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東棟南階段、放課後

 東棟の南階段は、おそらく、校舎内でもっとも利用者の少ない階段だろう。幽霊がいると噂される西棟北階段よりも、である。


 理由としては、まず、南階段が東棟の端にあること。廊下のつきあたり、すべての教室の奥に階段はある。そこを通ることによって近道になる場所もないので、通行人の総数が少ない。次に、エレベーターによって階段の存在が隠されていると言っても過言ではない造り。存在を知らない生徒もいるだろう。

 最後に、階段の手前の教室がGクラスであること。東棟の教室は二階から四階に、三年、一年、二年の順で存在し、北から南へ、AからGが並ぶ。小学校のクラスがABCGの四つであったことから、Gクラスが特別であることは自明の理。高校にまで上がっても、Gクラスだけはクラス替えに関わらず、少人数だ。

 二年生の担任は朽木先生。名前からすぐにわかるご令息、ご令嬢もいるが、雲洞谷さんのような出自が謎の人も、日野さんのように某元国会議員の愛人の娘であると知れ渡っている人もいて、混沌としている。通称、ジェントル・クラス。偏見かもしれないが、私の見てきた限り、彼らはあまり階段を使わない。


「日だまり同盟って、Gクラスの人が多いの?」


 東棟三階の廊下を南へ進み、エレベーターホールに差し掛かったあたりで尋ねた。直前に通り過ぎたGクラスの教室は空で、生徒はすでに帰宅したか、部活動に向かったのだろうと思われる。


「ああ。たいていGかFだな。と言っても、二年では三人だし、他の学年も似たようなものだから、全部で十人いるかいないかってとこだ」


「永原はFクラスだったね」


「フットマンのFな」


 永原は笑ったが、軽口か本気かはわからなかった。ジェントル・クラスと同じように言われるフットマン・クラスだが、それはたいてい揶揄か侮蔑だ。

 親の力関係による取り巻きにしても、本気で忠誠を誓っているとか、職務として忠実である場合は少ない。そもそも、学園内では一個人として生活することが原則だ。ただ、永原が本気で誰かの従僕をするなら、可能性は限られていた。


「ご主人様は、雲洞谷さん?」


「なんて言うかな。今どき古いって思うかもしれないが、オレの家がずっと、彼女の祖父の家に仕えてるんだ。うちと、柏原先生の家と、あと二つ。それで、まあ。オレは同い年だから。あー、そうか、そういえば朽木先生と柏原先生も同い年だったな」


「いや待って、朽木先生がなんで出てくるの」


「あの人、雲洞谷さんの父親だから」


「は!?」


 足が止まった。周囲を見回したが、こちらを見ている誰かはいなかったのでほっとする。なぜ私が慌てたり安心したりしなければならないのか。


「あ、これ知らないか」


「知ってるわけがないでしょ。いや、あの二人が仲良いのは知ってるけど、朽木先生の家が時代錯誤なのも知ってるけど」


「だいたい全部その時代錯誤のせいだよ」


 雲洞谷さんと朽木先生が親子であると誰も知らないのが、という意味だろうか。私が好奇心で突っ込んでいい部類の話ではなさそうだ。これでも代々公務員の家系。秘密主義も隠蔽体質も、幼少期から身に沁みついている。聞かなかったことにしよう。


「でも、雲洞谷さんは小学校から学園でしょ。永原はなんで高校から?」


「そこ聞くか」


「え、だめだった?」


「あー、別に。入試落ちただけ」


「ほー。容赦ないね」


 裏口入学とか、学園側から便宜をはかってもらうとか、無かったのだろうか。小学校の入試で落ちるって、まさか親のせいではないだろうから、永原がいったい何をしでかしたのか。思ったことが顔に出ていたのか、永原は「隠密だから仕方ないの、バレないことが最優先なの」と言い訳じみた言葉を並べた。


 エレベーターの向こう、南階段へ足を踏み入れる。北階段と変わらない。しいて言えば、人通りが少ないためか、痛みや汚れが少ない。


「ここの一番上」


「うん」


 永原が指さした先へ、進む。


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