの男子はため息をつき、女子でさえもその天真爛漫(てんしんらんまん)な性格に惚れ込むという。

 しかしその完璧さをして、橘に気持ち悪いと言わせた。

 山本はとらえどころが無いといった。

 そして俺は違和感を感じた。

 

 彼女を突き動かしているものは一体何なのか?

 もちろんそれが前向きなものであるならば、俺は知ったところでどうこうする気はないし、そもそも知ろうとする気すら起きないだろう。

 だが何かあると感じたからこそ、橘も山本も引っかかりを覚え、俺も妙な感覚を覚えたのだ。


 いらぬお節介と言われるかもしれない。だがもし彼女の心の中にあるものが、俺の想像した通りのものであるならば、放っておくのは少なからず関わりを持った身としては、心苦しい。

 だから俺は彼女と腹を割って話をすることに決めた。


 学校近くのカフェ。

 ここでこうして誰かと話すのは初めてではない。大抵の場合、午後のお茶会といった気安い雰囲気ではなく、今回もおそらく楽しくお喋りをしましょう、ということにはならないだろうことを思うと、俺の気持ちも意気揚々というわけには行かなかった。

 席につき、早速俺は蒲郡に話を振った。眼前の彼女はにこやかな表情である。


「……昨日、お前と話してた三年の先輩、誰なんだ?」

 俺がそう言ったら蒲郡は身を乗り出してきた。

「そうなんです! 私も先輩にそのことを相談しようと思っていたんですよ。なんか、結構しつこく口説かれちゃっててぇ──」

 そんな彼女を制するように俺は言葉を継いだ。


「そういうの、もうやめないか?」


 蒲郡は一瞬ハッとした視線を見せた。

 だがすぐに笑みを浮かべて

「もしかして先輩、嫉妬してくれてますぅ? 俺以外の男と喋るな、的な?」

 と茶化すように言った。


 俺はそれには取り合わず落ち着いた声で答える。

「だから、そういうのをやめろって言ってるんだよ」


 なおも彼女は笑いかけてくる。

「えー、先輩、そんな怖い顔しないでくださいよ」


 俺は息を吐いて、覚悟を決めた。

 心地よいだけの関係に終止符を打つ覚悟だ。


「お前本当は男なんて大嫌いなんだろ」


「……なんの話ですか?」

 俺の突きつけた言葉に、蒲郡は張り付いたような笑みで答えた。俺と彼女の周りだけ水を打ったように静かになり、周りの客の声がわんわんと聞こえてくる。


「だから、お前が男なんて大嫌いなのに、男に媚びて、それでそいつらの周りの人間関係をぐちゃぐちゃにするの、もうやめろって言ってんだよ」



 張り付いた笑み。彼女の心を覆う鉄の仮面。とうとうそれまでもが砕けて、破片が一枚一枚剥がれ落ちていった。

 


「……先輩にだけは分からないと思ったのになあ」

 今まで振りまいてきた、甘ったるい声は、すっかり冷たく沈んだ声になっていた。

 


 彼女が言ったように、俺だけだったら真相なんてわからなかったと思う。違和感をただの違和感として捨ておいたままにしただろう。

 彼女があと五年そういう生き方をしていたら、真相なんてわからなかったと思う。完璧さの脆さに彼女が気づき、人工的な人間らしさをどこかで体得していただろう。


 俺が気づけたのはほとんど奇跡だった。


「山本や橘も少なからず違和感を感じていた。山本はお前に感情が無いんじゃないかって言ってたけど、そうじゃなかった。全く逆だったって話。お前は男が憎くて憎くて仕方ないんだ。違うか?」

 蒲郡は反応しなかった。かぶりを振ることも、首肯することも。

 それこそ彼女の核心だったからだろう。


「……これは全く俺の予想なんだが、お前昔、男にひどいことされたんじゃないか?」

 光を失った瞳で蒲郡は俺を捉えていた。

「……そうですよ。詳しくは話したくないので言いませんが、多分先輩が想像してるのと近しいことを、以前私は大人の男の人にされました。だから私は今でも男の人が苦手です。というか大嫌いです」


「だったらなんでわざわざ自分から男に近づこうとする?」


「強くあるためですよ」

「は?」


「だから強くあるためです。

 私の尊厳を、気持ちを、日常を、人生をめちゃめちゃにした存在が憎い。それが獣の本性を隠していると知らず、楽しそうにじゃれ合っている女子たちの愚かさに反吐が出る。

 この世界の半分を形作っている存在がどうしようもなく下劣で救い難い存在だというのに、周りの人間が平気でいるのが理解できない。気持ち悪い。

 ただ、女に生まれたからっていうだけで、世界の半分に怯え続けなければいけない。

 そんなのは間違っている。

 ただ女というだけで搾取される存在にだけはなりたくない。

 だから私は、……私は強くならなくちゃいけないんです。

 はじめは怖くて、男の人とちょっと話すだけで、気分が悪くなりました。少し近づかれるだけで、息が苦しくなりました。

 でもだんだん腹が立ってきたんです。なんで私が、こんな苦しまなきゃいけないの? って。

 だから嫌でも、気持ち悪くても、吐き気がしても、我慢して我慢して、憎い一心で恐怖を克服したんです。そして私は復讐することにしたんです。私を苦しめた、男という存在に」

 俺は彼女の言葉を黙って聞いていた。

 それが彼女を突き動かしていたものの正体だった。

 

 俺は言葉を選んで答えた。

「……お前はひどいことされて傷ついたのかもしれない。だけど他の人がうまく行ってるのまで邪魔する理由にはならんだろ」

「だから言ったでしょう。男なんて所詮はみんな下衆です。ほとんどの女の子たちはその事実に気付いていない。私は彼女たちにそれを教えてあげようとしているだけですよ。現に私が原因で別れたカップルは、そもそも私の誘惑なんかに乗る、馬鹿な男のせいじゃないですか? 本当に彼女が大事ならそんなことにはならないんですよ」


「お前がちょっかいをかけなければ、今も続いていた関係かもしれない。たとえ、男がお前の誘惑に絆されなかったとしても、お前の影がちらつけば彼女だって不安がるだろ。二人の関係を大きなハサミで断ち切っておいて、自分は正しいことをしたって本当に思えるのか?」

「じゃあ先輩。逆に聞きますけど、彼女がほしい男子で全く下心がない人がいると本気でお思いですか?」

 

「……下心ってなんだよ」

 

「先輩、頭いいんだから分かるでしょう? それとも私の口から言わせたいんですか? もしそうならそれが答えですけど」

 蒲郡は嗜虐的に口元を歪ませた。


「……お前は、男子が女子を助平な目で見てるって言いたいんだな」

「……まあ、要はそういうことです」


「じゃあ今度は俺が聞くが、……それの何が悪いんだ?」

「は? 先輩アホですか?」

 蒲郡は眉を釣り上げた。


「アホちゃうわ。お前な。男子がスケベなんて有史以前からそうだったんだぞ。というかだからこそ人類は今もこうして繁栄してるんだろが。何か? お前は、スケベなことが悪いこととでも思っているのか?」

 俺の言葉に彼女は声を荒げる。

「悪いに決まっているでしょう!! 男どもの私を見る目つき。あの汚らしい視線。きっと頭の中で私にいやらしいことをしているんです! 気持ち悪いに決まってるじゃないですか!」


「じゃあ、お前は自分の存在を否定するのか? お前自身が、お前のカーチャンとトーチャンがそういうことをしてだな……」

「うるさい! 先輩! うるさいです! そんなのは聞きたくもない!」


「……お前自身、子供がほしいとかは思わんのか?」

「いいです。もし欲しくなったら、精子バンクから女の子になる精子をもらいますから」

「それ倫理的にアウトだからな」

「倫理でご飯は食べれません」


 会話はそこで一旦途切れた。

 

 俺は深く椅子に座り直した。

 一口飲み物を口に含み、カラカラになっていた喉を湿らせる。

 それから彼女のことを窺う。

 どこまでも無表情だ。もとから好かれてるとは思えなかったが、今回のこれで完全に嫌われたな。全く山本は七面倒くさい仕事を持ち込んでくれたものだ。かと言って橘の前で助けてやると啖呵を切った手前、すごすごと逃げ出すわけにも行くまい。


 彼女の行動理念をなしているものを覆せる何かを俺は持っているだろうか。話は平行線を辿り落ち着く場所を失ってしまっているように見える。

 俺が論理に則り、客観的に語っても、彼女が悪感情の中に閉じこもる限り、俺の言葉など届かない。理性と感情が相容れないことくらいは、俺でも十分わかっている。

 否定するだけでは、彼女は俺の話を聞こうとしないだろう。


 俺は声のトーンを穏やかにして、彼女に話しかけた。

「……お前、誰かを本気で好きになったことないんだろ」

 そしたら蒲郡は心外といった様子で答えてくる。

「そんなことはないですよ。山本先輩のことは本気でいいなあって思ってましたし」

「嘘だな」

 俺はそれを即座に否定した。

  

 蒲郡は眉を(ひそ)めた。

「どうしてそう思うんです?」

「だってお前、あいつに恋人がいるの知っててちょっかいかけてただろ。本気で相手のことが好きなら、相手に迷惑がかかるようなことは絶対しない」

「……」


 黙り込んだ彼女に対し、俺は続けた。

「お前が男嫌いでその理由もある程度納得行くものだっているのはよくわかった。だけどな、お前がやってることはゴミの山からゴミを見つけて『これはゴミだ!』ってひとり叫んでるようなもんなんだぜ」

「いや、先輩何言ってんですか?」


「だから、男が大抵クズだっていうお前の所見は、正しいだろうよ。俺もまあ否定はできない。だけど、たまにはいいやつもいるだろ。一見ゴミに見えても、使いみちはある。ゴミ山でゴミを見つけるのが簡単なのは当たり前さ。だけど宝を探すのは難しい。今のうちにやめておかないと、後になって正しいやり方がわからなくて後悔することになるぞ」

「……そんな、女は男とじゃなきゃ幸せになれないなんて、……古いですよ」

「じゃあお前は今幸せなのか?」

「……」



「お前の生き方じゃまず幸せにはなれない。ゴミ漁りで幸せになることは絶対ない。

 知ってるか? 人間の脳っていうのは、悲しいかな、一つのことに集中するといろんなものを見逃しちゃうのさ。お前がよりクズな野郎を探そうと躍起になっていれば、本当にお前の人生に良いものをもたらしてくれる存在を見逃しちまう。

 もちろん女一人じゃ幸せになれないなんて前時代的なことは言わないけど、お前がやってることは、とりあえずお前の人生にとってマイナスにはなり得てもプラスにはならない。他の人間の人生をぶち壊して、恨みを買う分余計な」


「……私は」



「だからさ、無益なことは辞めろよ。人生一度きりなんだぜ。お前のために生きたらどうだ? 無理に男に惚れろとか言ってるわけじゃないんだ。楽しく生きて、そんでいつか本気で誰かに恋したら、お前の世界に対する見方も変わると、俺は思うぞ」



 蒲郡は二、三秒何も言わなかったが、目を伏せてから静かに鼻で笑った。しかしどこかしおれた様子に見えた。


「そんな恥ずかしいセリフ、よく後輩の女の子に向かって言えますね」

「俺は華の男子高校生だからな。歯が浮くようなセリフだって言ってやるよ。そんで後で死ぬほど後悔するんだ」

「やっぱり先輩、アホですよ」

「かもな」


 蒲郡はカップの残りを飲み干してから

「なんか寒いこと言われて、さすがの私も白けちゃったので、今日は帰りますね」

 そう言って、飲み物代をテーブルに置いて、そのまま出ていってしまった。


 残された俺は天井を仰ぎ

「はぁ。どうもならんなぁ」

 と一人ため息をついた。


  *


 翌日の放課後、俺は部室に向かった。既に橘と安曇が来ていた。蒲郡は来ていない。


 俺は適当に挨拶をして、自分の席についた。


 そこで橘が

「蒲郡さん、しばらく部室には来ないそうよ」

 と静かに言った。

「……そうか」

 俺も静かに返した。


 橘と安曇は俺が驚かなかったのを見て、不思議そうにお互い顔を見合わせたが、それ以上突っ込んで聞いてくることはなかった。


  *


 言葉通り、蒲郡はその後しばらく部室に姿を見せることはなかった。


 すっかり彼女のことが頭の片隅に追いやられた頃、月が変わって連休前の夕方のこと。


 週に一回まで減っていた部活動をしに部室を訪れたところ、なんとそこには橘と安曇の他に、蒲郡が我が物顔で座っていた。


 蒲郡は俺が部屋に入ったのを見るなり咎めるような口調で言った。

「あ、先輩。遅いですよ。というか部室来るの随分久しぶりですねぇ。先輩ってそんな顔でしたっけ?」


「……久しぶりって、それ俺のセリフだろ?」

「何言ってるんですか? いつ部室に来ても、いなかったのは先輩のほうじゃないですか」


「え? そうなの?」

 俺が確認を取るように安曇の方を見たら

「うん、茉織(まおり)ちゃん、まるもんの来ない日に結構来てたよ? というか茉織ちゃんの方が部室来てたと思う」

 と答えた。

 いやだって、部活週一にしたのみんなで決めたことじゃん。なんで俺だけサボってるみたいな話になってんの?

 というかそれ絶対蒲郡が、俺がいない日狙ってきてない? 俺めっちゃ嫌われてない?

 ……まあ、それは俺のせいなのかもしれないけど。小言を言う相手と好き好んでつるむ奴もいないか。


「まあ今日は先輩に話があって来たんですけどね」

 すっかりくつろいだ様子の蒲郡が、少し真面目な表情で言った。


「……そうか」


「というわけで、橘先輩、先輩をちょっとお借りしますね」

「別に彼は私の所有物じゃないわ。煮るなり焼くなり好きにして」


「それを言う権利も君にはないと思うんだけど」



 俺は蒲郡に連れられ、校内の人気のないところに来た。


「で、話って?」

「一つ確認したいんですけど」

「なんだ?」


「……本気で誰かを好きになったら、本当にいいことあると思っていますか?」

 蒲郡はそう言いじっと俺の目を見てきた。


「……俺はそう思う。欲を言えば、誰かを好きになって、それで相手にも好きになってもらえれば、まあ幸せって言えるんじゃないの? でも片思いでも、少なくともお前が今まで見てきた世界とは別なものが見えるようになると思うよ」


「……そうですか」

 彼女は言葉を咀嚼するような表情を見せた。

 俺は黙って、次の言葉を待った。


 蒲郡はふぅと息を吐いて

「……分かりました。なんか先輩の口車に乗せられた気もしますけど、取り敢えずしてみますよ」

「何を?」


「本気の恋ってやつです」

「あ、あーなるほどね。分かった。……よしよしいい子だ」

 

 蒲郡はじっと俺を見ている。

 数週間越しで覚悟を決めた彼女は前よりも強く見えた。


「……でも、先輩が私をそっちの世界に引きずり込んだんだから、最後までちゃんと責任取ってくださいよ?」


「というと?」


「私の恋人として相応しい人を見つけてくるまで、先輩は一生私の奴隷です」

「えぇ。なにそれ」

「できなきゃ切腹ですよ?」

「まじか。でも相応しい人って言われてもなぁ」


 俺の言葉を受け蒲郡はいたずらっぽく笑い

「基準としては、先輩がギリギリ補欠合格ぐらいです」

「……それ喜んでいいのか微妙なラインだな」

「両手を上げて喜ぶべきですよ。先輩気づいてないかもしれませんが、私かなりの美少女ですから」

「ああそうなの」

「うわぁ、反応薄いなぁ」

「だって俺別にお前に惚れてないし」

「そこはゲス男子代表として、愛してるぜとか思ってもないことを軽薄に言うべきだと思うんです」

「うん、絶対言わない」

「そのくらいじゃないと女の子はクラっときませんよ?」

「じゃあ俺一生独身でいいや」

「おい」


 彼女は笑った。俺も笑った。

 二人で思う存分笑って、にじみ出た涙を拭きながら、蒲郡は言う。

「一応細かい打ち合わせしときたいので、今日カフェにでも行きません?」

「分かった」


  *

 

 打ち合わせとは名ばかり。滅茶苦茶な要求をする蒲郡に対し、俺が突っ込んで、それで無益で馬鹿みたいな話の応酬をして振り出しに戻る。それを何度も繰り返した。

 笑顔に溢れた楽しい時間だった。


 話を終えて二人でカフェの外に出た。日が傾いて、辺りはオレンジ色に染まっている。

 自転車に乗ろうとしたところで、蒲郡が後ろから声をかけてきた。

「先輩」

「ん?」

「これからよろしくお願いしますね!」

 そこにはもうからっぽの笑顔ではなく、心の底から笑う彼女の笑みが夕日に照らされ浮かび上がっていた。


スピンオフで書くにはテーマが重すぎたなと反省するの巻


新作短編書きました。例のごとくラブコメです

愛の告白大作戦

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「ひまわりの花束~ツンツンした同級生たちの代わりに優しい先輩に甘やかされたい~」
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