6話
廊下を走りながら考える。
___廊下、何メートルあるんだよ!
たしかに前世ではかなり足が速かったが、それは高校生の体力だったからだ。今はただの四歳児。100メートルも走れば息が切れて意識が朦朧とする、がここは根性である。
走り始めて約10分すると応接室のドアが見えた。
「とにかく、婚約の話に向かわないようにしないと!」
と小さく呟く。
何故ここまで躍起になって婚約を結びたくないかはある理由がある。これはゲームではきっとわからない。
その理由は、貴族世界に蔓延る、いわゆる「面子」とか「見栄」とかそういう部分が主だ。
例えば。
ヒロインが転校してきて、婚約者が彼女に夢中になるとする。破滅エンドが怖いなら、これを無視してすればいい、つまり泣き寝入りしてヒロインに婚約者を譲ってしまえば良いと思うかもしれないが、それはできないことなのだ。
それにはヒロインは準男爵家、私は公爵家という身分差が大きく関係する。
つまり、もし、私がヒロインを諌めなければ、準男爵家の娘にも注意することができない無能で臆病な公爵家、として見られてしまうのだ。
言っちゃえば、私のお家がナメられる、ということだ。
無論、ゲームのアメリアはやりすぎっちゃやりすぎではある。だが、やりすぎだったとしても彼女のとった行動は貴族的ではあった、ということなのだ。
だから、ヒロインが婚約者に惚れたり、婚約者が私との婚約を解消しないままヒロインと恋をすることはご法度なのである。
多分、そうなれば私は死ぬ確率が高くなる。
だって、もしいじめないとしてもね、私がヒロインと婚約者がどうこうなってることを注意したら、その逆恨みで私を殺す、とか、ただ単に邪魔だから殺す、とかありそうじゃないですか。
特に、ヒロインが私と同じ転生者であった場合は。
だから私は考えた。
そして、根本的な問題である「婚約」をしなければ良いという結論に至ったのだ。
「よし…いくぞ。」
流石に緊張する、が死ぬよりはマシだ。
私は意を決して、ドアノブに手をかけた。
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