9話
騒動から数日後。
婚約の件は、とりあえず保留になった。
あのチャラ国王が引くレベルの説得をしたらしい。何を言ったんだ。まぁだいたい予想はつくけどさ。
まぁそれは良いとして。
父が、騒動以前より、確実に構ってくるようになった。
あと、私との親子の絆を深めるため、とかいう理由で二週間の有休を取った。今頃部下は泣いているだろう。いいのか、国家の重鎮。
「アメリアー!馬で遠乗りしに行かないかい?」
「アメリア、美味しいお菓子をいただいたから一緒にお茶をしよう!」
「アメリア、可愛いドレスを買ってきたよ!」
エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ。
今日はどうやらピクニックに行くらしい。
毎日こんな調子だ。
まぁなんとなく想定はしていたけど、正直ここまでだとは思っていなかった。
___実は、作戦の衝撃を大きく与えるために(流石に気絶するとは思ってなかったけど)作戦以前、私は意図的に父を避けていた。
どうやら父は、それを私に嫌われてると思い込み、婚約の話を事前にすることができなかったらしい。
それで今回の騒動が起きたため、父はその誤解に気づき、前述の通りうざいほどに構ってくる。
確かにうざいけど、嫌じゃない。
私は意外にも父の愛情に飢えていたらしい。精神年齢が、二十二歳だとしても。
___だって、前世では、両親がいなかったから。
リリーに髪の毛をすいてもらいながら、少し、前世のことを思い出す。
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私は、児童養護施設で育った。
だから両親のことなんて知らないし、唯一、両親からもらったものは「未花」という名前だけ。
親がいないことでからかわれたこともあったけれど、そんな子たちに負けたくなくて、勉強も、運動も、なんでも一番になれるように頑張った。
もちろん、養護施設のおばさん達はたくさん褒めてくれた。たくさん抱きしめてくれた。
だけど___なんとなく、寂しかった。
どれだけ頑張っても母と父は迎えに来ない。褒めてくれない。そんな気持ちが、いつもどこかにあった。
だけど、季節はどんどん巡り、養護施設の中でも高い方の年齢となった。
必然的に、小さな子達の面倒をみることになると、毎日毎日忙しかった。
誰かの世話をして、忙しくしている間は、寂しい気持ちを思い出すことはなかったし、誰かを助けることで言ってもらえる「ありがとう」の言葉が、心の穴を埋めてくれている気がした。
そして、確か私が12歳くらいの時だろうか。
『養護施設の子どもの声がうるさい』と近隣住民から声が上がったのだ。
どうすることもできず、ただただ肩身の狭い思いをしていた時、私はあることを考える。
それが、町全体のお手伝いをすることだ。
桜木町の住民を助けることで、養護施設の印象を良くする。
私はたくさん感謝の言葉をもらえる。
心が満たされる。
悲しいけれど、その循環は私にとっても好都合だったし、いつのまにか、住民による苦情は減っていった。
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お人好しな性格もここから生まれたんだよなー、と思い出しつつ感じた。
そういえば、頼仁くんはどうしてるんだろう。
私の最後のお人好しで救った男の子。
そして、私のことを救ってくれた男の子。
今はもう16歳か。
「アメリアー!ピクニックの準備はできたかい?」
部屋まで迎えに来たのだろう。ドアの外から呼びかける父の声に、はっと意識が呼び戻される。もう少しで終わるという旨を伝える。
「お嬢様、今日はこちらの黄色いドレスでどうでしょうか。」
「それでいいわ。ありがとう。」
急いでリリーにドレスを着せてもらう。
ドアを開くと、父に抱きしめられた。
「リア、とっても可愛いね!下でアンナとアロイスが待っているよ。早く行こう。」
抱っこされたまま、玄関へと向かう。
「お父様、ありがとう。」
___今は、この愛情を大事にしよう。
ちょっと過去に触れた回でした。
次回は閑話です。